2011年11月24日 (木)広がるインプラント治療 相次ぐトラブル


「夢の技術」と言われる「歯科インプラント」。
歯ぐきの下の骨に穴を開け、ネジ状の金属を埋め込んで土台を作り、人工の歯を取り付けます。
インプラントは、入れ歯やブリッジなどと比べてしっかりと固定されるので、自分の歯のような感覚を取り戻せるとして広まってきています。

その一方で、死亡事故を含め、トラブルが相次いで報告されています。インプラント治療とトラブルの実態、始まった安全対策について取材しました。

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千葉県に住む65歳の男性は、おととし12月、虫歯の治療のために、たまたま訪れた歯科医院で歯科医師からインプラントを勧められ、治療を受けました。インプラント治療は医療保険が効かない「自由診療」です。奥歯2本の治療費は、合わせて45万円かかりました。
治療中、男性は、突然、激しい痛みに襲われました。取材に対して、男性は「とにかく痛くて、麻酔をかけていましたが、痛いからもうやめてくれと頼んだくらいでした」と話していました。男性は、再治療を受けた大学病院で撮影された自分の口周辺のエックス線写真を見て驚きました。上あごの骨に固定されるはずだったインプラントが、骨を突き抜けて、その奥にある「上顎洞(じょうがくどう)」と呼ばれる空間に落ちていたのです。
(下の画像で、赤い丸の中の白い影が、上顎洞に落ちたインプラント。黄色の部分が、本来あるべきインプラントの位置です)
男性は、大学病院で摘出手術を受け、新たなインプラントを入れる治療を続けています。

1124Q.jpg男性が治療を受けている日本大学松戸歯学部病院には、インプラントの再治療を求める患者が相次いでいます。病院のまとめでは、インプラントの再治療を求める患者は、昨年度は37人、前の年度の16人から2倍以上に増えました。再治療が必要なのは、上あごの場合、男性のように骨を突き抜けてしまうケース。下あごの場合は、骨の中を通る神経を傷つけてしまうケースなどです。

1124K.jpgこの病院の加藤仁夫教授は「歯科医師の中には、適切なインプラントの入れ方をしていない人もいます。また、適切なことをしていても、能力以上の難しい症例を手がけて問題を起こす人もいます」と話していました。

1124H.jpgインプラント治療は、専門性が高く、幅広い知識や高度な技術が求められます。ところが、特別な資格などは必要なく、歯科医師であれば誰でも始めることができます。インプラント治療については、これまで、大学でもほとんど教えられてきませんでした。そのため、インプラントを始めようという歯科医師の多くが、製造メーカーが開く「講習会」などで学んでいるのが現実です。中には、およそ5時間の「講習会」に1回参加しただけで、インプラント治療を始める歯科医師もいるといいます。

1124G.jpgインプラント治療の「専門医」を認定している「日本口腔インプラント学会」は、インプラント治療を行う歯科医師は、幅広い知識と高い技術をきちんと学ぶ必要があると考えています。
そこで、学会では、100時間の研修を修了し、試験に合格した医師を「専門医」として認定していますが、国内では、まだおよそ700人と少ないのが現状です。

学会の広報委員長を務める東京医科歯科大学の春日井昇平教授は「これまで、大学でしっかりしたインプラント教育をしてこなかったので、中には、解剖学や歯周病、かみ合わせなどを、基礎からトータルに学ばずにインプラント治療を始める歯科医師もいます。トータルで考えたトレーニングを受けていないことが、いろいろな問題が起きる原因になっていると思います」と話しています。

1124E.jpgこうした現状を受けて、これから歯科医療を担う若い世代にインプラント治療を基本から体系的に教えようという動きが出ています。このうち、東京歯科大学は、学生や研修医に、実習を通してインプラント治療に必要な技術をきめ細かく指導しています。

1124D.jpg取材した日の実習では、高齢者のやせたあごの骨を想定した模型を使っていました。手術が難しいケースであえて失敗を体験させることで、慎重に治療に当たろうという気持ちを持たせるのがねらいです。ドリルで穴を開ける際に、側面に穴を開けてしまったり、血管が通っている部分を削ってしまったりする人もいて、講師から注意されていました。実習に参加した研修医の1人は「実際やってみると、とても難しく感じました」と話していました。

1124C.jpg東京歯科大学の矢島安朝教授は「学生や研修医に、インプラント治療は難しいと自覚してもらうことが、彼らが将来開業してからも学習し続けるモチベーションになります。それが、一生続く生涯教育へと継続していくことが私たちの願いです」と話していました。

1124B.jpgインプラント治療を巡る現状について、国はどう考えているのでしょうか。
厚生労働省は「インプラント治療は、患者と医療機関との契約に基づいて行われる自由診療のため、保険診療とは違い、強制的な指導はできない」としています。
ただ「トラブルが起きているのも事実だ」として、今年度、研究班を作って、安全性や患者への説明に問題がないか、情報収集を始めているということです。

インプラント治療は、適切に行えば、歯を失った人でも自分の歯と同じような感覚を取り戻せるようになります。その魅力がインプラントの広がりにつながっていると思いますが、歯科医療を巡る経営環境の変化も、広がりの背景にあるという話を聞きました。
厚生労働省などによりますと、開業している歯科医院の数はこの30年でおよそ1.7倍に増加しました。現在は、コンビニエンスストアの1.6倍に当たるおよそ7万件に上ります。一方、1日当たりの平均の患者数は減少し、平均の患者数は現在およそ20人。20年前より5人ほど減っています。その結果、経営の苦しい歯科医院が増えているというのです。都市部では、駅前などに多くの歯科医院が開業し、特に厳しい経営を迫られていると言われています。

都内の歯科医院の激戦地域で、年間200本近いインプラントの手術を行っている開業医に話を聞くことができました。
この歯科医師は「激化する競争の中で『食べていけない』クリニックや歯科医師が増えているのが現状。そうしたなかで、インプラントは歯科医師の救世主になっている。治療での救世主というよりは、収益での救世主という部分は否定できない」と話していました。
保険診療とは違って、自由に料金を決めることができる「自由診療」のインプラント治療は、歯科医師の収入を増やすための手段になっているというのです。

そして、インプラント治療を巡るトラブルにも、歯科医院の経営問題が関係しているという指摘があります。経営を優先するあまり、十分な技術を身につけないままインプラント治療を始めてしまう医師もいるというのです。

では、歯科医師を見分ける方法はあるのでしょうか。現在は、特別な資格がなくてもインプラント治療を行えるので、患者の側が歯科医師の技量などを判断するのは容易ではありません。
日本歯科医師会に聞いてみたところ、選び方のポイントについて、次のように話していました。

(1)インプラント以外の治療法、例えばブリッジや入れ歯などについても提案し、それぞれの治療法の長所・短所を平等に教えてくれる
(2)インプラント治療を始める前に、治療計画書を提示し、費用について丁寧に説明してくれる


インプラント治療を受けて「よかった」と満足している人も多くいます。私たち患者は、歯科医師の説明をしっかり聞いて理解し、納得したうえで、インプラント治療に臨むことが重要だと感じました。

投稿者:鈴木章広 | 投稿時間:06時00分

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トラブル急増!?信頼できるインプラント歯科医に出会う4つのポイント

最近、「インプラント治療のトラブルの急増」について、取り上げられることが多くなりました。インプラント治療では、外科手術を伴う治療のため、知識や経験がある歯...続きを読む

受信日時 : 2012年02月29日 10時23分 | よしっ!明日歯医者へ行こう☆

コメント

元歯科衛生士で、私自身一患者としてインプラント治療経験者でもあります。
私はインプラント治療を数年学んできました。
今まで衛生士の立場で見てきて率直に思った事は、
歯科医師の
・知識のレベルが低い、又は知識はあるが片寄っている。
・勉強が足りない。
・勉強はしたが、既に時代遅れである。
・そもそも不器用。

色々原因はあるのですが、
ひどい治療計画、設計、技術でのインプラント施行を行う先生が多い事に怒りと失望を覚えました。
人間性の問題かもしれませんが、自分のやっている事がホントに心からそれでいいのか?いいと思ってやっているのか?と問いたいと何度も思いました。
衛生士でもわかることなのに、どういうことでしょうか?と。

ただし、きちんとした歯科医師がいる事も確かです。
どうかそういう医師をみつけられるようにしてあげたいと、世のすべての患者さんに思います。

投稿日時:2011年11月24日 21時42分 | ririe

患者さんと歯科医師との仲介サービスをしている元歯科技工士です。
治療計画書の提示や明確な費用説明だけでなく、保証書発行の有無も大切な要件です。
いずれにしても、歯医者さん選びは、運試しみたいな点があることが否めません。

「ひどい治療計画、設計、技術でのインプラント施行を行う先生が多い事に怒りと失望を覚えました。」とのririe様のご意見にも同感です。

投稿日時:2011年11月29日 12時10分 | 須藤哲生

 歯科医師です。インプラントが必要な患者さんも大勢存在し、治療技術としては素晴らしい面も多々あると思うのですが、多くの歯科医師が食っていけるほどの仕事量は実際ないと思います。私の感覚では、そうですね、30~50の医院で1医院程度の専門の医院が必要という程度のような気がしています。つまり現在は必要でない、あるいはやるべきでない無理な症例を経営のために行っている、故にトラブルも起こりやすいのでしょう。
 また特に女性ですが、最近骨粗鬆症に有効とされるビスフォスフォネートは歯科で問題になってきています。例えば50代でインプラントして、その後ビスフォスフォネート系の薬剤を飲む必要が出てきた時、インプラントはその方にとってとても憂鬱な存在になるでしょう。おそらくまだこの問題はインプラントを行ってる歯科医師の中にも気づいていない人もいるかもしれません。(知ってれば中年の女性へのインプラントは躊躇するでしょう。)今後この問題が歯科にとって大きな問題になうような気がしています。 

投稿日時:2011年12月04日 06時31分 | 匿名希望

一ケ月前頃より、奥歯の痛みを感じてきており、疲れた時には更に痛みが酷くなり、食べ物を噛めなくなってきていました。
左下一番奥歯が、ぐらぐらしてきた感じもあり、痛みが頻繁になってきたので、自宅近くの歯医者に久し振りに行きました。(過去は以前勤めていた会社の近くの歯医者=インプラントをして貰った歯医者)
今日、見て貰い、一番奥歯は、自分の歯で、その手前が約15年前にインプラントをして貰った歯で、ぐらぐらして痛くなってきた歯は自分の歯と思っていましたが、今日、レントゲン他のチェックでインプラントの歯(一番の奥歯)が、不良化(根元が炎症を起こして痛みを出してきている)長年の月日で、自分の歯とインプラントとの不整合で、インプラント治療の歯全体のバランスが崩れているとの事です。
今後、治療は、インプラントの歯の除去(約5万円の治療費が掛る)をして、その後は、ブリッジか?入歯か?再度インプラントか?相談して、治療を開始する事になりました。ショックだったのは、インプラント治療すれば、半永久的に使えると思ったのが、月日の経過で、色々と問題が出て来る可能性が有る事を知った次第です。保険も効かず、自分の歯は全体に健全(10年以上歯の治療をした事が無い)で、インプラント治療の歯のみ悪かった事を確認した事です。
インプラント治療も絶対的では?

投稿日時:2013年03月25日 14時11分 | 栗原正明

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