2015年01月30日 (金)戦後70年 戦後教育は総決算されるのか?


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 ことしは戦後70年。教育が節目の年に大きく変わろうとしています。どんな意味を持つのか、改めて考えてみたいと思います。

■ どう変わるのか

 全体として、教育の意思決定のあり方が全体としてトップダウン型に変わるのが大きな特徴です。この4月からは、地方の教育行政や大学の運営組織がそうなります。このように戦後に源流をもつ教育制度に一通り手がつけられることになります。
 改革の中心的な役割を担った総理直属の教育再生実行会議は、おととし(2012年)の1月から去年7月までのおよそ1年半の間に、5次にわたる提言をまとめました。戦後レジームからの脱却を掲げる安倍総理にとって、戦後間もないころにできた教育制度を総決算するという意味合いがあります。

■ 教育再生実行会議の提言は

 道徳の教科化、教育委員会制度の見直し、大学の学長トップダウンの運営組織の確立、六三三四制の見直しなど、その多くが源流をさかのぼると戦後の教育改革に行きつきます。戦後まもないころ、戦前の国家主義教育の反省に立って作られたこれらの制度は、憲法と同じようにアメリカの影響下で作られたものだとして、いつかは日本人自身の手で変える必要があると、戦前への回帰を求める保守派の間で懸案と位置づけられてきたものです。戦後教育の総決算という言葉は、そうした人たちの間で使われてきたものです。
 今回、いじめや体罰などへの教育委員会の対応のまずさなどの機会をとらえて、懸案としてきた道徳の教科化と教育委員会制度の見直しについて一気に決着を図った感があります。また、第1次政権当時は教育改革に前のめりになり、景気対策に熱心でなかったこともあって、経済界は冷ややかでしたが、今回は経済再生を大きな旗印にスタートしたこともあって、経済界を味方につけたのが大きな違いです。グローバル化に対応した人材の育成をと言えば、経済界が応援してくれる構図ができ上がっています。

■ 4月から変わるトップダウン型の制度とは

 地方の教育制度では、自治体トップの意向を色濃く反映する「総合教育会議」が方針を決め、教育委員会はその合意に基づいて教育行政を行うように改められます。大学は、教授会の権限を教育と研究に限定し、人事や予算は執行部が握る。戦後長く続いてきた教授会自治から企業型の運営組織体制に変わります。こうした仕組みの先には国が頂点に立つという意味合いがあります。意思決定が早まり、スピード感ある取り組みが期待される反面、意思決定を急ぐあまり、現場の実情よりトップの意向ばかりが優先されかねません。その結果、言い出した側が現場のせいにして責任をとらない。世の中でありがちなことが、繰り返される心配がぬぐえません。

■ 今回の改革の意味は

 戦後の教育改革は戦前の国家主義教育の反省に立って行われましたので、教育委員会制度に代表されるように、教育権を行使する国や自治体の暴走を止める装置が作られてきました。車に例えると、これまではブレーキが効きすぎてなかなか速く走れませんでした。それを今回の改革によって、ブレーキの効きを少し弱めて、アクセルの力を強めたと言えます。国や自治体は走りやすくなる一方、現場はそうした行政から下りてくる改革の要請に追われる、そうした暴走を止めにくい構造になってきたと言えそうです。
 時代のスピード感の違いはありますが、急ぎ過ぎは禁物です。4半世紀前、共通一次試験から今の大学入試センター試験に変わる前後に、入試改革を急ぐあまり、「猫の目の入試改革」と言われるほど二転三転し、受験生が翻ろうされました。また、「ゆとり教育」に対する批判が噴き出した2002年の学習指導要領の改訂では、当時の文部大臣が実施を1年前倒しするように求めたことで内容の周知が徹底せず、批判を招く要因の一つになったように思います。今回も、急いては事をし損じることになりはしないか気がかりです。

■ とは言え、新しい制度に

 これをどう運用するのかは、今後、当事者に委ねられます。実施にあたっては、賛否を超えた合意づくりが必要です。教育は国家百年の大計と言われます。急ぎ過ぎてつまずいて影響をこうむるのは子どもたちです。異論や反論にも耳を傾け、知恵を集めてよりよき制度、よりよき教育内容にしていく必要があります。その際に注文しておきたいのは、為政者が子どもに何を学ばせたいかではなく、これからを生きていく子どもたちが学びたいことをのびのびと学べるようにする、まずそこに視点を置いた議論です。教育の成果は、目の前の学力が上がって一喜一憂するものではなく、将来振り返ってみて、その時に受けた教育が本当によかったと思えるのかどうかです。そうした大人の議論が必要です。また、今回の改革で戦後の教育制度を作り直しはしました。では、その先にどんな教育をめざすのか、将来に向けたグランドデザイン、長期的な全体計画までは描き切れていません。その具体像を描く責任、それこそが問われます。

hayakawa.jpg 早川信夫(はやかわのぶお) 

1953年福島県生まれ。教育・文化担当の解説委員。
臨時教育審議会以来、20数年にわたり教育一筋に取材を担当。解説番組「時論公論」や おはよう日本「ここに注目!」、「暮らし◇(きらり)解説」などの番組で、教育問題のエキスパートとして活躍中。関西地方向けの番組 週末応援ナビ☆あほやねん!すきやねん! にも出演、“のぶにぃ”の愛称で若者に人気上昇中。

投稿者:解説委員 | 投稿時間:10:00

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