2018年08月14日 (火)相次いだ河川堤防決壊 避難判断の難しさ


※2018年7月9日にNHK News Up に掲載されました。

今回の豪雨災害では犠牲者が100人を超えて平成に入って最悪となりました。河川の堤防決壊が相次いだ岡山県では大勢の犠牲者や病院に取り残される人が多数でました。

ネットワーク報道部記者 佐伯敏・大窪奈緒子
帯広局記者 佐藤恭孝

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<未明に相次いだ堤防決壊>
ait180709.2.jpg6日夜に大雨の特別警報が出た岡山県では7日未明から朝にかけて川の堤防の決壊が相次ぎました。

警察によりますと、このとき倉敷市真備町では「人が乗った車が流されている」とか「家の前を人が流されていった」「家の2階まで水が入ってきているので助けてほしい」など、ひっ迫した通報が次々と寄せられていました。

ait180709.3.jpgしかし、地区一帯が水につかっているため、現場の周辺に近づくことができず救助や状況の確認が難航したということです。崩れた堤防から濁った水が住宅地に押し寄せ、暗闇の中で逃げようとしても逃げられなかった状況が浮かび上がっています。


<決壊後の避難 なぜ難しい>

ait180709.4.jpg倉敷市真備町の小田川では、7日の午前6時50分ごろ国土交通省の職員が約100メートルにわたって堤防が決壊しているのを確認していました。

堤防決壊はどのように起きるのか。
ことし6月、北海道にある国内最大級の実験用施設で堤防の決壊を再現する実験が行われていました。

幅30メートルの水路に水が流されて水位が上がり、約1時間後には高さ3メートルの堤防の最高部近くに達しました。

堤防にはあらかじめ1か所だけ削って低くした部分があり、そこから川の水が外に流れ始めます。堤防は徐々に浸食されて次第に崩壊が進み、ものすごい勢いで水が流れ出ていきます。
そして、およそ2時間半後に完全に決壊しました。

実験を担当した北海道開発局帯広開発建設部の米元光明治水課長は川が決壊してから避難するのは現実的ではないと話します。

「堤防は土でできているので、いったん水が堤防を越えると、水が堤防の裏に回って堤防が削られる『洗掘(せんくつ)』という現象が起きて一気に崩れることがある。ふだん川は下流に向かって流れているが一度決壊すると、そこに向かって水が流れてどんどん広がる。決壊箇所から流れ出る水の流れは極めて速く、決壊してから逃げようとしてもまず間に合わない」

さらに、住民が避難をするかどうか難しい判断を迫られるケースもあります。
堤防が決壊する前でも道路が水につかって身動きがとれなくなったり、夜に避難勧告や指示が出て暗闇の中で移動しなければならなくなったりした場合です。


<“空振りでもいい”気持ちを>

ait180709.5.jpg3年前、茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊するなどして大きな被害が出た関東・東北豪雨。

このとき避難のタイミングを逸して家族とともに自宅から身動きがとれなくなった横田能洋さん(50)は自身の反省も含めて「空振りでもいいから避難するという認識をしっかり持つことが大切だ」と訴えます。

横田さんは現在、常総市で被災者の支援や防災や地域復興に向けた取り組みを行っているNPO法人「茨城NPOセンター・コモンズ」の代表を務めています。

ait180709.6.jpg決壊した堤防は横田さんの自宅から約8キロ。隣に住む70代の義理の両親が家にとどまりたいと話したこともあり、避難せずに家で様子を見ることにしました。

ところがこの判断が裏目に出ます。その後、濁流が市街地に流れ込んで横田さんの家も床下が水につかりました。翌日の午後になってボートで救助されて家族全員無事でした。

横田さんは当時をふり返り、「つい、住み慣れた家が安心だと思うことで避難のタイミングを逃してしまう。実際に被害が出なくてもいい。『空振りでもいいから避難する』。この認識をしっかり持つことが大切だと実感している」

今回の豪雨災害でも逃げようとしたとき、すでに逃げられない状況だったと話す人は少なくありません。過去にない記録的な豪雨が相次いでいるだけに、命を守るため、これまでとは異なる防災意識と備えが求められています。

投稿者:佐伯 敏 | 投稿時間:15時50分

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