2009年11月16日 (月)高校 "無償化" の制度設計は?
鳩山政権がマニフェストに掲げた高校教育の実質無償化。年明けの通常国会に向けて制度設計の検討が進められています。今回はその行方と課題について取り上げます。
■どんな制度に?
無償化の対象になるのは、全国360万人の高校生、その学年に相当する高専や専修学校の生徒などのいる家庭です。支給のベースになるのが、公立高校の全国平均の年間授業料に見合う12万円。国立、公立、私立を問わずに支給するとしています。公立の場合、授業料が全国平均を上回る東京と大阪などを除いては、これによりすべての生徒が授業料を納めなくてよくなります。東京や大阪は差額分を徴収するのか、しないのか、今後検討することになります。これに、私立の場合、世帯年収が500万円までの世帯に対して、私学加算としてさらに12万円、一律支給分と合わせて24万円が支給されます。これにより、私立学校に通う生徒のおよそ3割がカバーされる見込みです。しかし、私立高校の年間授業料の平均は35万円あまりですので、家庭の負担を解消するまでには至りません。そこで年収350万円未満の生活保護に準じる世帯を対象に授業料との差額分の支払い免除を検討しています。また、授業料600万円までの世帯には授業料の一部を減額する仕組みにできないか検討しています。
■これとは別に
「給付型奨学金」として、年収350万円までの世帯向けに入学金や教科書代などを国公立は3万4千円を上限に、私立は19万7千円を上限に支給できるようにするとしています。予算の総額は両方合わせて4600億円にのぼります。
このように国公立高校は授業料がタダに、私立学校の生徒も親の年収によって授業料の一部もしくはほとんど全部まで段階的に支給を受ける制度になっています。高校の実質無償化に対しては「私立高校に子どもを通わせる富裕層まで優遇するバラマキだ」とか「所得制限を設けるべきだ」とする批判があり、親の年収によって段階的に支給する制度にすることで批判をかわす狙いです。また、世帯ごとに支給すると「親のパチンコ代に消えてしまいかねない」という批判もあって、受給権は親または本人にするものの、実際のお金は学校の設置者である自治体や学校法人に入る仕組みにするとしています。
■ “無償化”導入の理由は?
一つは子どもの成長を社会全体で支え合うという考え方です。高校への進学率が98%に達し、高校教育の成果を広く社会に還元するために社会全体で費用を負担しようというのです。二つめは保護者の経済的負担の軽減です。政府は、経済的理由から進学をあきらめたり、退学したりする生徒をなくす必要があるとしています。三つめは国際的潮流です。国連加盟国が批准している国際人権規約には「無償教育の漸進的な導入によりすべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」と高校教育無償化が規定されています。日本は批准を留保してきましたが、留保しているのは締約国160か国のうち日本とマダガスカルの2か国だけ。世界標準に合わせることも理由の一つです。
■ 現場の受け止めは?
私立学校の関係者から不安の声が上がっています。一つは公立高校に生徒を取られるのではないか。公立は全生徒の授業料がタダなのに、私立はタダにならない生徒のほうが多く不公平だというのです。二つめは経営上の不安。授業料を年度初めに徴収できるのかどうか。できないとなると、国からお金が来るまでの何か月間かの資金繰りが必要で、死活問題だというのです。三つめは自分たちの学校が対象になるのか。認可を受けていない学校は対象外になる可能性が高く、高校中退者を受け入れているフリースクールや日系ブラジル人学校などは気になるところです。大学進学のバイパスとして高校卒業認定試験の受検者は毎年3万人に上っていて、制度の設計次第で進路選択を左右されかねません。
■今後の課題は?
一つは、高校無償化を優先させる理由の説明を。先の選挙では、各党とも高校生の就学支援を公約に掲げましたが、自民党と公明党は幼児教育の無償化を先行させる方針でした。財源不足が心配される中で、どちらを優先させるべきかが論点です。折しも、アメリカのオバマ大統領は、「ヘッドスタート」幼児期からの就学支援を教育の重点政策に掲げています。日本の場合、なぜ幼児教育無償化よりも優先させるのか、政府には説得力のある説明が求められます。二つめは、永続性のある制度設計を。財源に不安がある中で、高校の無償化が教育費全体を圧迫することにならないか。義務教育の段階でも学力の向上や先生の質の確保など課題山積です。そうした施策にしわ寄せが出ないようにできるかが課題です。三つめは、高校教育の将来像をどう描くのか。高校教育は学校ごとの教育内容に大きな隔たりがあり、これまで教育内容にまで踏み込んだ本格的な議論が行われてきませんでした。無償化した先の高校教育をどうするのか、「人生前半の社会保障」が求められている中で、社会の中で生きていくために高校教育に何が求められるのか、議論が必要です。
早川信夫(はやかわのぶお) 1953年福島県生まれ
教育・文化担当の解説委員。臨時教育審議会以来、20年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」やおはよう日本「おはようコラム」、スタジオパークからこんにちは「暮らしの中のニュース解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。
投稿者:解説委員 | 投稿時間:21:40
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コメント
高校生の授業料が支払えない現状は解りますが、それが良い人格の人達を育成出来るかと言えば疑問です。
学校で勉強する意識が希薄になるのを恐れています。適当に学校へ行けば良いんだから、と楽観的または、堕落した考えを持ってしまう生徒、親が増加して勉学の能力が落ちてしまうのでは?
投稿日時:2009年11月21日 02:12 | たけ

