2016年02月25日 (木)家で勉強するようになったけれど


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 「今どきのこどもたちは勉強しない」と言われ続けてきたこどもの家庭での学習時間が増加傾向にあることが民間の教育研究所の調査から浮かび上がりました。

■ この調査は

 こどもたちの学習への意識やその実態を調べようと、民間の教育研究機関、ベネッセ教育総合研究所が1990年からほぼ5年ごとに行っているもので、今回が5回目です。今回は、全国の71校の小中学校と高校を通じて去年の6月から7月にかけて行い、小学校5年生と中学校2年生、それに高校2年生の合わせて9726人から回答を得ました。前回からの間に東日本大震災が起きたこともあって、9年ぶりに行われました。

■ 調査から浮かび上がったのは

 おもに3点です。一つは、家庭での学習時間がいずれの学年でも伸び、全体として増加傾向にあること。二つめは、中学校の理科を除いて各教科とも軒並み「好き」の割合が増え、授業の理解度も高まっていること。三つめは、勉強をすることを将来「お金持ちになるため」や「幸せな生活を送るため」に役に立つと考える子が増えたこと。これらの結果から、調査にあたった専門家は「学習離れを起こしていたこどもたちの学びの回帰がみられる。90年代初頭レベルに回復した」としています。保護者や学校の先生たちが聞いたら喜びそうな結果かもしれません。

■ 家庭の学習時間の増加について

 今回は、この点にこだわってみていきます。学習時間の平均の推移をみると、小学生の場合は、90年の第1回には87.2分だったのが、2001年の第3回で底を打ち、今回は95.8分と大幅に伸び、調査開始以来最長になっています。中学生の場合も、小学生と同じように第3回で底を打ち、前回の87.0分から90.0分に伸びています。これは、第2回目の96年調査と同じ長さです。高校生の場合は、第1回の93.9分以来、これまで4回の調査とも減り続けてきましたが、今回は前回の70.5分から84.4分と初めて増加に転じました。

■ どうして、増えたのか

 理由を探ってみると、小中学生の場合は、学習時間全体に占める宿題の割合が前回より増え、5割を超えたことがわかりました。調査対象となった学校は全国の学校数からすると一部に過ぎず、地域的な偏りはありますが、それでも、学校が積極的に宿題を出すなどして学習指導を強めたことが学習時間を押し上げたことがうかがえます。また、高校の場合は、宿題の占める割合はほぼ3分の2と前回とほとんど変わりませんが、専門家は「高校生は“ゆとり教育”が批判され、学校が学習指導を強めた時期に小中学生時代を過ごしたこともあり、学習習慣を身に着けて高校に上がってきた結果、高校での学習時間が増えたのではないか」とみています。

■ “まじめ化”の傾向?

 この調査では、家庭での学習の様子や意識についても聞いています。「計画を立てて勉強する」「授業で習ったことを、自分でもっと詳しく調べる」「授業で習ったことはその日のうちに復習する」という学習に前向きな回答が軒並み増えています。ただ学習時間が長くなっただけでなく、まじめに勉強に取り組んでいる姿が浮かび上がってきます。「計画を立てて勉強する」のは、学校が計画書を配って家庭での学習時間を管理するように指導していること、また、「授業で習ったことを、自分でもっと詳しく調べる」ようになったのは、学校の授業でスマホやタブレットでの検索を指導している学校の指導を反映しているのではないかとみられるということです。

■ 何も問題はない?

 そう思いがちですが、気になることもあります。一つは、学習時間の平均が小学校から中学校、高校と上がるにつれて、下がっていくこと。「発達段階」という言葉があるように、こどもは小さなうちは大いに遊び、次第に学習へと重心を移していくことが将来の学びのために必要ですが、現実は逆になっています。小学校でばかり学習指導を強めることの副作用が気になります。二つめは、家庭学習がテスト対策へと向かっていないか。「テスト(定期考査)前には、あなたはいつからテスト勉強を始めますか」という問いに「10日くらい前」以上の割合が中学生で初めて6割を、高校でも初めて4割を超え、調査開始以来最多。テスト勉強が前倒しになる傾向がみられました。大人たちが「学力の低下」を憂い、テスト結果に一喜一憂していることがテストでよい結果を出したいという目に見えない圧力になっているのかもしれません。三つめは、広がらないか格差。この調査では、高校で学校の偏差値ごとに学習時間を比較していますが、今回は学力の中間層の勉強時間が大きく伸びたのが大きな特徴です。これに対し、学力下位層では、前回、前々回の調査とほとんど変わらず、中間層以上の生徒の学習時間が伸び、その間の差が開いてきています。格差が広がらないように高校での学びをどう組み立てなおすのか、政府の中央教育審議会でも課題として議論されていますが、改めて検証し直すことが必要です。

 

hayakawa.jpg早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。

臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組 時論公論 や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 学校再発見バラエティーあほやねん すきやねん にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

投稿者:解説委員 | 投稿時間:15:00

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