第3弾

勝木光 作 車いすテニス

アニメ監督・尾崎正善さんインタビュー

“「健常者と障害者が同じように楽しめるテニス」を表現したい”

アニパラ第3弾のオファーを受けたときはどう思いましたか。

尾崎 思わず「面白そう!僕が監督をやりたい!」と手を挙げてしまいました(笑)。アニメ制作は長年やっていますが、人気アニメと実在の人物とのコラボレーションというのは初めて。新しい試みなので、チャレンジしがいがありますね。そんな作品に出会えたことに感謝しています。

今回のアニメはどんなストーリーですか。

尾崎 「ベイビーステップ」の主人公である丸尾くんと国枝選手の努力の仕方は、似ている部分がたくさんあると感じました。そこで今回は、健常者と障害者の二人が出会い、同じようにトップを目指そうと努力して、最後はお互いの異なる部分を認め合う、というストーリーにしました。

今回の作品では、丸尾くんと国枝選手が対戦するということで、どんな戦いが繰り広げられるのか楽しみです。

尾崎 試合が進むにつれて、丸尾くんは国枝選手のプレーに驚きを感じながらも、「勝ちたい」という気持ちが出てきます。一方、国枝選手は丸尾くんの分析力のすごさを実感しつつも、「負けてたまるか」という気持ちが出てきます。その“お互いの力のぶつかり合い”をプレーの中に表現しました。そして対戦後は、お互いの努力を認め合い、心の距離が縮まります。
この二人の気持ちはトップを目指す者として、健常者も障害者も同じだと思います。そんな「健常者と障害者が同じように楽しめるテニス」が表現できたらいいなと思っています。

映像の中で、特にこだわった部分はどこですか。

尾崎 いかにリアルな国枝選手のプレーをアニメならではの表現でインパクトを生み出すかです。特に、国枝選手が車いすを操作する姿を強調したいと思っているので、車いすをCGにするなど、色々と凝って作っています。国枝選手のイラストと車いすのCGの部分を、うまく一体化させて見せることができれば、リアルなプレーの迫力が伝えられるのではないかと思います。

ストーリーの中で、国枝選手がフェンスに激突しそうになるのを回避するシーンがありますが、国枝選手ご本人もリアルなプレーだと仰っていました。

尾崎 国枝選手のドキュメンタリー番組の中で、国枝選手が試合中、フェンスに激突する場面があったんです。また、国枝選手のものすごい集中力を表すエピソードとして、練習中にボールに追いつこうと必死になるがあまり、フェンスに激突して壁に穴が空いたという話を聞きました。そういう話を聞いて、このカットを入れたいと思いました。そして激突ではなく、フェンスにぶつかる寸前で、国枝選手が腕を使って回避するという動きにしました。その方が、国枝選手のすごさが際立つし、映像としてインパクトが出るかなと。クライマックスに向けての大事なシーンなので、より緊張感を持たせたシーンにしました。

ラストシーンには、どのような思いが込められているのでしょうか。

尾崎 ぜひ、アニメを見てもらいたいのですが、ラストシーンの丸尾くんは、実は私たち健常者を象徴しています。自分が丸尾くんの立場だったら、障害を持つ方にどう接していけるか、自分はどう頑張っていけばいいのかということを改めて考えてもらいたい。ラストシーンには健常者も障害者も関係なく「次に向かってみんなで一緒に頑張っていこう」という思いが込められています。

監督から見て、国枝選手はどういう方ですか。

尾崎 常に諦めずにプレーしている姿勢が素晴らしいと感じました。だから彼は、一流なんだと思います。実際に練習を見に行った際、サーブを打つ瞬間に車いすの車輪が片輪浮くことに驚きました。僕には絶対できないです。国枝選手にとって、車いすはもう体の一部なんでしょうね。僕が実際に見て感じた国枝選手の素晴らしさ、プレー中の迫力、相手に向かっていく姿勢などを、今回アニメで伝えられたらいいなと思っています。

アニメを通して、国枝選手や車いすテニスの魅力を多くの方に知ってもらいたいですね。

尾崎 僕が実際に見て感じた魅力を、この5分間のアニメに凝縮して伝えたいと思っています。1番大事なことは、このアニメを通して「こんなすごいパラスポーツがあるんだ」と興味を持ってもらうこと。これをきっかけに車いすテニスを含め、パラスポーツをぜひ実際に見に行ってほしいです。間近で選手の汗や息遣いを感じることは、テレビを観て感じる迫力とは全く違います。観客が増えてパラスポーツが盛り上がることによって、義手や義足など障害者の方のための道具も良くなっていくと思うので、まずはこのアニメを見て興味を持っていただければいいですね。

本日は、ありがとうございました。