2020年04月21日 (火)命を守る「ハザードマップ」が見られない!?


※2020年1月10日にNHK News Up に掲載されました。

先日、気象研究所が発表した衝撃の最新研究。
スーパーコンピューターの計算では、今世紀末には温暖化の影響で台風の移動速度が遅くなり、雨量が増えて今より被害が深刻化する可能性があるという内容です。
去年も各地で相次いだ台風や豪雨。
災害から身を守るための情報ってどうやって調べますか?
「スマホでサクッ」と検索したいですよね?
でも、いざというときネットで防災情報が得られなかったら?
検索データを分析すると、届けたい情報が届かない “悪循環” がみえてきました。
雨の少ない今のうちに、ぜひ知ってほしい意外な事実です。

ネットワーク報道部記者 斉藤直哉

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防災情報いつ検索? 意外な実態

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台風19号で氾濫した千曲川(去年10月/長野)

『特別警報レベル5です/
ハザードマップは回線落ちてて見られない』
『防災情報メールがいっぱい来て、
ハザードマップとか現在の警戒状況とか
HPで確認できますよって書いてくれてるんだけども、
アクセス殺到しているのか、見られない』

71もの川が決壊し、いくつもの街が浸水被害を受けた去年の台風19号。

静岡県に上陸した去年10月12日のネット上の投稿です。
浸水や土砂災害の危険性を示したハザードマップが見られない?
これって、いったいどういうことなんでしょうか。

inochi.20200110.3.jpg分析する池宮伸次さん(左)と衣目麻里さん(右)

そこで、詳しい人に聞くことにしました。
対応してくれたのはIT大手のヤフーの衣目さんと池宮さん。

2人は、台風19号の際にインターネットで検索された膨大なデータから「ハザードマップ」ということばに着目して分析しました。

衣目さん
「ハザードマップの1日当たりの検索数は過去10年で最多。おととしの西日本豪雨の約2.5倍です。台風が首都圏に向かったということもあり、人々の関心がこれまで以上に高かったと考えられます」

まず見せてくれたのは、検索された回数を10分ごとにまとめたデータです。

inochi.20200110.4.jpgおやっ? 台風が近づく前にはほとんど検索されてない?
台風上陸の前日にいったん増えますが、大きな “山” は翌朝になってから。
10月12日の朝といえば、台風はすでに東海の沖合に接近し、首都圏のほとんどの区間で鉄道は計画運休。

伊豆半島では、すでに30メートルを超える最大瞬間風速が観測されていました。

そして、“山” がもっとも高くなるのは、午後4時10分からの10分間。
この時間帯、東京や静岡にはすでに大雨の「特別警報」が発表。
多くの河川で水位が上がり、氾濫の危険が迫っていました。
「特別警報」は、重大な災害が発生している可能性が極めて高いとして発表される情報。
気象庁の記者会見やテレビで「命を守る行動を!」などと呼びかける『緊急事態』です。
雨や風はどんどん強くなる。
テレビやネットで「命の危険」ということばが飛び交っている。
そうだ!ハザードマップを検索しなきゃ。。。
データからはそんな人々の意識が見えてきます。

そのタイミングでは “間に合わない!?”

ところが、防災情報の専門家からは意外にも厳しい指摘が…。

inochi.20200110.5.jpg兵庫県立大学 木村玲欧教授

「災害が目の前に迫った状況では、ただちに命を守るための行動をとる必要があります。その時になってハザードマップの確認を始めたのでは、逃げ遅れてしまうおそれがあるんです」

木村教授によると、災害が迫った状況でハザードマップを見たとしても、場合によっては書かれていることや取るべき行動の判断に時間がかかり、適切な避難のタイミングを逃してしまうおそれがあるということです。

では、いったいハザードマップはいつ見ればいいの?

木村教授
「ハザードマップには、浸水や土砂災害などの危険性のあるエリアや避難所などの情報が書き込まれています。ふだんからマップなどをもとに、自宅周辺の危険な場所を確認しておくと、刻々と状況が変わる災害時でも的確な対応が期待できます。地域で訓練を開くなどして備えておくとよいと思います」

事前のハザードマップチェックも、災害から身を守る行動の1つというわけですね。

台風直前 みんな何を調べていた?

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強風で倒れたゴルフ場のポールと電柱(去年9月/千葉 市原)

ところで、ヤフーの検索データの分析結果を見て、気になることがありました。
台風が来る前、いったいどんなことばが検索されていたのか?
そこで、データをもとに台風上陸の2日前にネット上で多く検索されたことばを図にしてみました。

inochi.20200110.7.jpg10月10日(木)に検索が多かったことば

目立つのは、「運休」「情報」「計画」「天気」「ガラス」「窓」「養生テープ」など。
千葉県や伊豆諸島などで、風の被害が相次いだ9月の台風15号のイメージが強かったとみられます。

「スーパーの店頭から養生テープや乾電池が消えた」
なんてニュースもありました。

ところが、台風が本州を直撃すると様子は全く違ってきます。

inochi.20200110.8.jpg10月12日(土)に検索が多かったことば

検索されたのは、「避難」「情報」「ライブカメラ」「ハザード」「マップ」「氾濫」「水位」など。
これまで、目立って検索されていなかったことばが急浮上していました。

状況が変化して洪水の危険性や避難の必要性に迫られ、ネットに答えを探そうとした人も多かったようです。

自治体HPがつながらない!
こうしたネット検索の “駆け込み” によって、別の困った事態も起きていました。

「ハザードマップは回線落ちてて見られない」

冒頭で紹介したSNS上の書き込み。

命に関わる情報ですから、実態が気になるところです。
しかし、自治体ウェブサイトの状況について、総務省や都道府県のまとめはありません。

そこで私たちは、関東甲信と東北、静岡県の各自治体に直接、聞き取り調査を行いました。

inochi.20200110.9.jpgその結果、あの日、東京・神奈川・千葉・埼玉・山梨・群馬・栃木・長野・福島・宮城・静岡の11都県の合わせて107の市区町村でウェブサイトが閲覧しにくい状態になっていたことが分かりました。

inochi.20200110.10.jpg検索数と閲覧障害

取材の結果、閲覧トラブルはいずれもアクセスの集中が原因とみられています。

その1つ、東京・目黒区に聞きました。
なんと、ハザードマップを掲載したページへのアクセスがふだんの90倍近くに急増していたということです。

inochi.20200110.11.jpg酒井圭子 目黒区広報課長

「台風による大雨で、区内を流れる目黒川が氾濫危険水位を超えるなどしていたため、マップを確認しようとアクセスが増えたとみられるそうです。今後、区ではウェブサイトだけでなく、SNSも利用するなどして、必要な防災情報を確実に発信する方法を検討していくということです」

備えあれば…
ネットは便利でほしい情報がいつでも手に入りますが、災害時にはいつ使えなくなるか分かりません。
ハザードマップなど命を守るために必要な情報は、ふだんから確認して “いつでも使える” ようにしておかないといけない。
取材を通してそう感じました。

inochi.20200110.12.jpg自分が暮らす街や働く地域のハザードマップは「国土交通省ハザードマップポータルサイト」からも調べることができます。
ハザードマップの見方が分からない、どう使ったらいいか分からないという場合には、自治体の防災担当者に連絡すれば教えてもらえます。
数か月後には、また梅雨や台風のシーズンがやってきます。
雨の少ない今のうちに、一度、確認しておきたいですね。

投稿者:斉藤直哉 | 投稿時間:12時10分

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