2019年10月10日 (木)骨髄ドナー その"やさしさ"を形に


※2019年7月8日にNHK News Up に掲載されました。

競泳の池江璃花子選手が白血病を告白してからおよそ5か月。
骨髄移植のドナーに登録する人が増えています。
でも、いざ提供となると簡単にはいかないようです。
ドナーは患者にとって、命を救う“ヒーロー”
登録という“やさしさ”を形にするには、何が必要なのでしょうか。

ネットワーク報道部記者  牧本真由美・管野彰彦・田隈佑紀

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ドナー登録 2月の変化
骨髄バンクへのドナー登録で、ことし2月、大きな変化がありました。
月間の登録者が1万人を超えたのです。

kotu.190708.2.jpg前の月までは2000人から4000人程度でしたので、まさに急増です。
3月以降も前年を上回るペースで増えていて、日本骨髄バンクは「ことし2月に池江璃花子選手が白血病を公表したことが増加の理由ではないか」と話しています。

kotu.190708.3.jpg“提供の意思ないなら、登録を解除して”
ただ、患者とドナーのマッチングが、すべてうまくいくわけではありません。

さらに最近、SNSでは「どうか、提供する意思がないのであれば登録を解除してください」と投稿され、大きな議論を呼びました。

型が一致しても…

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骨髄バンクの登録会
いったいどういうことなのか。

まず、ドナー登録した人は、患者との間で白血球の型が一致しないと、骨髄などの提供はできません。

さらに型が一致しても、ドナーが提供を断るケースがあります。

日本骨髄バンクによりますと、昨年度はこうしたケースが1万件ほどにのぼったというのです。

断る理由は「仕事の都合がつかない」とか、「家族の同意が得られない」など。

骨髄の提供には、3泊4日程度の入院などを要するほか、まれに移植後、体調不良を訴える人もいるからだということです。

こうした事情を理解したうえでのドナー登録を呼びかける日本骨髄バンクですが、このようにも指摘します。
「実際に白血球の型が一致する患者が見つかるまで、登録から何年もかかる場合もあります。その間に仕事や家庭の状況が変化して、提供ができなくなるのは、仕方ない面もあります」

断られた患者は…
しかし、一刻も早い移植を待ち望んでいる多数の患者がいるのも事実です。

白血病など血液がんの患者とその家族を支援している、NPO法人「血液情報広場・つばさ」の橋本明子理事長は、提供を断られる患者の思いを、こう語りました。

kotu.190708.5.jpg橋本明子理事長
「つらい治療を続けている患者さんにとって、提供を断られるということは、命にも関わることですし、落胆も大きいんです」

登録時と状況が変わったら
では、登録時と状況が変わってしまったドナー登録者はどうすればいいのか。
日本骨髄バンクの話です。

「登録時と状況が変わって、提供ができなくなったり、一時的に難しくなったりしたドナーには、バンク登録の「取り消し」や、提供の「保留」の手続きをお願いします」。

ドナーを支援する動きも
骨髄などの提供で課題となるドナーの負担。

それを少しでも軽くしようという支援が広がりつつあります。
1つは、企業が設ける「ドナー休暇制度」。
ドナーが骨髄などを提供するために入院や通院をする際、有給で休める制度です。

日本骨髄バンクによると、こうした制度を設けているのは、7月1日時点で、全国381の企業や団体。国家公務員とほとんどの地方公務員も、同様の制度を利用できると言うことです。

また、ドナーに「助成」を行っている自治体もあります。

日本骨髄バンクによると、こうした制度を設けているのは536の市区町村。1日当たり2万円、7日を限度に助成する自治体が多いと言います。

さらに企業に対する自治体の支援も出てきました。
島根県は、休暇制度を設けている企業に、社員がドナー休暇を取得した実績に合わせて助成金を。兵庫県は、これに加えて、ドナー登録の普及啓発活動などに取り組んでいる企業に、活動を支援する資金を出しています。

kotu.190708.6.jpg“やさしさ”が形になる社会へ

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ドナー登録という“やさしさ”。
広がりつつある支援の動き。
これらをより多くの命を助けるという「形」にどうつなげていくのか。

先ほどご紹介した、NPO法人の橋本明子理事長の願いです。

「現状では、まだ、ドナーの人が仕事を休みづらいといった状況もあります。職場や学校などで移植への理解を深めてもらったうえで、骨髄などの提供がしやすくなるような環境を社会全体でつくっていってほしいと思っています」

投稿者:牧本 真由美 | 投稿時間:10時49分

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