2019年09月02日 (月)傘、どちらに向けて持ってます?


※2019年6月10日にNHK News Up に掲載されました。

“傘の先端が顔に迫ってくる”
ホラー映画にあったかもしれないそんな危険が日常の中に潜んでいます。傘を持ち歩くことが多くなってきた季節、雨が降りやんだあとが特に危険なようです。

ネットワーク報道部記者  後藤岳彦 ・木下隆児

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<横持ち=危険>
「本当にやめてください。ちょうど、子どもの目の高さなんです。傘の『横持ち』は危険です!」
ネット上に投稿されたこんなツイートが話題です。調べてみると「横持ち」は、傘を地面と水平に持つ持ち方。例えばビジネスマンだと、バッグの持ち手といっしょに持つと、そんな持ち方になります。
実際に「横持ち」をしてみました。

kasa190610.2.jpg<ちょうど子どもの目の高さ>
長さ70センチほどの傘をバッグの持ち手といっしょに横向きに持ってみると、傘の先端が自分の体の後ろに30センチ以上飛び出ました。

試しに「横持ち」をした私の後ろに同僚に立ってもらいました。傘の先端は太もものあたりにあたります。確かに「横持ち」をした大人の後ろに身長70センチから80センチくらいの子どもがいたら、傘の先端はちょうど目の高さ。混雑時や急いでいる通勤通学時などはけがにつながりかねないと感じました。

<10人に4人がヒヤリハット>
傘によるヒヤリハット、それを調べたアンケートがありました。東京都生活文化局が2013年に行った「降雨時の身の回りの危険」の調査。都内に住む3000人を対象にインターネットによるアンケート調査を行いました。42%に当たる1260人がたたんだ状態の傘でヒヤリハットや危害を受けた経験があったと回答しています。

kasa190610.3.jpg「降雨時の身の回りの危険」調査 報告書より
実際の事例もありました。
傘の横持ちについて「駅の階段で傘を水平に持っている人の後ろにいたら胸を突かれた」
「傘の本体を握り、水平にしてかつ前後に振りながら歩く人がいて、突かれそうになった」
「自転車に乗って水平に傘を持っている人がバランスを崩したときに傘の先がこちらを向いて刺さった」
「満員電車で傘を水平に持っていた人がいた。傘が私の脇腹にぶつかり、肋骨にひびが入った」
うーん、事例を読むとヒヤリハットだけではすまないようです。

<ぶら下げる傘も、たたむ時の傘も>
ネット上では横持ち以外でも、さまざまな傘の持ち方に危険を訴える声があがっています。
「電車の中でも、腕や荷物に傘をぶらさげている人がいて危険」
腕や荷物に傘をぶら下げると、どんな点に危険を感じるのか。

kasa190610.4.jpg実際に、荷物に傘をぶら下げて歩いてみました。すると、歩くたびに傘が前後に“揺れました”。後ろに人がいれば、傘の先端があたりかねません。危険というものではないですが、水滴が周りの人にかかってしまうかもしれません。

また、こんなツイートもありました。
「酷い人は、傘をたたむ時も傘の先を前につきだしてたたみます。もっと周りに気を配って欲しい…」
これも実際に試してみました。まず広げたまま傘の柄が自分に対して垂直になるように持ちます。
kasa190610.5.jpgそして、そこから柄の部分を突き出すようにして傘をたたむと…。
kasa190610.6.jpg傘の先端を外側に突き出す格好になり、前に人がいれば誤って傘の先端で突いてしまうかもしれません。しかも、たたむ前は傘の部分が広がった状態になっているため周りの様子がよく見えませんでした。

<エスカレーターや階段では目の前に>
「これ、エスカレーターや階段でも危ないんですよね。先が常に下を向くように持つよう気を付けてます」
ネット上には、こうした投稿もありました。
「横持ち」をしたまま、エスカレーターに乗ったり階段を上ったりすると、どんな危険が潜んでいるのか。これも試してみました。

「横持ち」をして階段を上る私の後ろを同僚に続けて上ってもらいました。
kasa190610.7.jpgすると、私の後ろ側に30センチほど突き出た傘の先端が、同僚のみぞおちあたりにぶつかりそうでした。私が少しでも傘を「横持ち」した手を振って歩いたら、場合によっては、目にあたってしまうかもしれません。

<傘の先端に恐怖を感じる人も>
さらに傘の「横持ち」は、先のとがったものが視界に入ると強い恐怖や動揺を感じる人たちから、「怖さ」を感じるというツイートも多く見られました。

先端恐怖症という症状を訴える人たちからの声です。
kasa190610.8.jpg「私は先端恐怖症なんだけど、雨が降る度に人が持ってる傘に怯えて暮らしてる」
「傘の横持ちは、先端恐怖症の人間としては本当にやめて欲しい…」
「傘の横持ちが一番怖いんだよ。先端恐怖症だから、想像しただけで、目がシバシバしちゃう」
投稿を見ていると、階段を上っている時などに前を歩いている人の傘の先端が見えると強い恐怖感を覚えると書かれていました。

“見た目ではわからないけれど、傘の先端に怖さを感じる人がいる”それを知っておくだけでも傘の持ち方に気をつけるきっかけになりそうです。

<日本洋傘振興協議会に聞いてみた>
洋傘の製造者で作る日本洋傘振興協議会に安全な傘の持ち方について聞いてみました。
「U字部分の手元を持ち、石突きと呼ばれる傘の先端が地面の方向に向かうように持ってほしい」
kasa190610.9.jpg特にエスカレーターや階段など段差がある場所では後ろにいる人に危険なため、こうした持ち方を徹底してほしいそうです。

自転車での傘さし運転はもってのほかですが、自転車のハンドル部分などに傘をかけるのもやめてほしいと話していました。
kasa190610.10.jpg「傘がタイヤに巻き込まれ事故につながる危険があります。自転車に乗っている人だけでなくそばを歩いている人もけがを負う可能性があります。自転車に乗る時はなるべくレインコートなどを着て欲しいです」

<回避できる危険>
この取材をするまで自分の傘の持ち方も怪しいものでした。実際に危険と指摘された場面を再現してみて、ようやく危険さを実感できました。

ただ傘を持つ時の危険は心がけ一つで回避できる危険です。傘を手にすることが増えてくる季節。正しい持ち方を知ったからには、今からはきちんと心がけようと思います。

投稿者:後藤岳彦 | 投稿時間:15時38分

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