2018年02月20日 (火)"男女"じゃない、それだけで


※2018年2月1日にNHK News Up に掲載されました。

あるカップルがいました。2人はこれからの人生を共に生きていこうと決め、家を買うことにしました。ところが、2人でローンを組むことができませんでした。また、別のカップルは、どちらか1人に何かあった時、残された子どもと一緒に暮らせなくなるのではないかと不安を抱えていました。「男女というカップルではない」 それだけで直面した課題の数々です。

ネットワーク報道部記者 宮脇麻樹

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<家探し、断られた末に>

dan180201.2.jpg都内で公立学校の教員をしているタケシさん(仮名・50)。

自分がゲイと気づいたのは中学生の頃です。

誰にも言えずに悩み続けました。

“好きな人と生きていく” 

みんなが当たり前に憧れる人生を思い描けなかったのです。

何度も「死にたい」と考えました。

そうした中、雑誌の文通で9歳年上のいまのパートナーと出会い、交際をはじめました。

「ずっと一緒にいたい」、タケシさんはそう思い、部屋を探そうとパートナーに相談しました。パートナーは「同性どうしはどうみられるのだろう」と心配していました。
部屋探しを始め、2人で不動産会社を回りましたが、やはり「男同士は…」と断られ続けました。理由を尋ねると「家賃を滞納されたことがある」「家を汚されたことがある」と言われました。
何軒か目に入った小さな不動産屋。ここではじめて「大家さんに聞いてあげる」と言われました。

大家さんに会うと、「管理費を2倍払うなら」と言われました。断られ続けていたタケシさんは、条件に差をつけられたことを気にするよりも、ようやくアパートの部屋を借りることができたとほっとしました。

しばらくの間、2人は他の住人の2倍の管理費を払って住み続けました。


<ローンが2人で組めない>

dan180201.3.jpgやがて2人は自分たちの家を買うことを決めました。

タケシさんの愛するパートナーは、子どもの頃からずっと借家住まいでした。家を持つことに憧れていたのです。

金融機関にたずねるといつものような言葉を言われました。
「同性カップルは2人でローンを組むことはできない」
「またか」と感じました。それでも家が欲しかったので“しかたなく”年下で長く働けるタケシさんが1人でローンを組みました。


<”もしも”のために>
タケシさんは、今度はもし自分が重い病気になって、判断能力がないくらい厳しい状態になったら、家の名義人でないパートナーは追い出されてしまうかもしれないと考えました。

そこで財産の管理に関する「公正証書」を作ろうと考えました。「もしものことがあった時、パートナーに財産の管理を任せる」。

そうした証書を作りたかったのです。でも嫌な情報が入ってきました。ある公証人役場で「そうした内容の同性カップルの公正証書は、作れない」と断られたと聞いたのです。


<愛情と信頼に基づいて>
そこで別の公証人役場に2人で行きました。対応した公証人は偶然、同性カップルの証書を作ったことがある人でした。

文書の中に「愛情と信頼に基づいて共同生活を営んでいる」という文言を入れて財産に関する証書を作成してくれました。そんな風に周りから認められたことは、これまで一度もありませんでした。

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<いま一番の望みは…>
2人が交際を始めてから、25年になりました。

何があってもおかしくない年齢になり、去年の春、遺言状も作りました。

いま、心配なのは葬儀です。2人とも両親にゲイということをカミングアウトせず、カップルとして暮らしていることも伝えていません。葬儀は親族が行うことが通例で、互いが喪主になれるかどうかわからないのです。

「人生の最期にパートナーをきちんと見送れるのだろうか」
「2人で築いたものを誰かに奪われないだろうか」

タケシさんはそんな不安を感じています。


<お互いの連れ子と5人で暮らす>
別の心配をしているカップルもいます。

小野春さん(46)は、バイセクシュアル。26歳の時に男性と結婚し、長男、次男を出産しましたが、子どもが6歳と3歳の時に離婚しました。

シングルマザーとなり、どう生活していけばいいのか困っていたところ、知り合いだったいまのパートナーの女性が助けてくれました。

そして、パートナーの娘も含めて、5人で生活をするようになりました。

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<結婚していたころと同じなのに>
「今の暮らしは、異性と結婚していた頃と何も変わらない」と小野さんは言います。2人で子どもを育てていることも一緒、互いに助け合って生活する感じも一緒。

でも、変わらないのは家の中だけでした。

外の社会では、同性パートナーというだけで「ダメ」と言われることが多いのです。

例えば子どもが入院した時。泣き叫ぶ子どもを抱っこしていた小野さんは、入院手続きをパートナーに頼みました。すると、保護者とは認められないとして、病院の職員から「元夫でもいいから血のつながった人を連れてきてください」と言われました。

同性どうしではそんなことも認められないのかと思いました。


<つきまとう心配>
小野さんの心配は「何かがあったら終わり」ということ。

例えばパートナーが死亡したら、パートナーが連れて一緒に育ててきた娘との関係はどうなるのか。
法律上は、小野さんと娘は赤の他人。自分に親権はない、親族に引き取られたら、面会する権利があるのかもわからない。もし「会わせない」と言われてしまったら、どうすればいいのだろうか。そんな不安が募るのです。


<私たちも”同じ”カップル>
住宅ローンについては、去年、一部の銀行が同性2人の収入を合算してローンを組めるようにする取り組みをはじめました。

でもいまだに、「男性同士不可」と堂々と入居条件に書いてある物件もあります。

dan180201.6.jpg入院の時はパートナーを家族と認めてもらえなかった小野さんもそうですが、時と場合によって家族と認められたり認められなかったりする経験を同性カップルの人たちはしています。

LGBTという言葉は知られるようになってきましたが、当事者の人たちはいまも日々の生活の中で、困難に直面し続けています。

男女のカップルと同じように互いを支え合い、男女のカップルと同じように2人でいることに幸せを感じ、男女のカップルと同じように子どもを育てている。

でも男女のカップルでないだけでつらい思いをしなければいけないことっておかしいと思うのです。
「男性と結婚していた時と、何も変わらない暮らしをしている。同じ暮らしをしているのだから同じ扱いにしてほしい」

今回の取材で小野さんが何度も口にした言葉です。

投稿者:宮脇 麻樹 | 投稿時間:11時30分

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