2019年04月24日 (水)あとを絶たない遊具事故 背景にあるのは...


※2019年2月4日にNHK News Up に掲載されました。

保育所や公園などのブランコや滑り台などで遊ぶ子どもがけがをしたり、命を落としたりする事故があとを絶ちません。四国の保育所では3歳の女の子が死亡する事故があり、安全管理を怠ったとして園長が書類送検されましたが、ことし1月、起訴するだけの証拠がなかったとして不起訴になりました。一方で取材をすすめると、保育の現場で安全管理に対する国の考えが十分に理解されていない実態が見えてきました。

高松放送局記者 鈴木博子
ネットワーク報道部記者 飯田耕太

<事故は保育所の遊具で起きた>

190204ato.1.jpgおととし4月、香川県善通寺市の保育所で3歳の女の子がうんていの隙間に首を挟まれました。

190204ato.2.jpg保育所の職員が見つけたときはすでに意識がない状態で、女の子は9か月後の去年1月に低酸素脳症で死亡しました。

安全管理を怠ったとして、園長が業務上過失致死の疑いで書類送検されましたが、高松地方検察庁は女の子の死亡から1年となることし1月、事故を予測するのは困難だったとして不起訴にしました。


<国の「指針」への理解不足が?>
検察が園長を不起訴にした背景には、保育の現場で遊具の安全確保に関する国の指針が十分に理解されていないことがありました。

190204ato.3.jpg国の指針に明記されているが…
指針は遊具の構造や安全性、耐久性などの基準を詳細に示し、この中には「子どもの頭や首が挟まって抜けなくなるような隙間を設けてはならない」と記載されています。もとは公園の遊具を対象にした指針でしたが、厚生労働省や文部科学省は学校や保育所などでもこの指針が活用されるよう自治体や教育委員会などに対して周知を求めています。

一方で指針は77ページにもおよび、施設側が順守する義務もありません。書類送検された園長も任意の調べに対して「指針があることを知らなかった」と話していました。

指針はどの程度知られているのか? NHKは事故のあと、香川県内に230か所ある保育所と認定こども園にアンケートを行いました。

その結果、回答を寄せた90施設のうち、過半数にあたる46の施設が、国が示している指針について「全く知らない」または「内容までは知らない」と答えました。指針が保育の現場で十分理解されていない実態が明らかになったのです。
検察は事故があったうんていについて、指針に適合していなかったとしながらも「指針を読んでいなかったとしても非難するのは難しい。起訴するだけの証拠がなかった」として、過失について刑事責任を問うことはできないと結論づけました。


<命の「指針」には周知の工夫を>
子どもの命に関わる重大なものにもかかわらず、なぜ保育の現場での理解が進んでいないのか。アンケートに対して指針の内容を「知らない」と答えた高松市の高松南保育園を訪ねました。

190204ato.4.jpg高松南保育園
そこで十河龍太郎副園長が見せてくれたのは、国や県から届く通知や指針の束でした。

190204ato.5.jpgこの園に県や市を通じて送られてくる通知や事務連絡などは年間400件にのぼるといいます。電子メールは毎日のように届き、日々の業務に追われる職員が読み込むのは難しいといいます。

190204ato.6.jpg高松南保育園 十河龍太郎副園長
「遊具の指針は分量が多すぎて読み込めませんでした。毎日のように届く書類一つ一つすべてを見るというのは大変な作業です」
こうした現場の声を保育所へ通知を出した厚生労働省に伝えたところ、「イラスト付きの解説や繰り返し通知を出すなど遊具の安全に関して周知活動は行っている。今後も注意喚起に取り組むが、周知徹底は各自治体にお願いしたい」という見解でした。

小児科の医師で子どもの事故に詳しいNPO法人セーフキッズジャパンの山中龍宏理事長に話を聞きました。

190204ato.7.jpgNPO法人セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長
「国が示している指針が『知られていない』『読んでも理解できない』では意味がない。危険性の高い内容は要点をまとめて周知するといった工夫が今後必要だ」
消費者庁によると、平成27年までの6年間に遊具で起きた子どもの事故は合わせて1518件にのぼります。

事故が起きた場所の内訳でみると「保育所や幼稚園」が147件。「公園・広場」が661件でした。

さらに山中理事長は指針の周知だけでなく、保育所や学校などの遊具が指針に適合しているかどうか専門家がチェックする仕組みも必要だと指摘します。
「指針で定める基準の中には工学的な知識が必要なものもある。専門的な知識を持った人に遊具の点検を委託するなど、安全をチェックするシステムづくりが大切だ」


<点検にも改善の余地が>
遊具の点検は実際にどのように行われるのか。一口に「点検」といってもさまざまです。

メーカーや施工業者が遊具を新設した際に行う「初期点検」。専門技術者が年に1回以上ハンマー打診などで遊具に傷みがないか確認する「定期点検」。それに、専門技術者が詳しく行う「精密点検」などがあります。

国は定期点検のほか必要に応じて精密点検を行うことも求めていますが、香川県では去年まで、県が保育施設の監査を行う際にどのような点検をしているか具体的に確認していませんでした。

NHKのアンケートでも定期点検を実施していないと答えた施設は52か所。回答があった施設の6割近くにのぼりました。

一方、遊具メーカーなどでつくる団体「日本公園施設業協会」は、遊具が安全性を確保するための具体的な数値基準を満たしているかどうか診断する専門資格を設けています。

東京 板橋区は区内の36の区立保育園の遊具の点検を毎年、こうした専門資格を持つ技術者のいる業者に委託して行っています。もし国の指針の基準を満たしていないと分かった場合、すぐに補修や撤去を行っているといいます。

190204ato.8.jpg点検結果の報告書
点検を受けた区立志村橋保育園の辰口信子園長に話を聞くと「専門的な見地からの指摘はありがたい」と答えました。

190204ato.9.jpg板橋区子育て支援施設課 杉山達史課長
板橋区子育て支援施設課の杉山達史課長は「職員だけでは判断できないところもある。子どもの命に関わることなので遊具の点検は最優先に行っている」と話していました。

ただ、団体によると、こうした自治体はまだわずかだということです。

子どもの施設や公園に行っていつも思うのは安心な場所、安全な遊具で元気いっぱい、思う存分遊んでほしいということです。そのためには遊具に潜む危険を大人が徹底的に排除すること。そして、それができているか専門的にチェックする仕組みが欠かせないと感じました。

投稿者:飯田耕太 | 投稿時間:17時25分

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