『NHK for School実践データベース』を活用して授業をデザインしよう

日本大学 教授 中橋 雄

この『NHK for School実践データベース』には、従来からある教科・領域の実践リポートはもちろんのこと、近年注目されているSTEAM教育、SDGs等のテーマと関連がある実践リポートも収録されています。また、タブレットを活用した実践リポートも充実しています。これからの時代に対応した授業づくりのための様々なヒントが得られるはずです。

一方で、このサイトを閲覧しただけで授業力が高まるとは考えられません。授業力は実践的な力ですから、授業実践を通じて磨きをかけていく他ないのです。このサイトを閲覧して授業を構想し、授業を実践した後は、またこのサイトを閲覧して自分の実践を自己評価すると、さらに授業力に磨きをかけることができます。この往復を大切にして『NHK for School実践データベース』を活用するようにしてください。

では、具体的にNHK for Schoolを授業で活用することについて考えていきましょう。まずは一斉授業を想定して、「番組を選ぶとき」「番組を見せるとき」「番組を見せた後」という3つの場面でポイントを整理してみます。これらを意識して授業デザインと実践に取り組んでみてください。

番組を選ぶとき

教材研究・授業デザインの効率を高めてみましょう

NHK for Schoolには、さまざまな番組・動画クリップが準備されています。教科・単元に直接対応したものもあれば、これからの時代を生きる人々に必要な能力を育むことを目的としたものもあります。大人が見ても楽しくて、ためになるものばかりです。まずは、授業と関係なくさまざまな番組のページを閲覧してみてください。授業で活用するアイデアがどんどん湧いてくるはずです。

次に、授業で使うことを想定して番組を選択し、年間ラインナップのタイトルから授業との関連を判断します。「あらすじ」を読めば、10分番組を10分間視聴しなくても内容を把握することができます。番組によっては指導案やワークシートなども掲載されているため、それを参考にすることができます。こうした情報を活用すると、効率よく教材研究・授業デザインを行うことができます。

番組を見せるとき

子ども目線で学習環境をチェックしてみましょう

番組を見せるとき、学習者である子どもの目にはどのように映っているのか、その目線から感じとり、学習環境を整えましょう。例えば、テレビの画面に太陽光や蛍光灯の光が反射して見えにくいということはないでしょうか?それは、照明を消したり、遮光カーテンを閉めたりすることで改善できるでしょう。テレビとの距離や角度はどうでしょうか。画面に表示される小さな文字が、テレビから離れた席の子どもにも見えやすいかどうか確認して、見やすい位置への移動を促すことも有効です。同様に音量が適切かどうかも事前に確認しましょう。

さまざまな番組視聴のタイミングが考えられますが、まず、授業の導入で番組をまるごと視聴する使い方について考えてみます。特に観点を定めず「まず、テレビを観ましょう。」と視聴させてみるのも1つの方法です。視聴中は、先生も一緒に番組を楽しみ、自分なりの感想を考えておきましょう。同時に子どもの反応を確認することも重要です。集中しているか、楽しんでいるか、疑問をもった表情ではないかなどを確認しておくと、視聴後の活動で何を問いかけるべきかみえてきます。

番組を見せた後

子どもの発言を基に授業を組み立ててみましょう

番組を見せた後も、さまざまな授業展開が考えられますが、お勧めの方法を紹介したいと思います。まずは、どんなことでもかまわないので番組の感想を発言させましょう。本時の目標に関わらない感想や多少的外れな発言であっても強く正すことはせずに、手を挙げて自由に発言できる雰囲気を作ることが大切です。できるだけ多くの発言を募り、板書をまとめましょう。その中から学習の目標に関する発言に着目させ、本時の目当てに重ね合わせていきます。子どもが自分で気付いたことから深めていくことで、学習意欲を高めることができます。

番組は年間を通じて継続視聴して、視聴態度を育むことが重要です。楽しんで学び、視聴後には感想を言わずにいられない学級の状態になることを目指しましょう。回数を重ねるごとに、子どもは番組の構成や授業展開に慣れていきます。初めは発言できなかった子どもも、視聴態度や考え方を身につけていくことで、発言ができるようになっていきます。学級全体で学びを深めていく授業に、ぐっと近づいていくことでしょう。継続視聴をすると番組ごとのよさや特徴、制作者の意図、子どもの反応がわかってきます。残りの時間を使って、該当する内容について教科書・黒板・ワークシート・ノートなどを使った一斉指導、あるいは、話し合い、実験や観察、調べ学習や制作活動などを通じて学習を進めましょう。

ここまでは導入で活用する例について考えましたが、導入以外での活用可能性もあります。例えば、導入ではテーマについて調べたり考えさせたりする活動をしておいて、展開で番組を視聴してゆさぶりをかけるという使い方があります。あるいは、内容の定着を図るために、まとめで番組を使うというやり方もあります。 また、ウェブサイト上に公開されている番組と連動した動画クリップや教材の活用も検討したいところです。例えば、問いを投げかけて終わる番組を導入で視聴し、展開では実験・観察を行い、一斉指導のまとめで動画クリップを再生して定着を図るといった授業の構成などが考えられます。

さらに、教師が子どもたちに番組や動画クリップを一斉視聴させるという活用方法だけでなく、子どもたちが興味関心に従って個別に視聴する活動も展開できます。例えば、子どもが問題意識や興味関心にしたがって、個別に番組を視聴し、得られた知識や自分の考えをグループでの協働的な課題解決学習に活かすといった教育方法です。このような活動を通じて、自ら調べて学ぶ姿勢が育ちます。納得いくまで繰り返し視聴できることも利点となります。

一方、ただ自由にみているだけでは、望むような学習成果が得られない場合もあります。教師に求められる役割は、子どもの学習を豊かなものにするための支援を行うことだといえます。例えば、調べたことをまとめるワークシートを配布したり、うまく調べられない子どもを個別に支援したり、わかったつもりになっている子どもに疑問を投げかけたりすることなどが考えられるでしょう。 情報を収集・整理・表現する方法を身につけさせるための指導を並行して行っていくことも重要になるといえます。子どものメディア・リテラシー(メディアの意味と特性を理解した上で、受け手として情報を読み解き、送り手として情報を表現・発信するとともに、メディアのあり方を考え行動できる能力)を育む取り組みも重要になるといえるでしょう。

以上のように、NHK for Schoolの活用方法は、無限の可能性を秘めています。また、「上手に」活用することで、教育の質を大幅に高めることができます。目的に応じて適切な活用方法を考えていくことが重要です。その際、この『NHK for School実践データベース』の「実践レポート」に記されている先人の知恵を大いに役立てていただきたいと考えています。

中橋 雄 先生

中橋 雄 プロフィール
1975年生まれ。日本大学教授。日本教育メディア学会理事。専門分野は、教育工学、教育の情報化に関する実践研究、メディア・リテラシー論。GIGAスクール時代のNHK for School活用研究プロジェクト研究アドバイザー。「アッ!とメディア~@media~」番組委員。