第5弾

ちばてつや × 車いすラグビー

上杉陸 役・玉山鉄二さんインタビュー

“いろいろな苦悩を乗り越えて前に進む、陸の人生の深さを伝えたい”

アニメの声優は初めてとのことですが、やってみていかがでしたか。

玉山 まず台本の書き方が、いつも使っている台本とは違うので、すごく難しかったです。声優の方って普段の生活で声が出ないような場面でも、声で表現しなければならないので本当にすごいですよね。今回は5分という短い時間で、陸の変化をどう見せたらよいかを考えながらやりましたが、自分のボキャブラリーの少なさにがく然としました(笑)。声優の方は役者以上に、考えることや神経を研ぎ澄ませることが多いのかもしれません。

台本を読んだときの感想を教えてください。

玉山 車いすラグビーについて最初はよく知らなかったんですが、競技を知らずに読んでも、すごく臨場感がありましたね。ちばてつやさんの描く昭和臭さであったり、男っぽいむさくるしい感じであったり、ちばさんの色がすごく出ていました。そこに僕が飛び込むんだって思うと、不安もありましたが、期待もすごくありました。このお仕事に出会えて本当によかったです。

ちばてつやさんの代表作「あしたのジョー」は、ご覧になったことはありますか。

玉山 全部見ました。僕、めちゃくちゃ好きで。ジョーって完全なヒーローじゃないんですよね。人間的に足りない部分もあるし、やんちゃな部分もあるし、斜に構えている部分もあるし。そういった部分は、今回の作品でもリアリティーのある程度に表現しました。ジョーが好きなので、ちょっと寄せたいなっていう気持ちもあって(笑)。

パラスポーツに関心を持たれたきっかけは。

玉山 東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まったとき、僕もテレビでその瞬間を見ていたんです。決まった瞬間、本当にうれしくて。僕も息子も娘も、生まれがオリパライヤーなんですよ。だから、それに関わるお仕事が来たときはもう全部やろうと思っていて。今回の「アニ×パラ」も喜んでお受けしました。
いろいろなパラスポーツに触れて、選手の人生を知っていくと、そこには深いドラマがあるんですよね。でも競技によっては、今までそんなに光が当たってこなかったものもあります。だから、僕たちがいろんな形で、そこに光を当てるための協力ができたらいいなと。本人の力はもちろん、サポートするスタッフの方や器具をつくる方など、多くの人の支えがあって、パラリンピック競技ができていると思うので。もっと僕も注目して見ていきたいです。

車いすラグビーという競技については、どんな印象を持ちましたか。

玉山 オファーをいただいてから自分で調べて、いろんな映像を拝見しました。人と人がぶつかりあう音、器具と器具がぶつかりあう金属音が響き渡って、すごい迫力ですよね。まるで戦車と戦車のぶつかりあいのようでした。時には試合中にパンクしたり、ホイールが割れたり……その力強さに圧倒されました。皆さん事故で足を失ったり、麻痺をしていたりという中で、もう一度人と人がぶつかりあう競技を選ぶっていうのは、すごい勇気だなと。僕もぜひ一度、生で試合を見てみたいです。

今回、陸を演じる上でこだわった部分はありますか。

玉山 いろんな苦悩を乗り越えて前に進む、陸の人生の深さを伝えたいと思いました。パラリンピックの競技だからきれいに見せなきゃいけないとか、さわやかなキャラクターにしなきゃいけないとか、そういう腫れ物に触るような感覚は、僕は逆に失礼な気がしていて。スポ根アニメにみんなが抱く先入観みたいなものは、排除しながらやれたらなって。例えば、普通だったらさわやかに言いそうなセリフを、ちょっとドスのきいた声にしたりとか。多分、ちばさんの絵の影響もあるかもしれません。

陸にとって、親友の雄馬(CV:興津和幸)や、ライバルのホーガン(CV:安元洋貴)はどんな存在だと思いますか。

玉山 陸が起こした自動車事故で、陸だけではなく雄馬も車いす生活になってしまって……。陸は責任を感じてしまうんですよね。でも、共に過去と向き合い、失ったもの以上のものをつかみに行こうとする。二人は最高の友人だと思います。
ホーガンとは、多分何度も戦ってきて、陸は彼より劣っている部分を感じていたんでしょうね。それで必死に自分の技術を磨いた。人って誰かがいるから頑張れたりするじゃないですか。だから陸にとってホーガンは、すごく大きな存在だったんじゃないかな。実際に世界で活躍する選手たちも、陸とホーガンのように国境を越えて友情がある。言葉が通じなくても、心が通じ合える仲間がいるのはうらやましいです。

陸のように挫折を乗り超え、パラスポーツを通して自分を成長させていく選手もたくさんいると思います。そんな陸や選手たちを見てどう感じますか。

玉山 めちゃくちゃかっこいいですよね。一心不乱に何かを目指して頑張る姿は、人として一番輝いていると思うんです。みんながみんなできることじゃないと思うので。僕、結構完璧主義で、何かが欠けていると気にしてしまうタイプなんです。だから、選手の何事にも動じないメンタルは、役者としてすごく羨ましいですね。自分もその境地へ行けたら、もっと違う景色が見えるんじゃないかなと。でも、きっと苦難を乗り越えた彼らにしか見えない景色があるんでしょうね。この「アニ×パラ」で、そんな選手たちの輝いている姿を皆さんに感じていただけたらうれしいです。

本日は、ありがとうございました。