2019年08月23日 (金)シフトカットで損してませんか?


※2019年5月14日にNHK News Up に掲載されました。

「あした、お客さん少ないから休んでいいよ」アルバイトをしている皆さん、言われたことはありませんか?シフト表では「出勤」。時間を空けていたのに急に言われてもバイト代も出ないし。会社側の都合だけで一方的にシフトが減らされてしまう「シフトカット」。しかたがないと思っている人も多いと思いますが、休んだ場合でも休業手当をもらえるってこと知っていますか?

ネットワーク報道部記者  目見田健・ 野田綾

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<出勤日が週5日→週1日>
「シフトカット」の経験があるという名古屋市の20代の女性に取材ができました。

女性によると、求人誌を見ておよそ1年前から地元のカフェでアルバイトを始めたといいます。
採用面接で説明されたのは週5日・1日6時間勤務。しかし、3か月前から勤務時間と日数が減り出したといいます。

まず、1日のアルバイト時間が6時間から半分の3時間。
さらに勤務日数が週5日から週3日に減り、そして週1日に。

shihuto190514.2.jpg女性の説明によると「シフトカット」でアルバイトの収入は4月は1万5000円あまりに。実家暮らしの女性は、アルバイトの収入の大半を学費と家に入れるために使っていて、お金はほとんど残らない状態になりました。

大学生などアルバイトの同僚はおよそ10人。1日のアルバイトは3、4人でまわすことになっているそうです。

店からシフトが減った理由の説明はないそうですが、女性は「アルバイトの人は多いのにさらに人を雇っているからだ」と感じています。

「シフトカット」については「しかたないものだと思っています」と話しています。

1週間ごとに店から渡されるアルバイトのシフト表は前の週の金曜日までわかりません。女性はシフトカットの影響で他のアルバイトも始めることになりました。

<”シフトカットで生活できない”>

「平日と土日の忙しさの落差激しく平日はほとんどシフトカットの日々」
「これ以上シフトカットされたら生活できない」
「最近ヒマでシフトカットが酷い」

shihuto190514.3.jpg「シフトカット」に困っているという悲鳴がネット上に相次いでいます。大型連休が明けた5月。大学生や専門学校生が入学して新しくアルバイトを始めるシーズンです。

「シフトカット」の実態はどうなっているのか。泣き寝入りしないといけないのか取材を進めました。

<一方的にシフトが減らされる>

そもそも「シフトカット」とはどういったものなのでしょうか。

「シフトカット」は会社側の都合だけでシフトを一方的に減らされ勤務の日や時間、それに賃金が極端に少なくなってしまうものです。

求人広告や採用面接の際には「週○日 1日○時間」などと労働条件が記されています。働く人もその内容をみて収入の見込みを計算し働き始めます。

しかし突然の「シフトカット」で収入の大幅な減少。パートやアルバイトで働く人たちが増える中で「なぜ、一方的に仕事が減らされるのか」、問題視する声が相次いでいます。

<大学生の3人に1人が経験あり>
ブラック企業を社会問題としてとらえ解決に向けた取り組みを行う『ブラック企業対策プロジェクト』は平成26年に全国の大学生を対象に労働環境についてのアンケート調査を行い、4700人余りから回答を得ました。

すると、ほぼ3人に1人が会社の都合でシフトを減らされた経験があることがわかりました。

業種別に見ると、「居酒屋」「ファストフード・コーヒー店」「その他飲食店」でシフトカットの経験がある人がいずれも40%を超えていました。

shihuto190514.4.jpgその実態を聞くと「休みの日は保留というかたちで知らされ、前日までに連絡がなければ休みだが、前日に明日は何時何分からと知らされるときもある」
「店が落ち着くと早上がりを強制される」
「天候によって客の入りが少ない場合、時短となる」
「人件費がかかるからという理由で当日にシフトを削られる」という声もありました。

shihuto190514.5.jpgアンケート調査に参加した中京大学国際教養学部の大内裕和教授は「多くの学生は親からの仕送りが限られているために生活のためにアルバイトをしています。大学生が1日に使える金額は平均で700円を割っており、この中でシフトを急に減らされたりすると生活できない、食べられないということに直結します。使い勝手よくシフトの組み込まれているが、アルバイトをしないと生活できない学生は足下を見られており、文句が言えない環境になっています」と指摘しています。
また人手不足のはずなのに企業はなぜ、「シフトカット」を行うのか。
その理由について大内教授は「飲食店などでは人手不足に困っているが客の数や業務量は多い時もあれば少ない時もあり変化が激しいためにいつも人が足りない訳ではない。ただ、アルバイトを多く確保していれば急に忙しくなったとしても新たに人を雇う必要はなく時間も経費も抑えられる。忙しさに応じてアルバイト一人一人の仕事量を会社の都合で調整することで対応しているのではないか」と分析しています。

<休業手当は支払われる!>
会社側の都合で減らされた「シフト」。従うしかないのでしょうか。

「実はシフトカットから労働者を守る法律があるのです」と東京の渋谷労働基準監督署の担当者が教えてくれました。
「会社側の一方的な都合で勤務日を減らされる場合は平均賃金の60%以上の手当を休業手当として支払わなくてはいけないことになっています」

shihuto190514.6.jpg労働基準法26条では、
▼勤務表では勤務日となっているにもかかわらず直近になって忙しくないからと休みにさせる場合や、
▼契約で約束した勤務日数と比べ同意なく日数が減らされた場合平均賃金の60%以上が休業手当として支払われることになっています。

▼また客足が減ってきたから早上がりを強制させられるといった場合も、減らされる時間によっては休業手当が支払われる場合もあるということです。
窓口で相談を受ける際、契約の内容も減らされたシフトの日数もすべてあいまいなことも少なくないということで、労働基準監督署の担当者は「会社側と約束した勤務の条件などは口頭で済ませずすべて記録として残してほしい」と話しています。

<知っててほしい3つの対策>
ただ、ほとんどの学生は「人間関係を悪くしたくない」などと、会社と争ったりはしていません。

shihuto190514.7.jpg「シフトカット」の実態に詳しい南山大学法学部の緒方桂子教授に、アルバイトを始めるに当たって知っておくべき対策について聞きました。緒方教授は3つの対策を教えてくれました。
(1)「労働契約書をきちんともらうこと」
労働基準法では、会社は労働者と労働契約を結ぶ際は、条件を明示した書面を交付しなければいけないとしています。

しかし、南山大学がおととし在学する学生に行った調査では書面を渡されたと回答した学生は54%にとどまりました。
仕事上のミスマッチやトラブルを防ぐために書面をもらい、内容を確認したうえできちんと保管することが、みずからを守るために重要だということです。
(2)「日々の記録をとること」
出退勤の時刻に加え、どういう理由で休まされたのか、何時まで働かされたのか、休憩時間は取れたのかなど、日々の出来事を記録しておくことが大切だと指摘しています。

万が一会社と争わなくてはならなくなった場合、こうした記録が証拠として利用できるかもしれないからです。
(3)「おかしいと思ったらすぐに相談すること」
働き方についておかしいと感じるには何か理由があります。働くうえで不当な扱いを受けたと感じることがあれば、すぐに専用の窓口に相談することが重要です。
相談の窓口は、大学の学生課のほか、労働局の総合労働相談センター、労働基準監督署などがあります。
南山大学では1年生を対象にアルバイトを始めるに当たって知っておくべきことをまとめたパンフレットを作り配布しているほか、労働法についてのセミナーも開いているということです。

shihuto190514.8.jpg南山大学のパンフレット
緒方教授は「アルバイトの立場では会社側に意見しにくいと感じることもあると思いますが、1人で我慢したり悩んだりせず、誰かに相談し、解決策を探してほしいです」と話しています。

<「うちはシフトカットをしません!」宣言する企業は>
「シフトカットなしで安定の高収入」こんな求人を目にしました。首都圏や大阪17か所で小学生から高校生を対象に英語塾を展開する「トリプレット・イングリッシュスクール」。

shihuto190514.9.jpg従業員185人のうち、3分の2にあたる120人がアルバイトです。
アルバイトは主婦や講師経験者が中心で時給は1700円から、1年間で平均して100万円から200万円の収入を得ているそうです。
この塾が1年間に出す求人は10人程度。

「なぜ、シフトカットなしを売りに求人を出しているんですか?」と聞いてみたところ、担当者は「他の塾との人手確保の競争が激しい中、人に来てもらえる私たちの強みは何だろうと考えたことがきっかけです。

以前からシフトカットはしていませんでしたが、数年前から求人にはっきりと書き始めたと思います」と答えてくれました。

塾の講師は、夏期講習のときなどに比べ、受験が終わり生徒数が減少する年度末などは希望通りに働くことができず収入が安定しないということですが、この塾では、年間を通して生徒数が減ることがないため、「シフトカット」をする必要がないということです。

また、仮に翌年の生徒数が減少した場合は、社員の講義を減らしてアルバイトの勤務を維持するようにしているということです。

shihuto190514.10.jpgさらにこの英語塾では採用面接の際にも口頭で「1度決めたシフトは会社側からは減らさない」と説明しているそうで、実際にこの塾の講師の中には「シフトカットなしに魅力を感じた」とか「前の塾ではシフトカットがあったので、ここでは安心して働けると思った」などといった声があるそうです。

担当者は「唯一、台風などで塾を休みにせざるをえない場合は、アルバイトの方たちには6割の賃金を支払っていますが、アルバイトの勤務や賃金を維持することは、状況によってはしんどいこともあります。他社との競争が激しく、人手不足の中で優秀な人材を確保したいのでしかたありません」と胸の内を話してくれました。

シフトカットをしないこともあって、この塾ではアルバイトの平均勤続年数は9年と同じ業種の中でも長いそうです。
「安定して長く働いてくれているので、結果的には、こちらが得していると思います」

<安心して働ける環境整備を>
「シフトカット」の取材を進めるとアルバイトとして働く若者に法律がきちんと知られていない現状があることがわかりました。
さらにシフトを会社側の都合だけでたとえ直前であったとしても自由自在に変更できると慣習的に続けている会社も多いのではないかと感じました。

人手不足のはずなのに働き始めるとなぜか、仕事が少なくなってしまい収入減少に苦しむという「シフトカット」の問題。

働き方改革が叫ばれる中で長時間労働をなくしたり休暇の取得を進めたりするだけでなくシフト制で働くアルバイトの人たちが安心して働き続けられる環境を整えることも求められていると思います。

投稿者:目見田健 | 投稿時間:10時39分

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