2009年11月02日 (月)新政権 教育の未来図は?
高校教育の実質無償化と教員免許更新制の廃止に向けて動き出した新政権による教育政策。今回は、その行方と課題について取り上げます。
■ 教育政策の特徴は
「コンクリートではなく、人間を大事にする政治にしたい」。ハコものから人づくりへと政策の重点を移すとした鳩山政権の基本理念に基づいて描かれていることです。
当面する課題への対応、2年目以降の課題への対応、3年目以降に向けて議論が必要な課題とを3段階に分けて取り組もうとしています。いわば、3段エンジンを積んだロケットで、目標をめざそうというのです。
■ 教育政策を分類してみると
第1段は、当面する課題、教育費の負担軽減です。教育格差の解消と等しく教育の機会を得られるようにするための条件整備です。来年度からの実施をめざしています。
おもな施策としては、「子ども手当」「高校教育の実質無償化」「大学生への給付型奨学金制度の創設」などがこれに当たります。経済的に苦しい家庭のこどもたちに勉学のしわ寄せがきている、学習の機会を保障しようというものです。
第2段は、2年目以降に向けての課題。学校の教育力の向上策です。法律の改正を伴うものがありますので、検討を急いで、早い時期に法案の提出をめざすとしています。
おもな施策は、「教員養成の6年制化」「教員の増員」「コミュニケーション教育の充実」などです。学習の機会を保障したあとは、学習環境の充実に力を振り向けようというのです。
第3段は、3年目以降の中期的課題への対応です。地方の教育行政のあり方を抜本的に見直し、教育委員会制度を見直すとしています。戦後続いてきた教育制度を大幅に変えるものですので、時間をかけて議論する構えです。
おもな施策は、学校ごとの「学校理事会制度の導入」、教育委員会に代わる「学校監査委員会制度の創設」です。学校の教育力を向上させた後は、学校ごとに教育に責任を負ってもらい、市区町村がそれを監査するという仕組みに変えようというものです。
■3段ロケット方式の教育政策をどうみればよいのか?
現実には、政策の前に財源の確保をどうするのかという課題が立ちふさがりますが、ここでは政策に絞って考えます。
財源問題がクリアされれば、第1段で教育格差の問題に対処し、段階的に課題を議論するという道筋のつけ方は妥当ではないかと思います。少なくとも教育格差の解消については、先の選挙で各党とも具体策に違いはあっても、課題の認識では一致していました。現実に、経済的に困難な家庭を支援する就学援助制度を利用するこどもたちは、この10年で倍増しています。そこに、去年以来の景気低迷が追い打ちをかけています。間違いなく教育費に回るという仕組みをどうするのか、議論を煮詰めた上で、すみやかな実現を求めたいと思います。
■肝心なのは、第2段以降の課題への対応
学校の教育力を向上させて、教育行政の仕組みを変えるという道筋は理解できますが、教育の未来図とも言える将来の教育像がいま一つハッキリ見えていません。
第2段に掲げられている教員の資質向上はだれしも望むところです。しかし、そのために教員養成を6年にして修士号を条件とするとなると、それでよい人材を集められるかどうかは意見が分かれます。これにあわせて、10年ごとの教員免許更新制を廃止する方針です。法律改正が必要になりますので、今後さらに検討が必要です。この制度は、現場の先生の力量向上のために必要だとして導入されたいきさつがあります。廃止したあとに、どういった力量向上策を考えるのかが大きな検討課題です。10年ていど現場経験を積んだ先生に「専門免許状」を出すという案が検討されていますが、さらに議論が必要です。
■第3段は…
教育現場では議論すらされていませんので、まずは論点を示すことから始めなくてはなりません。学校理事会をつくって学校ごとに運営することで何が得られるのか、教育委員会制度をなくして自治体が監査することでどう変わるのか、なぜそういう仕組みにする必要があるのか、未来図を示した上で、説得力のある議論が必要です。
教育の分野で、今、課題として語られているのは、行政の網の目にかからない若者の状況から、教育を問い直すことです。この夏から秋にかけて開かれた教育関係の学会や研究会では、若者の現状について分析を進め、そこから逆算して、教育に何が求められるかを考えようという議論がおきています。このうち日本教育学会は、2007年当時の20歳(はたち)の若者の追跡調査を4年にわたって続けています。しかし、この世代は住所の変動が激しく、結果を分析する以前に、調査を継続することの難しさが浮かび上がっています。研究者の一人が「本来ならこうした研究は国が主体となって行うべきことなのに」と口にした言葉が耳に残っています。行政の縦割りの弊害を乗り越えるとしている新政権に必要なのは、こうした行政のはざまで見過ごされてきた課題に光を当て、しっかりと教育の未来図を描くことではないかと考えます。
早川信夫(はやかわのぶお) 1953年福島県生まれ
教育・文化担当の解説委員。臨時教育審議会以来、20年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」やおはよう日本「おはようコラム」、スタジオパークからこんにちは「暮らしの中のニュース解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。
投稿者:解説委員 | 投稿時間:11:00
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コメント
高校教育を実質的無料化しても、さして効果はありません。既にわたしの勤務校ではかなりの生徒が授業料の減免を受けています。今更授業料負担がなくなっても…なのです。
勤務先は専門科高校ですので、教材や検定受験に結構な金額が掛かります。こちらのほうが問題です。
さらに言えば、授業料の問題でけでなく、教育内容の充実にも予算を配分して欲しい。義務教育段階で身につけるはずの基本的学習態度が身についていない生徒が多すぎます。
投稿日時:2009年11月15日 00:01 | 鈴木はるな
