2021年01月14日 (木)新型コロナ 現場へ向かう医師"正直、怖いです"


※2020年4月17日にNHK News Up に掲載されました。

緊急事態宣言から一週間余り。17日、東京都内で1日として最多となる201人が確認されるなど感染は広がり続けています。医療崩壊の危機が懸念されるなか感染症の専門ではない医師や看護師、それに「無給医」の大学院生も最前線に立たされています。命を救う使命感と感染への恐怖。そのはざまで揺れながら現場に向かう人たちから悲鳴があがっています。

ネットワーク報道部 記者 和田麻子/社会部 記者 小林さやか

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新型コロナ対応の要請 “赤紙”例えも

ネット上には、新型コロナウイルスの対応にあたるよう要請された医師や看護師らがみずからの心情を次々に吐露しています。
中には召集令状に例える人も。

「いきなり職場の病棟がコロナ専門病棟になる、一気に20人受け入れるとのお達し。防護服なし、ゾーン分けなし、人員補充なし、呼吸器の取り扱いができないスタッフ多数。国は、医療従事者に赤紙渡してるようなもんですよ」

「赤紙きました。内科系医師だけ、コロナ部隊へ輪番制で動員。危険手当なし。雇用契約ない院生も含まれるとのこと。ほんま終わってる」

専門外の医師も現場へ「正直大変怖いです」

都内の一般病院に勤める眼科医の元にも要請がきました。
感染症の専門外の医師も前線に立たざるを得なくなっているといいます。
取材に応じた眼科医は、今月上旬、新型コロナウイルスに感染した疑いがある人を専門に診察する「発熱外来」にあたるよう要請されたといいます。
そのときの心境を、ツイッターにつづっていました。

shin.2.jpg眼科医のツイッターより
「“赤紙”きました。内科医でまわせなくなった『発熱外来』を担当します。医療崩壊しかけてますよね。正直大変怖いです」

この医師が働く病院では先月中旬ごろ、「発熱外来」を設置し、当初は内科の医師が中心になって対応していましたが、訪れる患者は、2週間ほどで1.5倍に増加。
次第に内科医だけでは限界を迎え、今ではほぼすべての診療科から応援を募って眼科や整形外科の医師なども交代で対応しているといいます。

眼科医
「急速な患者の増加で、パンクした『発熱外来』には疲弊した内科医の代わりに、感染症の知識の乏しい医師を入れてまわさざるをえないのが現状です。誰が言い始めたかわかりませんが、“赤紙”ということばは、同僚や他の医療機関の医師らも使っています。出征する兵士に例えたのだと思いますが、私たちも要請を断れるような状況ではありません」

医療資材の不足 万全な医療できてるとは…

そんな医師を不安に陥れているのが、医療資材の不足です。
患者を診察する際につける「サージカルマスク」という医療用マスクはほぼ底をつき、1枚を1週間使い続けることもあるといいます。

眼科医
「急速な感染拡大で医療資材が足りず、万全な医療ができているとは言えません。人工呼吸器がない病院でも呼吸の状態が悪い患者が入院しています。急変すれば大きな病院に搬送しますが、受け入れ先の病院のベッドもひっ迫しています」

おにぎりの味 確かめつつ現場へ向かう日々
そして、医療現場を守るため、厚生労働省が発表している相談や受診の目安とは別に、お願いしたいことがあるといいます。

shin.3.jpg発熱が37度5分以下で味覚障害や強いだるさ、息苦しさがない場合はまずは自宅待機することです。
医師は、お願いをした理由について、こう話しています。

眼科医
「医療崩壊しかけている現実を知っていただいて、適切な行動をとってほしいと思います。正直、私はあすウイルスに感染するのではないかという恐怖におびえながら診療をしています。いつも食べているおにぎりの味がわからなくなるのではないかと不安になり、味がするたびに胸をなで下ろす日々です。もし私が感染すれば、濃厚接触者である同僚の医師や看護師などたくさんの医療従事者が働けなくなってしまい、本当に崩壊してしまうことを心から恐れています」

「無給医」も前線へ

労働者としての権利が守られないまま前線に動員され始めた医師たちもいます。
大学病院で働く「無給医」と呼ばれる大学院生などです。
医師免許を持つれっきとした医師として医療現場を担っていますが、実習や研究などの名目なので給与がなかったり、受け取るとしても非常に少なかったりするうえ、労働者としての権利も認められにくいと指摘されています。

shin.4.jpg関東の大学病院に所属する大学院生の「無給医」がNHKの取材に応じました。証言によると勤務先の大学病院では4月から「無給医」の動員が始まったといいます。
新たに100人以上の医師が交代で新型コロナウイルスの患者の治療にあたることになり、そのリストをみると氏名が記された医師のおよそ3分の1が大学院生で、いわゆる「無給医」でした。

shin.5.jpg動員される医師のリスト

この大学病院では「無給医」の待遇改善を求める文部科学省の指摘を受けて去年から時給1000円余りが支払われるようになりましたが、明確な雇用契約はないままで雇用保険への加入もないといいます。
職場からは新型コロナウイルスへの対応を指示されただけで、危険手当が出るかどうかや感染した場合に労災が認められるかなどについては説明がなかったということです。

“責務はわかるが…せめて補償を”

取材に応じた「無給医」は「感染を確認するPCR検査を必要なときに受けられるかどうかや、感染した場合に労災が適用されるかもわからない」と新型コロナへの対応で労働環境が一層厳しくなることへの不安を語りました。
さらに、感染を広げないため外部の病院でのアルバイトを断られる事例も出てきているということで、「このまま長期化すると生計を立てられなくなる」と先行きへの不安も口にしました。

shin.6.jpg「無給医」の大学院生
「社会全体が危機に直面する中、医師として新型コロナウイルス対応にあたる責務があると感じているが、せめてきちんとした補償をしてほしい」

支援体制 早急に整備を

医師の労働問題に詳しい「全国医師ユニオン」の植山直人代表は、新型コロナウイルスの対応にあたる医師から悲痛な声が上がる背景には、日本の医療体制ならではの課題があると指摘します。

shin.7.jpg植山直人代表
「大学病院など診療の最前線では、長年のピラミッド構造の中で、若手が物を言えない風潮が根強くあります。労働者の権利を訴えると、『嫌なら辞めればいい』と言われ、ハラスメントを受けてしまう。医師であれば患者のために現場に向かうのは当然だという価値観で前線にかり出されていますが、半ば強制的で拒否できないという実情があります」

そのうえで、今後も医療体制のひっ迫にともない、大学院生などの『無給医』や感染症専門ではない医師の動員がさらに加速する可能性があるとして、国の責任で支援体制を早急に整えるべきだと訴えました。

植山直人代表
「医師たちも1人の人間で、業務を通じて自分が感染したり家族に感染させるのではないかという不安を抱えています。診療にあたる期間、家族から隔離できる宿泊施設を用意したり、診療が終わった後に、PCR検査を全員にしたりすることが最低限必要だと思います。万が一感染した場合、どのような立場の医師でも労災が適用されることを明確に示す必要があります。医師が経済的にも健康面でも守られながら働ける体制を早急に整備してほしいです」

投稿者:和田麻子 | 投稿時間:15時57分

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