幼児教育と小学校教育をつなぐ「幼保小連携」とNHK for Schoolの活用

國學院大学 教授 田村 学

教育課程の基準が改訂され、幼稚園教育要領や学習指導要領が新しくなりました。そこでは、実際の社会で活用できる資質・能力の育成として「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の育成を目指すこととなりました。この考え方は、幼児教育においても、小学校、中学校、高等学校においても同様であり、学校種を超えて一貫した方向で整理がなされました。

こうした学校種間の体系的な接続は今期改訂の大きな特徴です。とりわけ幼児期の教育と小学校教育との接続は重要であり、幼保小連携は今日的なテーマとして大きな話題となっています。中央教育審議会では架け橋特別部会を開き、幼児期と小学校とをつなぐ架け橋期のカリキュラム開発とそのプログラムを整備する議論が行われています。

幼児期の教育と小学校教育との連携・接続の必要性が語られる背景には二つの理由が考えられます。一つは、小1プロブレムの問題です。小学校入学後の新1年生が、学校生活に適応できず、学習に集中できない、立ち歩くなどの問題が各地で生じました。こうした問題状況に対応するために、幼児期の教育と小学校教育との壁の大きさを見つめ直す動きが生まれました。二つは、非認知能力の育成の問題です。幼児期や低学年の時期に育成される非認知系の能力が、一人一人の子供の将来の成長に大きく影響することが明らかになりました。幼小の子供の成長とそのつながりをどのように捉え、どのように相互を滑らかに結び付けることができるかが問われるようになりました。

そうした動きの象徴的な例として、小学校教育におけるスタートカリキュラムという考え方があります。スタートカリキュラムとは、幼児期の子供の学びと育ちを基礎として、安心・安全な学校生活の中で、一人一人の子供が自分らしさを存分に発揮できるカリキュラムのことであり、その創造と実現を目指す小学校入学当初の取組です。

このスタートカリキュラムについては、三つのステージを経ながら質的な高まりを見せてきています。ファーストステージは、小1プロブレムへの対応であり、学校生活への適応が期待されていました。セカンドステージは、安心・安全の中での自己発揮です。サードステージは、幼児期から小学校へと学びをつなごうとするものです。このようにステップアップしてきたスタートカリキュラムは、学校種間を接続するものとして、この度の学習指導要領に明確に位置付けられました。したがって、日本全国の小学校はスタートカリキュラムを編成し、実施することが求められているわけです。

そもそも平成元年の学習指導要領で新設された生活科は、幼児期の教育の在り方を参考にして生まれた教科とも言えます。この生活科を中心にスタートカリキュラムを編成し、実施することが期待されています。

NHK for Schoolでは、スタートカリキュラムの番組として「すたあと」があります。
また、生活科の番組として「おばけの学校たんけんだん」もあります。

「すたあと」については、サイトに以下のように紹介されています。
どの子も楽しめる活動が、分かりやすくたくさん用意されています。
「小学校に入学し、期待と不安でいっぱいの1年生が、新しい学校生活をつぃくりだすことができるようにサポートする新番組です。本格実施される「スタートカリキュラム」を意識し、友達づくりに欠かせない自己紹介や発表、教科の学習につながる数遊びや観察ゲーム、感覚をつかむための体を雨後かく遊びなどの活動を通して、学校生活で必要な基本的なスキルを楽しみながら自然と身に付けていきます。また、「番組を見ながら一緒にやる」ことができるよう、ホームページには、遊びの手順説明図、歌詞やゲーム用ワークシートなどを用意。1年生が楽しみながら学びに向かっていく力を育みます。」

「おばけの学校たんけんだん」についても以下の通りです。
おばけの子供と一緒になって、生活科の学びを体験することができる番組となっています。
「とある“おばけの学校”に通うおばけの子どもたちは、人間の学校に通ってみたくてしかたがない。その理由は、いろいろな感覚を使って、見たり、聞いたり、触ったり、楽しい生活科の活動をすることができるから。おばけのホーレイ先生の魔法で人間の姿になった子どもたちは、自然や町、地域の人とのふれあいの中で、さまざまなことに「気付き」、それを振り返り、深い学びにつなげる表現活動を体験します。生活科の一連の学習イメージを見ることで、「自分たちもやってみたい!」と授業が盛り上がること請け合いです!」

どちらの番組も、小学校に入学する前の子供にとっても、入学した後の子供にとっても、魅力的な楽しい番組です。是非、クラスで活用し、友達と一緒に観てください。また、それぞれのご家庭で、親子が一緒に観ることも大いにお薦めします。きっと、一人一人の子供の満面の笑顔が、教室や家庭に大きく広がっていくことと思います。

田村 学 先生

田村 学 プロフィール
1962年生まれ。専門分野は教科教育学(生活・総合的な学習の時間)、教育方法学、カリキュラム論。著書「深い学び」「学習評価」(東洋館出版社)ほか。NHK for School「すたあと」「おばけの学校たんけんだん」番組委員。

(執筆者の所属・役職は2023年度のものです)