第7弾

弱虫ペダル × パラサイクリング

原作・_渡辺航さんインタビュー

“分け隔てなく、誰とでも一緒に走れるのが自転車”

渡辺先生は、以前からパラサイクリングにご関心があったのでしょうか?

渡辺 そうですね。僕は自転車マンガを描きつつ、自分でも自転車競技を少しやっているんですが、練習中にパラサイクリストと出会ったのが大きかったです。
2016年に筑波山でチーム練習をしていたとき、休憩でコンビニに立ち寄ったら、藤田征樹選手がいらしたんですよ。世界選手権で優勝した選手に与えられるレインボーカラーのジャージ「アルカンシェル」(虹色のチャンピオンジャージ)を着た姿で! ビックリしましたね。アルカンシェルを着られる日本人選手が出てくるには時間がかかるだろうなぁ……なんて思っていたのですが、パラサイクリングにはいるじゃないかと。トップレベルの選手が日本にいることを実感して、すごく感動したんです。とても気さくな方でしたが、オーラの格が違いました。

それは良い出会いでしたね。

渡辺 それとは別に、(視覚障害のある人が健常者とペアで1台の自転車に乗る)タンデム競技に健常者として参加している方とも知り合って。いろいろとお話を聞くことができ、パラサイクリングへの関心がより深まったんです。だから、「弱虫ペダル×パラサイクリング」のお話は、ぜひにと思いました。

今回のアニメには、実在するパラサイクリスト・川本翔大選手(CV:小野友樹)が登場しました。印象はいかがですか?

渡辺 実際の川本選手にならって、アニメの川本選手も片足のペダリングがとにかくきれいだなと思いました。上半身がものすごく安定していますよね。
自転車競技では、きれいなペダリングを意識するために、片足だけでペダリングする練習法があるんですけど、普通はなかなか前に進めません。両足なら左右交互に踏みつけるようなフォームでも進めますが、片足だと本当にきれいに回さないとダメなんです。そして、ペダリングがきれいだと、無駄のない体力消費で遠くまで行ける。今回のアニメは、そうした部分まで描写されているように感じました。

「僕にとっては、この(片足での)ペダリングが自然なんだよ」というセリフも良かったですね。健常者から見ればすごいことだけど、彼にとっては生まれつきだから自然なんだと。気さくさと芯の強さが伝わってきました。

健常者の坂道(CV:山下大輝)と川本選手が一緒に走る場面は、いかがでしたか?

渡辺 一緒にレースをする喜びと、それ以前の、一緒に走る喜びまで感じられて良かったです。今回のコラボでは、そこにいちばん期待していました。坂道も川本選手も同じロードバイクを使っているから、普通に実現するんですよね。分け隔てなく、誰とでも一緒に走れるのが自転車だよなぁって思います。
僕が「弱虫ペダル」で掲げているテーマの一つは、“自転車はみんなをつなぐ道具である”ということ。今回のアニメは、僕が伝えたいメッセージとも、かなり近いんじゃないでしょうか。この先のストーリーもあるんじゃないかと思えて、ワクワクしましたね。

もし、渡辺先生が続きを描くなら、どんなふうになりますか?

渡辺 坂道はスポンジみたいにいろいろなものを吸収するキャラクターなので、川本選手のペダリングから何か発見をして、技を盗むのかもしれません(笑)。
たとえば坂道は、バイクを左右に振るような派手なダンシング(立ち漕ぎ)をする巻島先輩(CV:森久保祥太郎)にあこがれを抱いています。巻島先輩が、自分にとってのいちばん速い登り方として、そのスタイルを貫いているからです。たぶん、坂道は川本選手の片足でのペダリングも同じように捉えて、「かっこいい!」と思うはず。あこがれを持って、関わっていくでしょうね。

出過ぎた質問ですが、原作のほうにパラサイクリング選手を登場させる……といった可能性はありますか?

渡辺 可能性はあると思います。キャラクターたちがいろいろなものと出会って成長していく、という物語の主軸にも合致しますし。連載を進めていく中で、作者の僕自身も常にチャレンジを必要としているので。
「弱虫ペダル」は、ロードレース漫画である前に“自転車漫画”。自転車に関することなら、あらゆるものを取り上げていいなと最近は思っているんです。「登場させます」と明言はできませんが、今回のコラボで興味はすごく湧きました。

最後に改めて、「弱虫ペダル×パラサイクリング」が完成しての、ご感想をお聞かせください。

渡辺 パラサイクリングのおもしろさを知り、多くの人に興味を持ってもらうためのお手伝いをしたかったので、とても有意義な時間でした。
改めて、パラサイクリングって、個性のある人が自転車競技をしているってことだなと感じています。自分の可能性を広げながら競争する美しさは、健常者の自転車競技と何も変わらない。それでいて、みんなに勇気を与えることができるので、すばらしいと思います。僕が「弱虫ペダル」を描く理由も、自転車を通じてみんなに元気になってほしい、というのが根本にあるんです。

これを機にぜひ、東京パラリンピックではパラサイクリングにも注目してほしいですね。自転車のおもしろさをみんなに知ってほしい。自転車競技の輪が、どんどん広がってほしいと思います。

本日は、ありがとうございました。