2018年03月02日 (金)高梨選手を見ていて思った「あれ、何?」


※2018年2月13日にNHK News Up に掲載されました。

注目を集めた高梨沙羅選手のスキージャンプ、女子ノーマルヒル。最後の2本目のジャンプは午前零時近くになったにもかかわらずたくさんの人が声援を送りました。ところでこのスキージャンプ、選手によってスタート位置が何度も変わり、私は見ていて「あれ何?」と驚きました。位置を変えたら、飛距離も変わるし、フェアじゃないよ…。気になって調べてみるとこれって9年前に変わった新ルールでした。

ネットワーク報道部記者 郡義之・宮脇麻樹

are180213.1.jpg

<スタート地点が変わる?>
12日夜に行われたスキージャンプの女子ノーマルヒル。テレビ中継を見ていると、競技が途中で何度か中断。

are180213.2.jpg高梨選手も毛布のようなものを体にかけて、震えて待っている姿が映っていました。

中断をしている間、競技の関係者はスタート位置を決める「ゲート」の位置を上げたり下げたりしています。

「でも、スタート位置を変えたら、飛距離も変わるし、同じ条件でやらないとフェアじゃないよ」
そんな気持ちになって見ていました。


<9年前にできた新ルール>
札幌出身ですがジャンプ競技に疎い記者(郡)とスキー未経験の記者(宮脇)。競技の事は専門家にと、全日本スキー連盟に聞いてみました。

「これは、ゲートファクターとウインドファクターというルールですね」

なかなか聞き慣れない言葉。実は9年前に導入された新しいルールだそうです。もともとスキーのジャンプ競技は、2本のジャンプの飛距離点(飛んだ距離)と飛型点(姿勢など)の合計で競っていました。

ところが2009年夏、これに加えてスタートゲートの「高さ」と「風による影響」をポイントで加減するシステムが導入されたのです。


<スタート位置高いと減点、 向かい風は?>

are180213.3.jpgつまり、スタートゲートが基準よりも高くなると、速度が出て飛距離が伸びるため「減点」されます。逆に基準より低い位置はこの逆で「加点」される仕組みです。

また、勘違いしやすいのが風の影響。向かい風の場合、素人が考えると風を受けて飛びにくくなり「加点」だと思ってしまいますが、実は浮力がつくため「減点」となります。逆に追い風は「加点」されるのです。

このルールが導入される前までは、スタートゲートが変わると、公平性が失われるため、全員が飛び直していたそうです。

連盟の担当者は「この新ルールにより、公平性が担保され、競技の進行がスムーズになりました」
「ただピョンチャンオリンピックのようにゲートの位置が目まぐるしく変わるのはめったにない。それだけ、ピョンチャンは風が変化して、競技も影響されやすいのではないか」
そう話していました。


<決めるのは“ジュリー”>
競技を左右するゲートの位置。誰が決めているのか、全日本スキー連盟に聞きました。

「決めているのはジュリーです」

もちろんあの人ではなくジュリーとは、審判団のこと。世界各国の出身者で構成されています。安全な競技運営のための判断をまかされていて、スタートゲートの位置も天候、風の強さ、選手の実力などを考慮しながらジュリーが決めていくそうです。

are180213.4.jpg12日の中継でも、スタート位置がわずか数分の間に上下に行き来する様子が映し出され、ジュリーたちの苦労ぶりがかいま見えました。

またコーチが作戦としてスタートゲートの位置を変えることもあるそうです。ちなみにスキー連盟によると今回のメダル争いでは優勝したノルウェーのルンビ選手は高梨選手より2段低い位置からスタートしていました。


<強風に悩むピョンチャン>

are180213.5.jpg競技が行われた「アルペンシアスキージャンプセンター」は、2009年に完成した韓国で唯一のジャンプ競技場。強い風が吹くため、防風ネットを取り付けるなど対策がとられましたが、気まぐれな風は、選手を苦しめています。

スキージャンプ男子の葛西紀明選手は、出場したノーマルヒル決勝が強風の影響で中断に次ぐ中断。試合後、「待たされて、スタート前に体が冷えてしまった」と話しています。

スノーボード女子、スロープスタイルでは、強風で予選が中止。全員が決勝に出場することになりそれも、強風で1時間余り遅れてスタート。実力のある選手たちがジャンプで着地を失敗して次々と転倒するという、国際大会ではあまり見られない展開となりました。

are180213.6.jpgこのほか、11日に予定されていたスキーアルペンの男子滑降などいくつかの競技が強風のため日程の延期が決まっています。まさに「風との闘い」です。


<風を味方に>
「風でたたき落とされるような感じで運を味方にできず距離を伸ばせなかった」。これは男子ノーマルヒルの決勝1回目で31位となり、2回目に進めなかった小林潤志郎選手の言葉です。

最大の敵は「強風」といえるほど、きまぐれに吹く強い風に翻弄されるピョンチャンオリンピック。
ジャンプ台が高く、風の影響が強くでる男子ラージヒルなどもこれからです。風を味方につけられるかどうか、それが順位に関わってくるかもしれません。

投稿者:郡義之 | 投稿時間:17時20分

ページの一番上へ▲