実践リポート

  • 道徳
  • 中学1年

「道徳ドキュメント」で身近にないリアルを実感!

天田 和男 教諭

天田 和男 山口県美祢市立淳美小学校教諭

子ども達に考えさせたいけど、日常の生活の中には無い、または自分の生活や経験と関連付けにくいテーマがあります。そのようなテーマをドキュメント番組を通して実感することで、今まで考えたことの無いテーマについて深く考え、議論する授業を目指しました。

道徳ドキュメント【対象】小5~6・中/道徳

道徳ドキュメント

悩ましい事態に直面した人が何を考えどう行動したのかを描く「キミならどうする」、自分の夢に向かって突き進む人が困難を乗り越えていく様を描く「人生はチャレンジだ」、他者と心を通わせ共生していくことの大切さを」描く「人とつながる」、番組は3つのテーマに分かれます。実際に起こった出来事や人生経験を通して、自分の生き方について考えていきます。

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活用のねらい

5年生のクラスには、思春期を迎えて男女の関係に敏感になったり、自分の存在について悩んだりしている子と、そこまで性差や自分について意識していない子とが混在しています。そこで「男らしさ」「女らしさ」、更には「自分らしさ」について考える授業を計画し、「性的マイノリティー」を扱いたいと考えました。しかし、本学級の子ども達にとって「性的マイノリティー」は、自分の生活や経験からは遠い存在であるため、自分のこととして捉えることが難しいという実態があります。

そこで実際の出来事や人物を扱った番組「道徳ドキュメント」を活用し、現実の問題として実感させることで、考え・議論する道徳授業を目指しました。

授業の様子(全2時間)

視聴回「男らしさ、女らしさって何?」

第1時

「男らしさ」「女らしさ」「自分らしさ」について考えることだけを伝えて番組を視聴しました。子ども達は体の性と心の性が違う人がいることに驚いている様子でした。視聴後の感想交流でも、性的マイノリティーの人は人口の20%おり、全国で数百万人いることについての意見が多く出ました。

その後「だれもが自分らしく生きるために」をテーマに、その実現のために大切なことについて、性的マイノリティーの人と、その周りの人々のそれぞれについて考え、付箋に書きました。その付箋を小グループで構造的にまとめながら意見交換し、その後発表しました。始めは性的マイノリティーの人のところに「勇気」や「努力」などが貼られていましたが、話していくうちに「勇気」や「努力」は剥がされ、周りの人の気持ちが大切であることに気づいていきました。そこで第1時を終了しました。

第2時

第2時は前回作成した、大切なことが書かれた付箋を利用して「心のピラミッド」を作成しました。すぐにできそうなこと程下部に、素晴らしことだけど実現が難しいこと程上部にしたピラミッド型に分類する活動を通して「思いやり」「優しさ」「助け合い」などの比較的一般的な価値から、「相手を知る勇気」「自分を知ってもらう勇気」「支える」「怖さをなくす心」など、自分たちの言葉でいろいろな大切なことを見つけることができました。

子どもの変容

本実践のようにドキュメント番組を活用することで、今までは自分から遠く離れたフィクションだった問題が、擬似的とはいえ、より身近でリアルな問題に感じることができます。そのため議論を進める中で、少しずつ自分と関わらせながら、自分たちの言葉で大切なことについて考えを深めることができるようになってきました。

実践を振り返って

本実践のように、子ども達にとって遠いテーマを扱う時には「道徳ドキュメント」のような、ドキュメンタリーを視聴させることが有効であることを実感することができました。子ども達は登場人物の言葉や表情から、読み物教材や教師の説話とは違った心の揺れを覚え、一生懸命に考えているようでした。

今回のように子ども達にとって遠いテーマを扱う時には、視聴後にじっくりと感想を交流して、自分のこととして捉えられるようにしたいものです。また、番組は多くの価値を内包しています。本実践では「思いやり」「友情」「公正、公平」「よりよく生きるよろこび」「相互理解、寛容」などが挙げられます。それらの多様な価値を思考ツールを活用して、整理したり焦点化したりしながら、教師のねらいに沿って深く考えさせるためには時間が必要です。今回使用した「道徳ドキュメント」は15分番組です。

ですから小学校では残りの時間が30分しかありません。時間がなくなり教師が慌ててまとめるよりは、今回のように2時間単元で構成することも有効だと感じました。

本時案(授業プラン)

第1時 学習活動・発問 指導上の留意点

1

道徳ドキュメント・男らしさ、女らしさって何?の視聴 「男らしら」「女らしさ」「自分らしさ」について考えることを伝え、視聴の視点をもてるようにする。

2

視聴後の感想交流。

「番組を見て、どんなことを感じましたか?」
発表・つぶやきなどで自由な雰囲気で感想を引き出し、その中から「どうして?」「なぜ?」を整理する。

3

「だれもが自分らしく生きるために必要なこと」について付箋に書き、グループで交流した後発表する。

「マイノリティーの人」と「周りの人々」のそれぞれについて必要なことを二重の円に付箋を張りながらまとめる。

4

他の班のまとめについての意見交流をしながらまとめ直した後、学習の振り返りをする。 他のグループのまとめや意見交流から、新しく必要だと思った付箋を加えたり、必要ないと思ったものは剥がしたり、貼った場所を移動させたりしてまとめ直す。
第2時 指導上の配慮・援助

1

 

グループで話し合いながら「心のピラミッド」を作成する。 大切だが実現が難しいと思う付箋を上部にしたピラミッドにまとめることで、様々な価値を構造的に整理する。

2

 

ピラミッドを見合いながら、気付きを交流する。 同じ付箋でも人によって貼る場所が違うことに気付くことで、様々な考えがあることを知り、多角的に考えられるようにする。

3

学習の振り返りをする。  

木原 俊行

「道徳ドキュメント」を活用した天田さんの実践は… 今日、小学校の「特別の教科 道徳」の授業では、「児童が多様な感じ方や考え方に接する中で、考えを深め、判断し、表現する力などを育むための言語活動の充実」が望まれています。天田さんは、『道徳ドキュメント』の「男らしさ、女らしさって何?」という番組の教材特性を生かして、それに見事に応えています。まず、この番組は性的マイノリティに関する多様なケースを扱っているので、番組を視聴する子どもたちは、それらにふれて、性的マイノリティの問題に多角度で接近できます。また、天田さんは、それを、主体的・対話的で深い学びにするために、思考ツールを用いたり、それで可視化された考えをグループやクラス全体で交流させたりしています。言い換えると、天田先生の実践は、今日、その実現が期待される「考える道徳」、「議論する道徳」の好事例です。 (木原 俊行)

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