伊豆諸島 神津島(2006年7月9日放送)



東京から南におよそ180q、黒潮の中に浮かぶ伊豆七島の一つ神津島は、ユニークな自然に満ちています。島の中心には火山の天上山がそびえます。この山と、黒潮がもたらす温暖多湿な気候があいまって、島には独特の生きものの世界があります。天上山の標高はわずか574m。しかし、山頂の景観は3,000m級の高峰を思わせます。それに対し、照葉樹の森が広がる山ろくは、貴重な動植物のすみかになっています。神津島ならではの自然の魅力を紹介します。

天上山
天上山
島の主峰・天上山(標高572m)は釣鐘状の特異な形をした火山です。1200年ほど前に最後の噴火がありました。

黒曜石の露頭
黒曜石の露頭
崖の中腹、黒い帯のように見える部分はガラス質の黒曜石です。石器の材料として知られ、2万年以上前から人々が採掘のために島へ渡ってきました。

天上山山頂の砂漠
天上山山頂の「砂漠」
噴火で噴出した軽石の斜面は、つねに強い風が吹きつけ、植物が生えない砂漠のようになっています。

砂漠に進出したオオシマツツジ
「砂漠」に進出したオオシマツツジ
厳しい「砂漠」の環境に進出できた数少ない植物の一つがオオシマツツジです。5〜6月、満開の季節をむかえます。強い風をやり過ごすため、低いドーム型の群落をつくります。

照葉樹の原生林
照葉樹の原生林
天上山の中腹にはシイやタブといった木々からなる照葉樹の森が発達しています。森は貴重な動植物の宝庫です。

コウヅエビネ
コウヅエビネ
神津島には多くの野生のランが自生しています。コウヅエビネはこの島独特のランで、5月には可れんな花を咲かせます。

イワチドリ
イワチドリ
絶滅が心配される希少種のラン・イワチドリです。岩の陰に隠れるようにして咲いています。

ミクラミヤマクワガタ
ミクラミヤマクワガタ
ミクラミヤマクワガタは5cmに満たない小型のクワガタで、地球上で神津島と御蔵島だけにしかすんでいません。飛ぶことができず、ひたすら地上を歩き回ります。また、樹液を吸わない、珍しい生態をしています。


語り 小郷 知子(こごう ともこ)アナウンサー
取材地・取材時期
交通手段
●取材地 : 伊豆諸島 神津島
●取材時期 : 平成18年5月
●交通手段 :
・竹芝桟橋より 高速船(毎日運行)で約3時間45分
大型夜行客船(金土日運行)で約13時間
お問い合わせ:東海汽船 電話03-5472-9999

・調布飛行場より 航空便で約45分
お問い合わせ:新中央航空 電話0422-31-4191
登場する地形
動物・植物
登場する地形
●神津島(こうづしま) : 神津島は伊豆七島の中央に位置する、周囲約22km、面積約19平方キロの島です。年間の降水量は2,500〜3,000mmと多く、地下水が豊富なため、多くの植物が育まれています。
●天上山(てんじょうさん) : 山頂はなだらかな台地となっていて、植物に覆われている部分と、植物がほとんど生えない「砂漠」と呼ばれる部分に分かれます。また、雨が降ると、くぼ地に浅い池が現れます。四季を通じて花々が咲き、「花の百名山」にも選ばれました。晴れた日には伊豆諸島や伊豆半島、さらに富士山まで見えるため、「黒潮の展望台」とも呼ばれます。
●黒曜石の露頭(こくようせきのろとう) : 神津島は2万年以上前の先史時代から黒曜石の産地として知られていました。黒曜石はガラス質の火山岩で、石刃や尖頭器などの材料です。神津島産の黒曜石の石器は、関東各地の遺跡から発掘されています。古代の人々は、舟でこの島と行き来していたのです。
登場する動物
●ミクラミヤマクワガタ(クワガタムシ科) : ミヤマクワガタのなかではもっとも小型で原始的な種類です。最も近縁な種類は中国内陸で見つかっており、間の地域では絶滅したものが伊豆の2つの島だけに生き残ったと考えられている大変貴重な生きものです。
●ナミエヤマガラ(スズメ目シジュウカラ科) : 伊豆諸島の神津島、新島、利島の固有亜種。本土のヤマガラから隔離されて繁殖しているため、別の種に向かって進化が進み始めているといわれます。
●ホシホウジャク(スズメガ科) : 日本には中南米でお馴染みのハチドリはいませんが、これとそっくりの生態をもっているのがスズメガのホウジャクの仲間です。羽を高速で羽ばたかせて空中にとどまり、長い口吻(舌)を花びらの奥に突っ込んで蜜(みつ)を吸います。
●マメゲンゴロウ(ゲンゴロウ科) : 天上山の山頂の池では、4種類のゲンゴロウの仲間が確認されています。この池の水は雨が降らないとすぐに干上がってしまいます。池がない時、ゲンゴロウはどうしているのか分かりませんが、水が溜まるとすぐに現れます。
登場する植物
●オオシマツツジ(ツツジ科) : 伊豆諸島を代表する花です。鮮やかな赤から淡いピンクまで色の変化が大きく、5〜6月に満開をむかえます。天上山の「砂漠」に根付くことに成功した数少ない植物の一つです。
●マルバシャリンバイ(バラ科) : 漢字で書くと丸葉車輪梅。葉が丸みを帯び、枝が車輪状に広がるところから名付けられました。天上山の岩場に多く見られます。
●クロマツ(マツ科) : 日本各地の海岸に多く見られるマツで、樹高40mに達する場合もあります。神津島でも海岸に生えるものは立派な樹木に成長しますが、たえず強風の吹く天上山の山頂では、地をはうように生えています。
●スダジイ(ブナ科) : 神津島の照葉樹林を代表する樹木。照葉樹とは暖温帯に生える常緑樹の総称で、水分の過度の蒸発を防ぐため葉の表面に光沢のあるクチクラ層(角質)があります。この層が日光を反射し光って見えるので「照葉」の名がつきました。
●コウヅエビネ(ラン科) : エビネとニオイエビネから自然状態で生まれた雑種で、神津島特有のランです。
●ニオイエビネ(ラン科) : 伊豆諸島の照葉樹林に生える野生ラン。4〜5月に花が咲きますが、自生地では絶滅に瀕しており、レッドデータの最上位にランクされています。
●ハチジョウチドリ(ラン科) : 伊豆諸島固有のランで、5〜6月に目立たない淡黄色の花をつけます。
●ヒメトケンラン(ラン科) : レッドデータに記された絶滅危惧種です。暗い森のなかで、黄褐色の小さな花を2〜3個つけます。
●イワチドリ(ラン科) : おもに岩場に生えるランです。西日本が分布の中心で、関東以北には見られず、伊豆諸島でも神津島をのぞいては生育していません。なぜこの島だけにあるのかわかっていません。花の美しさゆえに各地で乱獲され、絶滅に瀕しています。
●セッコク(ラン科) : 岩やほかの樹の上に咲くラン。神津島ではおもに天上山の山頂付近の、岩の間やクロマツの繁みの中で、強い風を避けるように咲いているのが見られます。
より詳細な情報の
入手先
◇神津島について
東京都神津島村 産業観光課
TEL 4992-8-0011
◇図書:「神津島 天上山に咲く花」
島内各所で販売しています。島外での入手法は神津島・産業観光課に問い合わせてください。
神津島は小さな島にもかかわらず、驚くほど豊かな自然があります。とりわけ天上山の山頂は、ダイナミックな景観に加えて、季節ごとにたくさんの花々が次々と咲き、まるで別世界のようです。そんな世界に、高齢者の方や子供さんでもわずか1時間余りで登ることができます。取材したのはオオシマツツジをはじめことのほか花々が豊富な時期でしたが、意外にも訪れる人が少ないのに驚きました。
その反面、心ない人々による貴重なランの花々の盗掘や、昨今の“ムシ・ブーム”の影響で、ミクラミヤマクワガタの乱獲を心配する声が地元で聞かれました。「人は星をわがものにしようとは思わない。星の美しさを喜ぶだけだ。」とは、ドイツの哲学者ショーペンハウエルの言葉ですが、この気持ちを花や昆虫など“地上の星”に対しても抱きたいものです。


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