深層海流二千年の大航海 用語集

【海流】
海流 海洋にはさまざまな規模の流れが存在しますが、その中でも規模の大きい、ほぼ一定した表層の流れを海流と呼びます。海流は周囲よりも高温の海水が流れている場合を暖流、周囲より低温の場合を寒流と呼んでいます。日本付近の黒潮は暖流、親潮は寒流の代表です。海流は低緯度から高緯度への熱輸送の上で、重要な役割を果たしています。
戻る
【メキシコ湾流】
メキシコ湾流 メキシコ湾から合衆国沿岸通過し、北ヨーロッパのスカンジナビア半島沿岸にまで流れる、一連の暖流は、ヨーロッパでは北大西洋海流と呼ばれます。低緯度のメキシコ湾地域で受け取った太陽の熱を、高緯度のヨーロッパへ運ぶ、非常に重要な役割を果たしています。
メキシコ湾流 番組では北極圏に位置するノルウェーのロフォーテン諸島を紹介しています。北緯68度の高緯度にありながら、冬でも海面が氷結せず、平均気温は札幌よりも高い、温暖な気候条件に恵まれています。
戻る
【トリチウム】
 トリチウムは質量数3の水素の同位体で、炭素14やストロンチウム90、セシウム137などとともに、1950年代、60年代に数多く行われた大気圏内の核実験によりつくられた、放射性同位体です。これらの同位体は自然界にはもともとなかったか、ごくわずかしか存在しないもので、核実験により成層圏に舞い上がったものが、世界的に広がり、10年ほどで対流圏に戻り、雨によって海洋表面に供給されたものです。これらの同位体の分布を調べると、1950年代からの表層にあった海水の動きを読みとることができます。調査の結果、ほとんどの海洋でトリチウムなどの元素は表層付近数百mに分布が限られ、海水の鉛直方向の混合が起きにくいことを示しましたが、北大西洋では、4000mの深海までこれらの同位体が到達していることが観測されました。
戻る
【深層への海水の沈み込み】
深層への海水の沈み込み グリーンランド沖の北大西洋では、氷結により低温で塩分濃度の高い、高密度の海水がつくられ、深海に沈み込んでいます。沈み込みは直径数百mの煙突状の海水の流れとなって、深海底まで続いていることがわかりました。さらに、各地の深層の海水を分析した結果、ここで沈み込んだ海水(北大西洋深層水、NADW)が大西洋を南下し、南極海で沈み込んだ水もまじえながら、インド洋、太平洋の深層へと移動していることが推定されました。
戻る
【ウェッデル海】
 南アメリカに近い南極のウェッデル海では、北大西洋と同様に、冬季に海洋表面が凍結する際に、塩分濃度が高く密度の大きい海水が作られ、南極海の底層に沈み込んでいきます。この海水が、北大西洋から南下してきた深層水とともに、インド洋から太平洋へと深層を移動していきます。
戻る
【海のベルトコンベアー】
海のベルトコンベアー さまざまな元素をトレーサーとして、各地の海水を調べた結果得られた、周期2000年にも及ぶ海洋の大規模な深層水循環の様子を、W.S.ブロッカーは「海のベルトコンベアー」として表現しました。
 この図はあまりにも有名ですが、深層水循環が表層の熱輸送のパターンをコントロールしているという認識につながり、気候変動と海洋循環との関わりが注目を浴びるようになりました。
 しかし、海洋全体での熱輸送は表面付近の海流の役割が大きく、深層水循環それ自体は、熱輸送そのものに果たす役割は、それほど大きくないことに注意する必要があります。
戻る
【深層水の上昇域と漁場】
 北大西洋から始まる移動過程で、深層水には植物プランクトンにとっての肥料分である、リン酸塩や硝酸塩などの成分を多く含むようになります。このため、深層水が湧昇したり、表層水と混合が起こる海域では、植物プランクトンの生産量が大きくなり、結果としてよい漁場が形成されます。日本に近い北西太平洋海域も、そうした深層流の終点であり、世界的な漁場となっています。
戻る
【氷床コア】
氷床コア 氷床コアの分析は、過去の気温や大気組成を調べる上で非常に重要なデータを提供します。氷に含まれる空気の泡によって、それが取り込められた当時の二酸化炭素濃度をはじめとして、大気組成を調べることができます。(→「6.氷河期襲来」参照)
 一方、氷を構成する水の水素と酸素も、当時の気温に関する情報を持っています。水素の同位体である重水素や、質量数18の酸素の同位体の存在比は、気温との相関があることが知られています。そこで、氷床コアの分析から、過去の気温とその変動を読みとることができます。
戻る
【氷床融解水の流入と深層水循環の停止】
氷床融解水の流入と深層水循環の停止 ヤンガードライアス期の気候変動の原因は、当時縮小しつつあった北米の氷床の融解水が、一気に北大西洋に広がり、淡水の流入によって低密度となったの海水が深層水の沈み込み口を覆ったため、深層水の循環が停止し、北米や北ヨーロッパの極端な寒冷化を引き起こしたものと考えられています。
 このときの寒冷化は氷床コアからは現在よりも10度、北ヨーロッパで5−7度、平均気温が低下したと考えられています。全地球的にどのような影響を及ぼしたのかは、まだ明らかではありませんが、低緯度地域でも寒冷化が起こった証拠も報告されています。
戻る
【ラブラドル高原の谷地形】
ラブラドル高原の谷地形 カナダのラブラドル高原には、氷床によって平坦になった土地を、深い谷が切り込んでいます。このような谷の一部は、大量の氷床の融解水の流れによって作られたと考えられています。また、ヤンガードライアス期だけではなく、1万年前以降にも、そのような融解水の流入や谷地形の形成があったとする研究が最近発表されています。
戻る
【氷期の短周期気候変動】
氷期の短周期気候変動 氷期には数十年あるいはそれより短い単位で、平均気温が5度くらい変わるような、急激な気候の変動が繰り返し起こっていることが、グリーンランドの氷床コアの分析から明らかになりました。このような気候変動の原因も、深層水循環の停止や再開を反映しているのではないかと考えられています。
 ヤンガードライアス期以降、氷床コアの記録はずっと安定した気温を示し、深層水循環のベルトコンベアーが安定して機能していたことを示唆しています。しかし、近年の温暖化を引き金として、氷期のような深層水の沈み込みの停止が起きて、気候に影響がでないか、懸念されています。
戻る
萩谷宏(アドバイザー)


戻る解説


Copyright 2004 NHK (Japan Broadcasting Corporation) All rights reserved.
許可なく転載を禁じます。