第5弾

ちばてつや × 車いすラグビー

キャラクターデザイン・ちばてつやさんインタビュー

“選手それぞれに、自分を乗り越えたドラマがあるんです”

「アニ×パラ」第5弾として、「ちばてつや×車いすラグビー」が公開されました。車いすラグビーには、どんな印象を持っていましたか。

ちば 車いすラグビーの日本代表が、2016年のリオパラリンピックでものすごく頑張って銅メダルを取りましたよね。あの試合を見て、私はパラスポーツのおもしろさを改めて実感したんです。
ボールを奪い合う中で、鉄製の車いすでタックルをするじゃないですか。あれは、もはや戦車のぶつかり合いですよね。タイヤがパンクしたり、大柄な選手をも吹っ飛ばしたりして、迫力がものすごい。2018年の世界選手権で金メダルを取ったときもすばらしかったですね。いすに座ってテレビを見ていましたが、いつの間にか自分が車いすを一生懸命にこいでいる気になって、体をよじっていましたよ。

すっかり、この競技のファンになったんですね。

ちば ええ。車いすを素早く切り返したり、こぼれたボールに思い切り手を伸ばしたりするのも、すごい技だと思います。池崎大輔選手なんて、関節が抜けるんじゃないかと思うくらい。足だけでなく手にも障害があるのに、すごい反射神経と運動能力ですよ。相当の訓練をしているのでしょう。彼らの一生懸命に闘う姿を見ていると、とても勇気づけられます。
ただ、世の中にはたくさんのスポーツがありますから、パラスポーツはどんなに魅力があっても埋もれてしまいやすいですよね。「アニ×パラ」のような取り組みで応援できるなら、これは自分にもできると思って、キャラクターを描かせてもらいました。

今回のアニメでは、事故で傷害を負った青年2人が、一度はラグビーを諦めたものの、車いすラグビーの選手として再起し、世界の強豪に挑む姿が描かれました。キャラクターデザインは、いかがでしたか。

ちば 主人公の陸は、不注意で事故を起こして障害を負いましたが、何よりつらいのは、大切な友達である雄馬をも傷つけてしまったことでしょうね。でも、その雄馬と一緒に障害を乗り越え、やがて車いすラグビーの日本代表になる――。おもしろいストーリーですよねぇ。頭の中に、キャラクターがバッと浮かんできましたよ。
対戦相手であるオーストラリア代表のエース、ジェイ・ホーガン選手も、すぐに浮かんできました。おそらく彼も、陸や雄馬のようにすごく大変な過去を背負い、乗り越えて今がある人だと思うんですよ。だから、見た目は怖いけれども、ただの敵役じゃない。どこか、凛(りん)としたものを表現したいと思いました。

アスリートは挫折と克服のドラマを持つ人ばかりですが、パラアスリートはその最たる存在。健常者よりも深いものを持った選手がたくさんいると感じています。

障害を乗り越えたパラアスリートの魅力を、そのままキャラクターの魅力として表現したんですね。

ちば 人間って、何かしら欠けたところがあるじゃないですか。だから、私がこれまでに描いたキャラクターたちも、正義感の強いスーパーマンのような人ではなく、みんな何かが欠けている。人間の強さは、不完全な自分を乗り越えようとすることで、にじみ出てくるものだと思っているんです。「あしたのジョー」の矢吹丈も、初めはグレていて、気が短くて、性格や素行に問題があったけど、ボクシングに出会い、いつも明日を目指す人間になりました。昨日より今日、今日より明日の自分を見ているんです。

陸と雄馬が車いすラグビーの選手として再び立ち上がる姿も、まさにそうだと。

ちば だからこそ、描きがいがありましたね。陸は、もしかしたら自分の起こした交通事故で死んでしまっていたかもしれない。病院にかつぎ込まれ、自分がしたことや、自分の状態に気が付いたときには、死んでしまいたいと思ったでしょう。だけど、生き残った。足が動かず、片手がうまく使えなくなったけど、少し時間が経ち冷静になれたときに、こんな自分でも何か頑張れるものがあるんじゃないかと探していくんです。
そして、事故に巻き込んでしまった雄馬と一緒に、車いすラグビーというすばらしいスポーツに出会った。一日が一生であるかのような頑張りを重ねて、過去を乗り越え、日本代表として世界一を争うまでになった。この二人も、昨日より今日、今日より明日を見ているんです。

障害者、健常者を問わず、勇気を与えてくれる存在になりましたね。

ちば 陸や雄馬の姿は、パラスポーツのヒーローであり、普遍的なヒーロー像にも通じると思います。これは、実在するパラアスリートにもいえること。陸や雄馬がそうであるように、選手それぞれが、自分を乗り越えた強烈なドラマを持っていますからね。それぞれのドラマを知ると、自分の家族や親しい友人を応援するような気持ちでパラスポーツを観戦できると思いますよ。
陸や雄馬の姿、パラアスリートたちの姿は、自分自身にも重ねてみてほしいですね。人間はみんなそれぞれどこかが欠けていて、自分が思うようにうまくできないことも多い。でも、今の自分にもそれなりに頑張れるもの、楽しめるものがあるのではないかと必ず思えるはずです。

本日は、ありがとうございました。