2012年02月08日 (水)インプラント治療が問いかける歯科医療の今


歯科インプラント治療は、歯を失った人にとって画期的な治療法です。この治療を巡るトラブルとその背景について、私たちは去年から5か月にわたって取材を続け、去年11月と12月の「おはよう日本」、ことし1月18日の「クローズアップ現代」、1月20日の「あさイチ」で報道しました。

番組には、歯科医療従事者や患者からたくさんのお問い合わせやFAXを頂きました。ありがとうございました。
放送を見た人からの主な声や番組の中で伝えきれなかったことを交えて、取材後記として書きたいと思います。

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▽取材のきっかけ
このテーマに取り組むきっかけは、去年9月に行われた「日本口腔インプラント学会」の学術集会でした。この学会、比較的新しいのですが、会員数がここ数年で急速に増え、日本歯科医学会の中で最大規模になっています。その数は約1万2000人。入れ歯の学会である「日本補綴(ほてつ)歯科学会」 の倍です。保険が適用されていないインプラントに、これだけの歯科医師が引きつけられているのです。
学術集会のメインテーマは「医療安全」でした。基調講演は川添理事長みずから登壇し、医科と比べて歯科では安全への取り組みが遅いと、危機感を持つよう訴えました。
(ところが、基調講演にはほとんど参加者は来ませんでした)
シンポジウムの一つが、安全にインプラント治療を行うため、患者に糖尿病や歯周病などのリスクがどの程度あるか検査する、チェックリストでした。私たちもここに着目し、ニュースとして放送しました。ここで登壇した人たちの問題意識が、私たちの取材のベースにあります。

▽駆け込み寺になっていた大学歯学部病院
学術集会に参加していた歯科医師からは、ほかの診療所でうまくいかなかった患者が来ているということを聞きました。特に大学関係者からは、「うちは、うまくいかなかった患者の駆け込み寺だ」という訴えもありました。そこで、実態を把握するため、歯学部のある大学の医療機関と口腔外科を持つ医学部の病院にアンケート調査を実施しました。
歯学部の病院だけで不具合を訴えてきた患者が2700人余りに上ったことは放送でもお伝えしましたが、驚いたのは自由記述欄です。
「知識や技術が不足しているのに、無理な治療をしている」
「どんな患者にインプラントをするのか歯科医師によって基準がバラバラ」
「インプラントが今や治療ではなく、経営戦略になっている」
トラブルの背景に、歯科医療界が抱える根深い問題が広がっていることが分かってきました。

1102081.jpg▽歯科医たちはインプラントをどう見ているか
こうした現状を、開業している歯科医師たちはどう感じているのか。インプラントを導入している歯科医師に話を聞くと、この治療法に実に高い評価をしています。
典型的だと思ったのは、神奈川県の歯科医師です。この歯科医師は、入れ歯を得意としてきましたが、それでも患者から「固いものを食べられない」と言われ、敗北感を味わっていました。
そこでインプラントを試したところ、何でも食べられるようになり、そこからインプラントを積極的に導入するようになったと話していました。
画期的な治療法であるインプラントは、こうして急速に広がったのだと思います。しかし、手術の方式や事前の検査は歯科医師によってバラバラです。歯科医師は、自分が参加した講習会や、先輩の歯科医師の意見で決めているようです。そして、「経営的な側面はどうですか?」と尋ねると、「それはあります」と本音を語ってくれる歯科医師も多くいました。
ある歯科医師は、治療効果の高さと経営の両面からインプラントを導入したものの、研修・研さんの機会がないうえ、自分の医院には十分な検査器具がなく、「無謀だと思って数年でやめた」と話していました。

▽インプラントはビジネスか
インプラントのビジネス的な側面が注目されるにしたがって、歯科医を対象にしたセミナーやDVD販売が盛況になっています。患者向けにどう話せばインプラントを選択してくれるか、セールストークを磨く講座もあります。
今、 流行し始めているのは、「患者向け相談会」を使った手法です。
インプラント治療について、出版社やNPOの名前で相談会が開かれ、広告で地域の人に広く告知されます。入れ歯かインプラントか迷っている患者が行くと、そこに歯科医師が講師として登場します。相談会では歯科医師がインプラントを最先端の治療として紹介し、最後は個別相談へと移ります。
会場では、講師の歯科医院の期間限定のディスカウントチケットやCTの割引検査券が配られ、その場で治療の契約をします。もちろん、相談会を開いている出版社やNPOは「ペーパーカンパニー」です。実際は歯科医院が相談会を主催しています。

▽番組に寄せられた声
私たちの報道に対して「ネガティブな点を強調しすぎだ」という声もあります。
しかし、それを上回って患者や歯科医療従事者からの声が寄せられています。
「放送と同じように、インプラントのあと、痛みが続いている」
「抜歯してすぐインプラントすることを勧められたが、 ほかの歯科医院で治療して、今でも自分の歯で食べている」など、患者からはたくさんの声が寄せられました。
意外だったのは、歯科医師からの肯定的な意見が多いことです。
「こうした実態は確かにある。だから、なぜ歯科がここまで追い込まれたのか、さらに掘り下げて報道してほしい」という声が強く寄せられました。
取材の過程でも、患者のために歯を残すことに努力しても、経営的に報われないことが歯科医療の問題の根幹だという意見をしばしば聞いていました。
また、 「インプラントは治療後もメンテナンスをしないと炎症が大変で、特に高齢者は要介護になったときに大変だ」という意見も多数頂戴しました。こうした点は、 今後の取材の継続課題です。

▽改善のために
新しい治療が定着するためには、「誰を対象に」「どんな目的で」「どんな治療を」行うのか、決めることが必須です。
いくらインプラント治療が画期的でも、「歯を失った人に」「人工の歯を取り付けるために」「骨に金具を埋め込む」という単純な治療ではないはずです。トラブルのリスクはどこにあるのか、どの程度かめるようになれば治療として目的を達成したことになるのか、標準的な治療のルールが必要だと思います。
歯科医学会は最低限のルール作りにようやく取りかかりましたが、もっと根本的な改善も求められているように私は感じます。医科の世界では、治療の前と後で、患者はどう変わったのか、さまざまな検査で科学的に検証し、専門の学会の下で治療成績や失敗例が比較され、標準的な医療が確立されていきます。歯科医療では、こうして治療成績を検証する意識が薄いように思います。インプラントの場合も、唯一公式に出ている死亡事例についてさえ、まだ検証が行われておらず、事前の検査や手術の方法など、どこに問題があったのか共有されていません。
結果として、たくさんの治療法が、「われこそが最先端の治療法だ」と標ぼうして残り続けています。
私たちが取材した歯科大学教授の1人は「今までの歯科医療は、サイエンスではなく匠の世界だった」と自嘲気味に話していました。しかし、歯を削って詰めるだけでなく、歯周病という細菌を相手にし、あごの骨に穴を開けるまでに至った歯科医療が、今までの「匠の世界」であれば、患者は安心して治療を受けられません。

治療の評価軸を作り、治療成績を検査で検証し、より安全で有効な治療法を確立し、専門の教育を受けた歯科医療従事者が治療を行う。
このことが今の歯科医療に求められていると思うのです。

投稿者:米原達生 | 投稿時間:06時00分
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コメント

「クローズアップ現代」、拝見させていただきました。
番組ゲストが日本歯科医師会幹部とか口腔インプラント学会幹部とか歯科大教授ではなく、開業医の先生だったことが、色々な意味で印象的でした。それと米原さんが出ていたこともビックリしました。今後も引き続き歯科医療業界が抱える様々な問題点を掘り下げてください。期待しています。

投稿日時:2012年02月08日 11時13分 | 須藤哲生

カルホルニアに在住です。デンタル インプラントはこちらでは一般的におこなわれています。私は4本のインプラントがあります。デンタル インプラントは怖い物ではありません。ただしこちらではデンタル インプラントの専門のdenntistが 点滴からの全身麻酔で行われ、治療する側は患者の健康状態チェックから始まり、知識、技術面で信頼できると思います。日本でもデンタル インプラントの専門医の資格を義務化すればデンタル インプラントは無くてはならない物になるはずです。
デンタル インプラントの専門医の育成をし、法律で一般歯科医師にインプラントを試行するのを禁止すべきです。
たくさんの日本人の歯が綺麗になって欲しいと願います。td

投稿日時:2012年02月08日 11時47分 | td

クローズアップ現代の後、歯科医院はインプラント患者を獲得すため必死になっています。
出演した小宮山先生に対して、いやがらせをする歯医者がいます。

インプラントは、いい治療ではない。
歯医者自身がインプラントをしない。
インプラント製造メーカーも悪い。
インプラントリカバリー歯科医院があらわれた。
患者が賢くならないと本当に健康を害します。
インプラント適応患者は、本当に少ないのです。
インプラント死亡事故は、氷山の一角で潜在的に悩んでいるインプラント患者は多と考えます。NHKは、いい歯医者を紹介してくださってもいいと思います。大学病院は問題ないと思います。
(一部を省略させていただきました)

投稿日時:2012年02月09日 11時05分 | 匿名

東京の開業医です。インプラントと成人の歯列矯正には反対の立場で診療しています。
インプラントの一連の報道は大変貴重な情報でした。良い事ばかりでなく悲惨な実態があることは多くの方に知っていただきたいと思います。
微力ながら、著書と「目からウロコの歯の話」と題したブログでインプラントの危険を度々述べています。
http://p.tl/oQ7a
インプラント危害をなくすための提言もまとめました。
http://p.tl/3xt1
同じ歯科界にいるものとして一日も早く改善されることを望みます。
今後の報道も期待しています。

投稿日時:2012年02月10日 08時20分 | 林 裕之

インプラント治療は専門医オンリーにするべきです
免許を得て数年の歯科医がやるのはよくない
もっと経験を積むべきです
専門医の審査も厳しくすべき時にきている
私立歯学部は名前さえかけば入学できる大学がいくつもある
医科との差がひらきすぎている
能力のない歯科医がやる治療ではないことを真剣に
考えていくべきだ

投稿日時:2012年02月10日 09時59分 | 匿名

私は、「インプラントを必要としなければならなくなった」ということ自体が、インプラント治療を受ける上で、大きなリスクになり得ると思います。このリスクをまず改善することこそが、重要だと感じます。
確かに、顎の骨の量や質の問題、全身の健康状態の問題が関係してくるリスクなどについては、様々な検査をして、目をむけるべき事ではあります。
ただ、どうして抜歯をせざるを得なくなってしまったのかということを、患者さんも歯科医師側も見直し、取り組む必要があると思います。
抜歯の多くの原因は虫歯や歯周病です。お口の中のセルフケアが上手くできなかったということが根本たる原因なわけです。原因を改善しなければ、どんなに良い治療を受けたとしても(良い治療を提供したとしても)、永い目でみれば、それは良い結果には結びつきません。

 「患者教育」などというと、なにを偉そうに、といわれてしまいそうですが、歯科医療で何が大切かといえば、結局はこれなのです。虫歯の治療も歯周病の治療もインプラントの治療も、結局は「治療」なのです。治療をしなくて済むような歯科医療を、歯科医師側が提供していくことが、本当の意味で患者さんのためになるのではないでしょうか?

投稿日時:2012年02月14日 10時15分 | コガデンタルオフィス

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