2018年11月13日 (火) 空から塩が降ってきた


※2018年10月5日にNHK News Up に掲載されました。

被害をもたらしたのは、大雨でもなく強風でもなく、「塩」でした。日本海を通って列島を横断する予想もある今回の台風25号。各地の気象台も空からの「塩」に注意を呼びかけています。その怖さは9月の台風で証明済みです。

ネットワーク報道部記者 飯田暁子・和田麻子・管野彰彦

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<ことし9月 和歌山県みなべ町>
梅の生産量が日本一なのは和歌山県みなべ町です。
梅畑の異常は台風が過ぎ去った翌日からすでに始まっていました。木の葉や枝が変色を始め、葉は枯れて、通常より2か月も早く落ち始めたのです。

sor181005.2.jpg被害を受けた梅の木
原因は9月4日に四国に上陸し、近畿地方を縦断した台風21号。梅の木の葉が枯れて落ちる被害は、町内にある梅畑の4分の1にあたる、500ヘクタール、甲子園球場のおよそ130個分に匹敵する範囲に広がりました。

「一気に葉が茶色くなって落ちてしまった。こんなことは、これまで一度もなかった。来年の収穫が心配だが、なんとか良質な南高梅を作っていきたい」(梅の生産農家の上野章さん)


<海水+小雨>
その被害をもたらしたのは、大雨でも強風でもなく「塩」でした。

いくつかの条件が重なって塩害が広がったとみられています。
▽台風で海水が巻き上げられ、塩分を含んだ風が梅の木を直撃したこと。
▽通常の台風なら、雨が塩分を洗い流しますが、この時は数時間、雨がほとんど降らずに強い風だけが吹き続けたことなどです。
海水と小雨、それが被害を広げました。

sor181005.3.jpg被害を受けた梅の畑
みなべ町にはうめ課があります。うめ課の課長で、自身も兼業農家として梅を栽培しているという田中一朗さんは被害の大きさに驚いたといいます。

「今回は沿岸部だけでなく5キロほど内陸の山間部でも塩害が起きています。これほどの広がりはこれまで経験したことがない。梅は例年2月ごろに花を咲かせるが、どの程度の影響が出るか今の段階では予測できず非常に心配だ」(田中さん)


<予想どおりのコースだと…>

sor181005.4.jpg今回の台風25号でも、懸念されているのがこの「塩」の被害です。予想では6日には強い勢力を保ったまま、九州北部に接近し、日本海を進みます。7日には北日本に近づいて、暴風が吹く見込みです。(5日午後6時現在)

sor181005.5.jpg強風で海面から大量の海水のしぶきが巻き上げられれば、沿岸部だけでなく内陸部にも運ばれて、いわば、海水が地表に降り注ぐことになります。

塩分で農作物が枯れたり生育を妨げたりするおそれがあり、東北地方の気象台は、「予想どおり海上のコースを通った場合“塩害”が起きるおそれがある」として、注意を呼びかけています。


<平成16年8月>
今回とよく似たコースを通った台風があります。平成16年8月の台風15号です。

sor181005.6.jpg気象庁のホームページより
東シナ海から長崎県対馬付近を経て日本海に入り、強い勢力を保ったまま青森県の津軽半島に上陸。風が強いのも似ていて秋田県で41.1メートル、山形県でも39.9メートルの最大瞬間風速を観測しました。

さらに降雨量が少なく、台風が東北に上陸した8月20日に降った雨の量は東北地方の広い範囲で5ミリ未満。

農作物についた塩分が雨水で洗い流されなかったため、被害が広がり、秋田県の男鹿市などでは例年は多くが1等米という地域で、1等米の比率が20%程度に(平成16年11月末)とどまったケースもありました。

sor181005.7.jpg平成16年 被害を受けたコメ
農作物の被害額は秋田県や山形県などで合わせて234億円余りに上りました。


<できるだけ早く洗い流す>

もし予想どおりのコースを通った時、どうすれば被害を抑えられるのでしょうか。秋田県農林水産部に聞いてみました。

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平成16年 被害を受けたコメ
「平成16年の台風は8月下旬で、米の粒が充実する重要な時期でした。今回は、稲刈りの真っ最中なので、水稲に関しては塩害よりも強風でもみが落ちてしまうことが心配です。塩害という面ではりんごやなし、ぶどうなどの果樹が心配です」

対策としては、
▽なるべく早く、6時間以内には水をまいて塩分を洗い流すこと、
▽停電することも想定して散水用の水を事前に準備することも大事だということでした。


<車も自転車も注意>
また海水が降り注げば車や自転車にも被害を及ぼします。
JAF=日本自動車連盟ではホームページの「クルマ何でも質問箱」というコーナーでボディーのさびを防ぐ対策を紹介しています。

sor181005.9.jpgJAFのホームページより
▽車に塩分が着いたら、できるだけ早く洗車して洗い落とすこと。
▽高圧水を利用して、下回りやボディーの隙間までしっかり洗い流すこと。
▽そしてあらかじめ屋根のある駐車場に車を置くなど風雨を避けることも大切だということです。


<雨以外の被害も警戒を>
電気設備に塩分付着し発火か(イメージ)
先月上陸した台風24号でも、電気設備に塩分が付着したとみられるトラブルで、鉄道が運転できなくなったり、停電が起きたりしています。

台風は大雨で直接被害をもたらすケースもあれば、塩害のように徐々に被害が広がるケースもあります。

平成16年に秋田県に居た時、台風の通過からしばらくたって、マンションの自転車置き場にあった、何台もの自転車がさびてきたのをよく覚えています。

海からの風にいつもさらされる沿岸部と違って、建物が内陸部にあっただけに驚きました。台風の大雨にさらされなくても、いや、雨にさらされないような時には、特に台風がもたらす「塩」に要注意です。

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:17時03分

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