2018年12月17日 (月)洋服がつらい、入浴がつらい子どもたち


※2018年11月7日にNHK News Up に掲載されました。

LGBTの子どもたちにとって、学校生活や修学旅行などの集団行動は、大きな困難を伴います。そのつらさが毎日続くのが、家庭の事情で児童養護施設に入所しているLGBTの子どもたちです。ある団体の調査で、苦しい思いをしている子どもたちの実態がわかってきました。

ネットワーク報道部記者 宮脇麻樹

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<LGBTの子 施設のほぼ半数に>

nyu181107.2.jpg私は去年、ある団体が発表した児童養護施設をめぐる調査について取材しました。調査を行ったのは、児童養護施設のLGBTの子どもたちについて考える活動をしている一般社団法人「レインボーフォスターケア」です。

nyu181107.3.jpg去年の調査では、全国の601の児童養護施設のうち、220の施設から回答が得られました。そのほぼ半数、45%が、LGBTとみられる子どもが「現在いる」あるいは「過去にいた」などと答えました。


<洋服や入浴“苦痛だった”>

nyu181107.4.jpg団体はことし、さらに調査を行いました。回答した施設を中心に35の施設を訪問してヒアリングを行い、詳しい内容を聞き取ったのです。その結果、特に心と体の性が異なる「T」=「トランスジェンダー」の子どもについて、受け入れに不安を抱えていたり、子どもたちに我慢をさせていたりする現状がわかってきました。

「心の性は男性なのに体の性は女性という女の子が女子フロアでは『無理だ』となった場合、『あなたは女の子だから』とするしかない」(施設の回答)

「『女の子になりたい、女の子の格好をしたい』と申し出た子に対し、『個人で楽しむのはいいが、オープンにするのはやめよう』と説得した」(施設の回答)

こうした調査の中で、団体は、実際に児童養護施設に入所していたAさん(20代)から話を聞くことができました。Aさんは女の子として施設に入りましたが、自分の性別の認識は、男の子に近かったといいます。調査では、集団生活の辛さを打ち明けました。

「施設に入る時は、自分の所持品がない状態なので、施設にある洋服から選ぶのですが、それが『男子用』『女子用』に分かれていて、女子の服しか選べないことが嫌でした。集団での入浴や誰かと一緒に着替えることも苦痛でした」(Aさんの回答)


<入所断った施設も>

nyu181107.5.jpg団体の代表理事の藤めぐみさんが最もショックを受けたのは、トランスジェンダーの傾向がある子どもの受け入れを断った施設があったことです。この施設は、調査に対して、「知識のない職員が安易に預かれないし、他の児童が戸惑う。それに加えて、施設の児童の実の親が『そんな子どもと暮らしているのか』と思う可能性があり、その点に配慮した」と答えました。

その子どもは他の施設でも入所を断られ、最終的に家庭に戻ることになったということです。藤さんは、「児童養護施設は、事情があって行く場所がない子どもたちが暮らす場所。その施設にまで断られてしまったら、どうすればいいのか」と指摘しています。


<「応援してくれる大人はいるよ」>
一方で、今回の調査では、本人の意向を尊重して対応している施設があることもわかってきました。ある施設では、トランスジェンダーの傾向がある男の子が女の子の洋服を欲しがったことをきっかけに、職員が洋服を買うのではなく、幼児のうちから自分で好きな服を買わせるようにルールを変更していました。

また、LGBTの子どもが施設を出る時、「社会ではつらい思いをすることがあるかもしれない。でも、応援してくれる大人はどこかにいるよ。職員もそうだし、社会に出た後でも他にもいるかもしれないし、そういう人を見つけていきな。言うやつには言わせておけばいい」と伝えているという職員もいました。


<「男女」の役割が苦しい>
私は、児童養護施設の現状をもっと詳しく知りたいと思い、自身がトランスジェンダーの元職員に話を聞きました。取材に答えてくれたのは、生まれた時の性は女性で、現在は戸籍を変更して男性として生活する航(わたる)さん(仮名・30代)です。

航さんは、大学卒業後、女性として地方の児童養護施設で働き始めました。この施設では、男性職員のことを「○○兄さん」、女性職員のことを「○○姉さん」と呼ぶのが決まりでした。また、伝統的ともいえるような男女の役割が決まっていました。

nyu181107.6.jpg「男性は外回りのあいさつをしたり、重いものを持つ」「女性はお茶くみや料理など家のことをする」「女児が男児のご飯をよそう」 こうした中で、航さんは性同一性障害の診断を受けてホルモン治療を始め、外見がどんどん男性っぽくなっていきました。

すると、施設長から「女性として雇っているのだから、子どもたちのお母さん役として母性が感じられるような立ち居ふるまいをするのも仕事の一環だ」と言われてしまったのです。その後もたびたび注意を受け、子どもの担当も外されてしまいました。

体の性の「女らしさ」から外れることで、どんどん働きにくくなってしまったのです。こうした「男女の役割分担」は、ほかの施設でも行われているようで、調査に応じた施設の中には「最近まで女児が男児のご飯をよそっていた」と話したところもありました。


<「カミングアウトはどうしますか」>
つらい環境で働いていた航さんですが、この施設を辞め、別の施設で採用の面接を受けた時に、戸籍を男性に変更する予定だと説明しました。すると、意外な反応が返ってきました。「カミングアウトはどうしますか。周りに言ってもいいし、言って欲しくないなら伏せておきます」と言われたのです。

「以前の施設では子どもが混乱するからカミングアウトはやめてと言われていたので、驚きました。君が働きやすい環境を整えるのはどうしたらいいかと聞かれてうれしかったです」(航さん)


<すべての子どもを1人の「あなた」として>

nyu181107.7.jpg調査を行った団体の藤めぐみさんは、施設に特有の問題を改善してほしいと願う一方で、「予想以上に子どもに寄り添って対応している施設があった」と評価しています。

藤さんは、「LGBTの子どもたちが過ごしやすい施設は、すべての子どもにとって過ごしやすいはずです。調査の結果をこうしたよい例を広げるきっかけにしてほしい」と話しています。

性別やその役割を固定的に考えるのは、集団生活を運営する上で効率的な面もあるかもしれませんが、個性を押さえ込むことにもなりかねません。児童養護施設は、人間関係など、ほかにも気を遣わなければならないことが多く、きめ細かく対応するのが難しい場合もあると思います。でも、だからこそ、「男の子だから」「女の子だから」だけでなく、1人の「あなた」として尊重されることが、子どもたちが施設を離れ、社会で生きていく上でも、大切なことなのではないかと感じます。

投稿者:宮脇 麻樹 | 投稿時間:15時39分

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