2017年11月02日 (木)働き方改革 ボスはつらいよ


※2017年10月23日にNHK News Up に掲載されました。

国の後押しで急速に進められている企業の「働き方改革」。長時間労働の是正などが求められ、会社側と部下との板挟みになって、ジレンマに悩まされるのが課長や部長といった中間管理職です。その実情を取材し紹介したところ、SNSなどでは「どこも似た悩みもっている」とか「業務量が減らず効率化も進まなければ、残った仕事は中間管理職に回ってくる」など、共感する書き込みが数多く見られました。

ネットワーク報道部記者 野田綾
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<17人の部下がいる管理職>

ha171023.2.jpg今回取材したのは都内のコンサルティング会社に勤める真田純子さん(48)。会社は公共工事など大規模な事業を得意とし、1700人余りの従業員がいます。

真田さんは大学の農学部を卒業したあと就職し、現在は課長級の管理職として17人の部下がいます。専門は環境関連ですが、管理職としての仕事は自身のキャリアを生かした実務指導に加え、部下の勤務管理と業務の効率化です。


<「休みも休みでないよう」>

ha171023.3.jpg真田さんが毎日欠かさず目を通すのが部下からの業務報告メールです。全員が出勤・退勤の際に送信して、スマートフォンに転送されてきます。会社でも自宅でも外出先でも、部下の勤務時間を把握することになり、「休日に連絡が入ることもあるのでメールをチェックしない日はありません。休みも休みでないようで落ち着きません」と苦笑いしていました。


<2つのジレンマ>
働き方改革を進める中で中間管理職が感じる悩みは何か? 真田さんを取材すると2つのジレンマが見えてきました。

ha171023.4.jpg今月のある日、真田さんは社内の別の中間管理職の男性と意見交換しました。1つ目のジレンマ、「業務量が減らない中で勤務時間だけを減らすこと」への答えを探るためです。コンサルティングの仕事は顧客への直接対応もあるため、残業は当たり前とされます。

2人は、全体の仕事量が減らないのに残業や休日出勤を減らすにはどうすればよいのか、話し合いました。そして、社員一人一人が、みずから働き方を見直して互いに支え補い合う姿勢こそが大切だと確認していました。
もう1つのジレンマは人材育成に関するものでした。2人は、自分たちの若い頃はワークライフバランスが二の次だったことや、仕事をとおして多くのことを経験し成長してきたこと、それに子育て中であってもがむしゃらに働き、残業も当たり前だったことなどを振り返っていました。

ha171023.5.jpgそのうえで現在の状況について、「入社年次が同じ社員には同じチャンスをあげたいし、平等に育てるのが管理職の力量だと思う。中には『時間が許されればとことん仕事をやりたい』という部下もいるが、希望をすべてかなえてあげることはできない。やる気がある部下が、ルールを無視して突っ走ることができない状況ができつつある」と課題を認識し、限られた時間の中での部下の育成に頭を悩ませていました。


<部下のマネジメント 約70%が「ストレス」>

ha171023.6.jpg働き方改革の下で、中間管理職は部下の育成や管理などのマネジメントについてより強いストレスを感じているのか。その答えを裏付けるデータがありました。
企業の労務などのコンサルティングを行うNPO法人が、インターネットを通じて中間管理職を対象に行ったアンケート調査です。

それによると、働き方改革の推進に伴う部下のマネジメントについて、ストレスを感じるかどうか尋ねたところ、約70%が「強く感じている」または「多少感じている」と回答しました。

さらに約40%が、悩みとして「部下のパフォーマンスが向上しないこと」や「部下の人事評価が難しいこと」を挙げたほか、30%余りが「部下のモチベーションが向上しない」、また「部下のプライベートにどこまで踏み込むべきか分からない」と回答しました。(複数回答)

この結果からも、部下との接し方や人材の育成、それに人事評価などに悩む中間管理職の姿が浮かび上がっていることが分かります。

ha171023.7.jpgアンケートを行ったNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は「働き方改革にあわせて、企業は人事評価の制度を改める必要があると思う。だらだらと職場に残って残業するより、短時間で高い生産性をあげてさっと帰ることを高く評価して報酬を与えれば、企業全体のモチベーションもあがる」と指摘します。

そして、「今はIT手段を使うことで、どこにいても仕事ができる状況にある。職場にいなくても経験を積み成長することは可能で、オンラインセミナーなどに参加して会社以外のところで自主的にスキルを上げる努力も求められるのではないか」と話しています。


<「互いに支え補い合う姿勢」を>
一方、中間管理職が会社側と部下との板ばさみになることは、今に始まったことではありません。管理職の仕事はそういうもの、手当ても支給されているという指摘もあります。

ただ企業を取り巻く状況は、これまでとかなり異なっています。今の改革は国が後押しし、かつてないスピードと内容で一斉に多くの企業が進めています。それだけに中間管理職が感じるジレンマやプレッシャーは、未知の領域に入っているといえます。

日本が国を挙げて取り組む働き方改革。仕事とプライベートのバランスを考えることは豊かな人生を送るためにも必要です。今回取材した真田さんが気づいた「社員一人一人が、みずから働き方を見直し、互いに支え補い合う姿勢」は私自身、組織に身を置く一職員として胸に響きました。

投稿者:野田 綾 | 投稿時間:17時13分

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