2016年06月28日 (火)"家族"をつくりたい同性カップルたち
※2016年3月4日に放送されたものです。
去年11月、
東京・渋谷区が同性カップルに対し、
パートナーと認める証明書を発行。
同性愛や性同一性障害など、
いわゆるLGBTの人たちがつくる
新しい形の“家族”に注目が集まりました。
NHKが専門家の協力を得て
LGBTの当事者にインターネットでアンケート調査を
行ったところ、2600人が回答。
中には「現在、パートナーがいる」と答えた人や
今はいないが「子どもが欲しい」と答えた人もいました。
同性カップルによる子育て。
街の人たちに聞いてみると。
~街頭インタビュー~
(40代女性)
「いい家庭環境が保てて、子どももいい環境で
育っていけるのであればそれはいいことだと思うんですね。」
(10代男性)
「どっちも、お母さんもお父さんも
男の方だったり女の方だったりするというのは、
ちょっとまだ浸透していないので、
違和感は感じるかなと思うんですけど。」
LGBTの人たちが家族をつくる、子どもを持つというのは
どういうことなのか考えます。
自治体や企業など同性カップルを家族同様に扱う
動きが広がっていますが、
同性カップルでも
子どもを持つことができるんでしょうか?
異性と結婚をして子どもを持ち、
その後、離婚して同性のパートナーと一緒になるケースや、
同性カップルの女性が第三者の男性から
精子提供を受けて子どもをもうけるケースがあります。
この場合、戸籍上、産んだ女性はシングルマザー。
産んでいない女性は、同居して一緒に子育てをしていても
法律上は子どもとは他人ということになります。
同性カップルで子どもを持つということは
どういうことなのか。
家族が欲しいと願うLGBTの人たちの現状を取材しました。
都内のビルの一室に集まったのは
“子どもが欲しい”と願うLGBTの人たちです。
どうしたら子どもを持てるのか。
子どもを持ったらどんな困難に直面するのか
具体的な課題を話し合いました。
(参加者の声)
「子育てをするにあたって、どうしても職場で
カムアウトしていかないといけないのかなあと思って。」
「子どもができて、他の家族とふれあうのが幼稚園とかで、
他の子と、だんだん交流し始めて自分のうちと他のうちが、
どうやら違うってなったときの説明の仕方に悩む。」
かつて同性カップルが子どもを持つことは
想像もされていませんでした。
しかし体外受精など生殖補助医療技術の発達に伴い
日本でも現実味を帯びてきています。
実は、NHKが行った
LGBTの当事者へのアンケート調査では、
すでに子どもがいると答えた人もいました。
同性カップルの人たちはどのような思いで
子育てをしているのでしょうか。
都内に住むまゆみさん(仮名)と
女性のパートナーのヤドちゃん(仮名)です。
まゆみさんが産んだ4歳の子どもと一緒に暮らしています。
2人が出会ったのは17年前。
一緒に暮らす中で子どものいる家庭を
築きたいと思うようになりました。
(まゆみさん)
「産んだ後に不幸にしてしまうんじゃないかとか、
私たち自身がとらわれて落ち込んでやめようかと思った。
それだからといって
子どもを持つことをあきらめられなかった。」
悩んだ末にまゆみさんは知り合いの男性に
精子を提供してもらうことにしました。
最も配慮したのは、男性との関係です。
子どもが将来“父親に会いたい”と
言ったときは会えるよう、連絡を取り合い、
子どもの成長を見守ってもらうことを約束してもらいました。
5年の年月を経てようやく男の子を授かりました。
今、共働きのまゆみさんたちは協力して子育てをしています。
まゆみさん 「どっちに(保育園に)送って行って欲しい?」
子ども 「ヤドちゃんがいい」
まゆみさん 「ショック、どうして?」
子ども 「優しいから」
まゆみさん 「ひどいよー」
まゆみさんたちは
同じような境遇のLGBTの人たちに呼びかけ、
子育ての悩みなどを共有する
サークル作りにも力を入れています。
(参加者)
「私たちだけっていう感じがしていたんですけど、
他にもこういう形の家族がいるっていうこと自体、
希望と、いけるかもしれないっていう
気持ちになったのがよかったですね。」
しかし、まだ課題はありました。
パートナーのヤドちゃんのことです。
子どもが偏見の目にさらされるのではないか
という不安があったため、
ヤドちゃんのことは、
子育てを手伝う友人だと周囲に伝えていました。
一方で、
ヤドちゃんが家族であることを隠し続けることに、
子どもが戸惑っていることがわかり、
胸が締め付けられる想いがしたといいます。
(まゆみさん)
「やはり大きくなってくるにつれて、
私たちがどう人にしゃべっているかっていうのを
敏感に空気を感じている気配があって、
これ以上ウソをつく姿をあまり見せたくないなと。」
去年の秋、まゆみさんは意を決して、
仲のいいママ友の一人だけに自分たちが
同性のカップルだと初めて打ち明けました。
(メール:まゆみさん)
「いまさらながらのカミングアウトです。
これからも変わらずお付き合いしていただければ幸いです。」
しかしメッセージを送って
しばらく、ママ友からの返事はありませんでした。
(まゆみさん)
「返事がこなかったんですよ。
もう本当に生きた心地のしない1週間で・・。」
そして、ようやく届いた返事には。
(メール:ママ友)
「よろしくお願いします。
めちゃくちゃ温かいステキな家族だと思ってます。」
実は偶然、携帯が壊れていてメッセージに気付かなかったと
ママ友は後で話してくれました。
(まゆみさん)
「すごく励まされました。
1人知ってくれているというだけで相当励まされるし、
この3人が家族であるっていう風に扱ってもらえる
家庭が1家庭あるだけでとてもやりやすいと思います。」
カミングアウトを受けたママ友の一家が
まゆみさんの家に遊びにきました。
いまでは包み隠さずなんでも話せる大切な存在です。
(カミングアウトを受けたママ友)
「当人にとってはすごい覚悟をもって
言ってくれていたんだな。選ばれたんだなと。
もしフォローが必要なことがあれば自分でもできるかなと。」
初めて地域の中でカミングアウトをしたまゆみさんたち。
この先、子どもが思春期を迎えた時、
本人にどう説明し理解してもらうのか、
課題と向き合い続けます。
(まゆみさん)
「私たちの子どもに産まれたことを
誰からも不幸だとは言わせたくない。
少なくとも、子供本人が産まれてきてよかったと
いう風に思ってもらえるように育てたい。」
一方で、同性カップルが
生殖補助医療で子どもを持つことについて
子どもへの影響が大きいと懸念する専門家もいます。
(東北大学大学院 水野 紀子教授)
「ドナー(第三者)の生殖補助医療をつかって
親のために、親の希望で子どもを作ってしまう、
ということについては、これは違う非常に
深刻な問題があると思います。」
日本では、第三者の精子提供で産まれた子どもは
これまでに少なくとも1万人いると見られていて、
そうした子どもが父親を知りたいと
声をあげるケースもあるのです。
(東北大学大学院 水野 紀子教授)
「自分(子ども)がどれほどの
アイデンティティの苦悩を抱えることになったか
ということを言っておられます。
そういう子どもたちを生殖補助医療を使って
作ることに関しては、私は消極的です。」
では、今後どのような議論が必要なのか、
LGBTの人たちの取り巻く問題に取り組んできた
専門家に聞きました。
(早稲田大学法学学術院 棚村 政行教授)
「カップルの人たちが子育てをし家族としての
実質的な役割を果たしながら絆を持っているんだと、
そうすると、
大人の地位とか権利とか立場だけを守るのではなくて
そこに暮らしている子どもたちの利益や幸せを
我々は考えなければならない。
法整備みたいなものを
あるいは社会的な支援が必要かという議論を
今後やはり進めていく必要があると思います。」
棚村さんがいう支援策とは具体的には
▼子どもが自分の出自を知る権利についての議論
▼子どもへの差別や偏見を禁止するルール作り などです。
2020年のオリンピックやパラリンピックを前にLGBTの人たちが直面している課題は今後ますます注目を集めることになりそうです。
投稿者:伊達裕子 | 投稿時間:16時30分