2015年02月27日 (金)道徳はどう新しくなるのか?


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 教科化されることになった「特別の教科 道徳」の学習指導要領案が2月4日に文部科学省から公表されました。そのポイントと今後の課題について考えます。

■ 教科になることで

 文部科学省は、「読み物道徳」と揶揄(やゆ)されてきた現状を改めて、「考える道徳」あるいは「議論する道徳」といった問題解決型の道徳に変えると説明しています。これまでは道徳というと副読本に書いてある郷土の偉人ですとか、世界的に活躍している人たちの物語を読んだりする座学のイメージがありましたが、それを払しょくして、テーマごとに子ども同士で調べて話し合ったりして、自分たち自身で問題を解決していくような授業にしたいとしています。「必修化、教科化されることで、一方的に価値観を押しつけるような授業になりはしないか」と心配する声に対して、「そうならないように現場で工夫できるように配慮した内容になっている」と言っています。

■ 「考える道徳」をめざすのは

 必修化の議論にさかのぼります。道徳必修化の議論は、大津のいじめ事件をきっかけに高まりました。何がよいことで何が悪いことなのか善悪を判断できない今の子どもたちに道徳性を身につけさせることでいじめをなくそう。そのためには、道徳教育を充実させる必要があると総理直属の教育再生実行会議が教科化を提言したことが始まりでした。今回の指導要領案にも、たとえば「自分と異なる意見を大切にすること」や「誰に対しても分け隔てをせず、公正、公平な態度で接すること」が学習内容として示されるなどいじめへの対応を意識した内容が盛り込まれています。
 さらに、必修化される道徳の時間だけでは指導が十分ではないとして、各教科や特別活動、総合的な学習の時間を通じて道徳の授業時間では指導しきれなかった内容を補完するようにも求めています。

■ これでいじめはなくなる?

 それは未知数です。理由は2つあります。一つは、言うはやすく、実行するとなると難しい。もう一つは、身につけさせる内容は変わらない。この2つです。
 言うはやすく、実行するとなると難しいというのは、考えたり、議論したりした先に期待する答えが待っているからです。価値を押しつけないとは言っても、導き出す結論が決まったものである限り、結局は、誘導されてそこに至ることにしかなりません。考えたり、議論したりする学習として先行して始まった総合的な学習すら学校教育に根づいていません。そんな中で、道徳だけが理想的にことが運ぶのかというと疑問が残ります。

■ 身につけさせる内容は変わらない

 考えさせるように指導の仕方を変えるとは言っても、扱う内容はこれまでとほとんど変わっていません。違うのは、小中学校のうちに身につけるべきことがらをキーワードとして示していることです。「感謝」「礼儀」「公共の精神」など22項目にのぼります。
 一部変わったことと言えば、小学校の低学年に「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつこと」といった愛国的態度の育成が新たに書き込まれたことです。社会科は3年生から始まりますので、子どもたちに国の概念を教えていない低学年のうちに学ばせることに、戸惑いが生じるのではないかと心配されます。また、同じ低学年では、家でお手伝いをすることがこれまでは「家族の役に立つ喜びを知る」とされてきましたが、今回は「家族の役に立つこと」と変わっています。つまり、お手伝いをすることでほめられたりすることをうれしいと感じればよかったのが、行為そのものをキチンとするようにすることが求められています。

■ 考えさせるとは言うけれど

 今回の案で示された内容は教え込むための項目を並べただけ、徳目主義的な傾向が強まったのではないかとする批判が出されています。その意味では、いじめへの対応としては全体にちぐはぐな印象が残ります。徳目というのは、戦前の国家主義教育を支えた教育勅語に示された国民としての規範を示したもので、その内容が「修身」の教科書に具体的に書かれていました。そのため、戦後の道徳教育では、国民の行動を規制しかねない徳目主義の復活にならないようにさまざまな配慮がなされてきたいきさつがあります。

■ 今後の課題は

 今後作られる検定教科書と成績評価の二つです。「特別の教科 道徳」は教科書検定が終わった3年後、2018年から実施になります。教科に格上げされたことで子どもたちに成績をつけることになりますが、そのつけ方は、今後1年かけて議論されます。すでに54321の数値ではなく、記述式にすることが決まっていますが、その記述の仕方をどうするのかが課題です。先生に成績をつけられることで、子どもたちが知らず知らずのうちに先生が描く価値観に合わせてしまったりしないのか。学校がつけた成績は、入試で内申書として使われる可能性もありますので、どんな歯止めをかけるのか、かけないのか。やり方によっては子どもたちの世界を窮屈にしかねないだけに議論が必要です。

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。
臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 週末応援ナビ☆あほやねん!すきやねん! にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

 

 

投稿者:解説委員 | 投稿時間:10:30

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