実践リポート

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「オン・マイ・ウェイ」で主体的に考える道徳

吉田 圭一 教諭

吉田 圭一 神奈川県横浜市立東汲沢小学校教諭

いろいろな困難に立ち向かう主人公たちが、人生の途中で何を考え、どう行動したのかを追ったオープンエンドのドキュメンタリー番組です。登場人物の考えから自分の生き方や生活につなげて話し合ったり、子どもが問題場面に向き合って、子どもたちなりに解決方法を議論したりしました。
※この実践および所属は、2015年度のものです。

オンマイウエイ【対象】小学校5・6年生・中学生/道徳

オンマイウエイ

この番組は、いろんな困難に立ち向かう挑戦者たちが、「オンマイウェイ」、人生の途中で何を考え、どう行動したのかを追ったドキュメンタリー番組です。彼らの姿から、未来を切り開くためのヒントをいっしょに探してみましょう。

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活用のねらい

子どもが自然環境について考えを深めようとすると、個人的な体験の差が大きく影響します。また、生き物の「命」を扱う教育として「死」という視点にも真剣に向き合わなくてはなりません。放送番組「オン・マイ・ウエイ!」はドキュメンタリーとしてリアリティや意外性があり、さまざまな人の立場を描き出しています。この番組を活用して授業をデザインすれば、「生きる」ことを多面的・多角的にとらえ、さまざまな立場を共感的に理解することにつながるのではないか。このような仮説を立てながら、番組に浸り子どもたちと語り合い、考える道徳をすすめました。

授業の様子

第3回「動物と生きるためには?」

番組視聴後、自由な感想交流をしました。いきなり感想をと言われても出しにくい場合は、ワークシートに書いてからペアやグループで交流することもいいでしょう。

この授業では最初に「動物と生きていくには、動物と真っ正面から向き合うことが大事だと思いました。」という意見が出て、多くの子がうなずいていました。無償で野生のシカを保護している獣医さんの行動に感動している意見、一方で野生のシカが農作物に被害をもたらしている現実の深刻さに道徳的問題を見出した意見も出てきました。素直な意見交流から、本時のねらいとする問題点を見つけるとともに、色々な立場、考え方があることに気付く大事な時間でした。

番組は獣医さんの視点で語られ、野生のシカを保護することに批判を受けた中で、これからも野生のシカを保護し続けるかどうか葛藤する場面で終わります。さて自分はどう考えるか。

もしも自分が森田さんだったら、野生動物を助けつづけるのか、バロメーターに自分の立場を示して議論しました。同じ「つづける」という立場であっても、一人ひとりの思いが微妙に違っていて、決断に至るまでの一人ひとりの思いには野生の命も人の命もかけがえのないものであることが伝わりました。

この主発問は大いに迷うところで、「農家の人だったら」「自分だったら」「人間として」という問いも考えられました。どれも自分ごととして考え多面的・多角的に考えるポイントになると思います。

番組は、野生の動物と一緒に暮らしていくためにはどうしたらよいかと投げかけられて終わります。授業後の感想では、野生のシカを「駆除」せざるを得ない状況に矛盾を感じていましたが、具体的な解決策となると非常に難しいものでした。こうした自然環境保護や野生生物との共生という視点まで踏み込むとしたら、子どもたちの実態や発達段階を考えながら、追加の資料やゆさぶりの発問を準備する必要があるかもしれません。

子どもの変容

子どもたちはこの授業を通して、簡単には答えが出せない課題に対しても、あきらめず自分ごととして考え、判断することがとても大事だと認識していました。

そもそも、自分が知っていた動物について概念が広がった子もいました。同じ野生動物でも立場の違う人から見ると、とらえ方が全く違うこと、そこにはそれぞれの生活がかかっていて簡単には解決できない現実があることが分かったようです。

実践を振り返って

今ある自分の考えを総動員して本気で「考える」ことは骨の折れる作業です。本時をきっかけに、子どもたちはドキュメンタリーのパワーと対峙し必死に考えました。そして、命はかけがえのないものという子どもの揺るぎない思いが伝わってきました。しかし、それは今の子どもたちの全力の解だとしても、必ずしも現実社会での正解だとはいえません。

普段の生活で、たくさんの情報の中から、何らかの判断や決断を求められることは少なくありません。そのためにはまず、さまざまな道徳的問題に真剣に向き合う態度が大切だと考えます。ドキュメンタリーを活用する授業で、困難から逃げない登場人物たちから学び、教室の仲間と一緒に粘り強く考えながら、生きる力を磨くことができると思います。

本時案(授業プラン)

学習活動 指導上の留意点

導入
  • 今の自分の見方・考え方を確認する。
  • 体験や生活経験などを事前アンケートで実態把握する。

展開前段
 ・主人公はどうするべきか
 ・別の立場の人はどうすべきか
 ・自分ならどうすべきか
 ・人間としてどうすべきか
  • 子どもの率直な感想や考えを引き出す。
  • 思考ツールや名前マグネットを活用して意見や立場を視覚化し、分類・整理しできるようにする。
  • 多角的・多面的に考えられるように追加の資料や揺さぶりの発問をする。

展開後段
  • 全体で問題についての解決策を話し合う。
  • 具体的な解決策を見出せなくても、真剣に考え、課題と向き合うことを大切にする。

終末
  • ワークシートに振り返りを書く。
  • これからの生活につなげる具体的な考え方を交流する。

木原 俊行

『オン・マイ・ウェイ』を活用した吉田さんの実践は――吉田さんは、動物との共生に関する問題に対して子どもたちに葛藤を意識させる、道徳教育の典型的な実践を展開しています。『オン・マイ・ウェイ』の第3回「動物と生きるためには?」で描かれている、野生のエゾシカの保護や駆除に関わる多様な人々のリアリティのある意見や心情を整理しつつ、「もしも自分だったら――」と問うて、子どもたちに自身の価値の表明することを求めています。「特別の教科 道徳」では、子どもたちが「自分の考えを基に話し合ったり書いたりするなどの言語活動を充実すること」が重視されていますが、吉田さんの実践は、この点も十分に満たしており、これからの道徳教育の実践のよきモデルと言えましょう。(木原 俊行)

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