2018年02月27日 (火)暴風雪で車立往生 命を守る物とは


※2018年2月7日にNHK News Up に掲載されました。

この冬、何度テレビで雪の中、立往生する車の列を見たことでしょう。
「荷物をどうしても届けなければ」
「行かなければならない場所がある」
だからこそ知っておいてほしい、暴風雪で車が立往生した時にあなたの命を守る物とは。

ネットワーク報道部記者 吉永なつみ・管野彰彦
札幌放送局記者 細井拓

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<もうだめかもしれない>
忘れもしない3年前のバレンタインデー。私・吉永にとっては札幌放送局に転勤して初めて迎える冬でした。昼過ぎに、夫の親類が亡くなったという知らせを受け、葬儀のために東部の別海町に車で向かいました。

気候のよい季節でも7時間ほどの道のり。午後から雪が強まってきたことにやや不安もありましたが、運転手は雪道に慣れた夫の父。「きっと大丈夫」と言い聞かせて出発しました。ところが…。

bou180207.2.jpg進むにつれて次第に強まる吹雪。ワイパーを最速にしても窓をたたきつける雪、雪、雪。数メートル先もよく見えません。それでもなんとか標茶町の国道を走り続けていた時、突然、前の車や道の端を知らせる標識が視界から消えました。

初めて経験した「ホワイトアウト」です。完全に方向感覚を失い、乗っていた車は道路の端の吹きだまりに突っ込み動かなくなりました。110番通報しても、「すぐに出動できない」とのこと。みるみるうちに車は雪に埋もれていきます。

はじめはエンジンをかけたままにして暖を取っていましたが、マフラーが埋まって車内に排気ガスが逆流し、一酸化炭素中毒にならないよう外に出て、数分おきに除雪しなければなりません。「車だから」と十分な防寒具を持って来なかったため、そのたびに体がぬれて体温が奪われる悪循環。

今度はエンジンを切って服を着込み車内で待つことにしました。しーんと静まり返る車内、体の芯まで冷えていきます。

「もうだめかもしれない」

そう思ったとき、ゴゴゴゴゴ…という音を響かせて近づいてきたのが、大きな除雪車。吹きだまりから引き上げてもらいました。

立往生してからわずか1時間ほどだったと思いますが、とてつもなく長く感じました。あのまま一晩車内で過ごしていたかと思うと…今でもぞっとします。


<看護大学で繰り返されてきた実験>
車で立往生してしまった場合にどう命を守るか。北海道北見市の日本赤十字北海道看護大学では、雪で車内に閉じ込められたという状況を再現した実験を繰り返してきました。

最初の検証は平成26年1月。自治体の職員など6人が、外の気温が氷点下15度を記録する厳寒の中、一酸化炭素中毒にならないようエンジンを切った車内に6時間とどまる実験に参加しました。

bou180207.3.jpg用意したのは誰でも手に入る次の5点。
(1)登山や防災用として使われるサバイバルシート
(2)服のように着られる毛布
(3)簡易寝袋
(4)USBで給電する電気ブランケット
(5)手回しラジオ
実は当時のこの実験には、NHKの記者も参加していました。記者はふだんどおりの服装で臨みましたが、寒さに耐えられず、わずか1時間半でリタイア。低体温症に近い状態になったといいます。エンジンを切った車内では、備えが何も無いと一夜どころか、数時間でも耐えるのが難しいことがわかりました。
防寒具を使用した4人は6時間半を車内でなんとか過ごすことができましたが、さまざまなことが分かってきました。

例えば、保温のためにアルミのシートを体に巻き付けていた人は暖を取ることはできましたが、汗が蒸発せず水滴が凍ってしまったのです。この状態で寝ると、逆に低体温症になるおそれがあるといいます。

一方、手回しラジオはエンジンを切った車内で1人で過ごす場合の孤独や静寂を紛らわすために有効だったと言います。

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<見えてきた“有効な”物>
この結果を踏まえ、翌年の平成27年1月の実験では、装備品を変更し、15点を用意しました。

新たに加えた物は
▽大きさの違う携帯用カイロ3種
▽カイロが入る手袋
▽火や電気を使わずに食品などを温められるパック
▽通常の毛布
▽目出し帽
▽キャンプなどで使う遮熱マット
▽モバイルバッテリー
▽ようかん
▽水
▽携帯トイレです。

bou180207.5.jpg今回の実験は3時間。偶然にも、実験を行った北見市に大雪警報が出るなど、実際に立往生が起きやすい暴風雪に近い状況を再現することができました。

今回は参加した8人全員が快適とは言えないまでも3時間の実験を乗り切りました。実験を積み重ねる中で、用意しておくべきものがわかってきました。

日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授によると有効なのは意外にもシンプルな「寝袋に毛布とカイロ」だといいます。

この時の実験は、暴風雪に近い状況でしたが逆に放射冷却が起きないため、車内の温度は3時間後でも0度程度までしか下がりませんでした。

根本教授は「車内が0度程度であれば、氷点下10度に対応した寝袋と毛布で体を暖めて、足の裏や甲の部分にカイロを貼ることで寒さには耐えることができる」と指摘します。

そのうえで、暖めすぎるとやはり汗が凍ってしまったり、衣服が濡れて、低体温症を引き起こしやすくなるので注意が必要だとしています。


<水に、ようかんも>
根本教授によると、防寒具以外にも用意しておいたほうがいいものがあります。

bou180207.6.jpgまずは水。さらに長時間車内にいることを考えて携帯トイレも必要です。非常食としておすすめしているのはようかんです。糖分が多く、エネルギーが取りやすいうえ、適度に水分が含まれているため、仮に水がなくても食べやすく、1年程度は保存がきくということです。ようかんが苦手な人はチョコなどでもいいそうです。

bou180207.7.jpg大学はその後も検証を進め、実験で明らかになった必要な装備品をまとめた防災キットを北見市内の企業と共同で開発し販売もしていますが、どこでも手に入るものばかり。車の片隅に備えておいてはいかがでしょうか。


<悲劇を繰り返さないために>
根本教授たちがこの実験を始めたきっかけは、平成25年3月に北海道をおそった暴風雪。中標津町では雪に埋もれて動けなくなった車の中に排気ガスが流れ込み、小学生から高校生までのきょうだい3人と母親の家族4人が一酸化炭素中毒で亡くなる痛ましい事故があったのです。

bou180207.8.jpg根本教授は「立往生にあわないためには大雪の時は外に出ないことがいちばん大事ですが、毎年、必ずどこかで起きているので立往生は起きるんだという前提で備えを考えることが重要です。万が一の時に備えて、こうした道具を準備しておくことが、自分たちの命を守るということを多くの人に知ってもらいたい」と話しています。

投稿者:吉永なつみ | 投稿時間:15時27分

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