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さなイチ

タイトルバックのテロップを制作したアートディレクターの寺部晶に聞きました。

 

寺部 晶 (てらべ あきら)
『NHK紅白歌合戦』(2012年)、『NEWS LINE』(2013年)、『NHKスペシャル ミラクルボディ』(2012年、2014年)、『NHKスペシャル 生命大躍進』(2015年)、『NHKスペシャル NEXT WORLD』(2015年)などを担当。

Q.タイトルテロップ制作の話があったのはいつごろですか? 番組側からどんな要望がありましたか?

僕が『真田丸』のタイトルバック制作チームに入ったのは2015年の8月です。挾土秀平さんの題字と実写をメインにした映像に負けないように、テロップデザインもこれまでにない表現を行いたいというお話でした。
屋敷チーフプロデューサーから、“名前が主体として見えるタイトル映像”を作りたいという要望があり、デザインの取り組みとしてどんなことができるか、というところからはじまりました。
タイトルバックのプランはとても直球勝負で、さまざまな美しい実写の情景で構成された映像になるという印象を受けました。これまでの大河ドラマでは、白文字のシンプルなテロップをレイアウトする作品が多くありましたが、今回は文字自体に質感や動きなどの要素を足すことによって、映像とテロップがひとつのグラフィックとして計算された美しさを目指すことを考えました。
とはいえ、1回きりの番組であれば、今のCGはおおよそ何でも出来ますし、かっこいいモーションで見せることもできます。しかし50回放送するわけですから、コンスタントに作るには時間的に難しい。そこで、50回分のテロップを1年かけてきちんと作っていくためにベストなものをシミュレーションした結果、アフターエフェクツという映像編集ソフトを使うことにしました。映像の仕事では使用頻度の高いソフトです。そのソフトで新しいシステムを組んで、文字を打ち込めば現在使用しているタイトルテロップの書体になり、なおかつ質感や動きも反映される仕組みを提案しました。ただ、大河ではそのような方法でテロップを作ったことはなかったので、演出、編集の方たちには早い段階からご相談しながら進めていきました。

Q.タイトルバックのテーマはどんなものですか?

タイトルバックのクリエイティブディレクターである佃さんの考えるテーマは、“シンプルに美しい実写の強さを見せること”でした。その背景に合わせるには、デザイン的にとがったものというよりは、挾土さんの土壁と題字をメインにしながら、“土の質感を持った名前テロップ”が合うのではと。絵コンテを見て驚いたのが、人間があまり出てこないことです。各回のハイライト部分はありますが、それと最後の赤備えの騎馬隊以外は、風景や城の映像がメインとなっています。毎回、タイトルで番組が始まる『真田丸』では、テロップの文字の方が出演者の映像よりも先に出ますので、ある意味、出演者の顔となります。そんな文字ですから、書体が美しくなかったら残念です。視聴者の方からもキレイだと思ってもらえるように、かなりの時間を費やして、できる範囲のすべてのシミュレーションを行いました。
一般的に“キレイな文字を見ること”に皆さん慣れていて、広告グラフィックやインターネットで見るインターフェイスの文字も、すごくキレイで見やすいのが当たり前になっている。そんな中で、じゃあ大河ドラマではどんな文字が出てくるだろうという風に見られるので…ものすごくプレッシャーを感じました…(笑)。

Q.過去の作品からイメージを探すなど、リサーチされたのでしょうか?

僕自身、大河が好きで、今までの大河のタイトルバックはよく見ています。なかでも好きだった『功名が辻』(2006年)のタイトルは、なぜ当時好きだったんだろうと振り返って見直しました。それぞれの大河に、タイトルバック映像とテロップの関係性があるなと。今回はそれに負けないように、この背景にこそ、この文字がある、という関係性が分かるデザインにしたいと思いました。

Q.採用されなかった試行錯誤の段階のものがたくさんあるとか…?

挾土さんの土壁の質感を目指そうということで決まりましたが、テロップの文字に質感を付けると、視認性が低くなる場合があります。例えば、堺雅人さんのテロップでは背景に情報量の多い映像(竹の壁)が付きます。背景に対してテロップが馴染みすぎ、きちんと読めるのか、という問題はありました。
今回、僕たちがデザインできるのは画面全体の中でも小さな面積ですから、その中でどれだけキレイに見せられるかを考えています。

挾土さんの土壁の写真を撮らせていただいて、表面にどんな質感があるかを研究し、土壁らしさを追求しました。最終的に、文字の形に合わせた縁(へり)のようなものがあると土の雰囲気が出るのではと思い、完成版のデザインになりました。

例えばこの書体の場合は、文字の細部に土が残った感じを付け加えることで、土に手書きしたような風合いを出すことを目指しました。書体も現在のものとは違います。ほかに、文字自体に色をのせてみてはどうかとか、“真田RED”がキーとなるので試してみましたが、赤は背景に埋没しがちで、不採用でした。

挾土さんの土壁の写真を撮らせていただいて、表面にどんな質感があるかを研究し、土壁らしさを追求しました。最終的に、文字の形に合わせた縁(へり)のようなものがあると土の雰囲気が出るのではと思い、完成版のデザインになりました。

提案する前に自らボツにした案では、まず動画の取り組みになりますが、題字『真田丸』が割れると聞いていましたので、その割れた破片から三谷さんの文字が出来上がる。というアイデアがありました。
文字の色も赤くして試したのですが、破片から文字が完成するまでに時間がかかってしまうので…ボツになりました。

次に、今回の映像は印象的な光が多かったので、“光を浴びている文字”を作る。というアイデアがありました。逆光を受けているテロップを考えたのですが、50回のなかで同じ映像に毎回必ず同じ人が出るわけではないので…ボツにしました。

こういったテストを繰り返すうちに、ひとつひとつのテロップに違う加工を行うよりも、全体にアニメーションを付けることにしました。50回見るうちに気づいてもらえたらうれしいな、という細部のお話ですが、それぞれのテロップに入っている光(ハイライト)がゆっくり動く、というアニメーションが付いています。
堺雅人さん、草刈正雄さんなど、ブロックの頭や終りの位置のテロップに、これまでにはなかった出方、消え方の動きを、土壁からインスパイアされた砂のような動きにしています。佃さんの考える“泥臭い”“物感(ぶつかん)がある”というコンセプトに最も適した表現を、と考えました。

Q.色がゴールドっぽいのは…?

出演者の文字(名前)を画面上の主役に見せたい、という思いがありますので、文字自体を際立った美しいものにするべく、前に出てくる色、ゴールドに近い色にしています。

Q.カットによって文字への光の当たり方が変わっているそうですね?

絵と文字がなるべくシンクロして見えるように、光の強さは変えています。カットごとに、背景ごとに文字の影の強さも変えています。変えたことによって、50回分の運用に支障が出ないように作っています。

(明るい色の背景に切り替わる瞬間に、文字の影も明るくなっている)
コントラストの強い画面が続きますので、それに合わせた調節をしています。

僕たちの業務ではデザインしたものを1回放送して終了、ということが大いにあります。今回特殊だったのは、作って完結するのではなく、編集室の映像技術チームが、僕らの作ったシステムを1年間運用していくということ。なので、文字のデザインが決まってから“システムの運用シミュレーション”にかなりの時間をかけました。テロップの修正にどんなパターンが考えられるか演出部の方から聞いて、それに対応できるシミュレーションが必要でした。

実際にテロップを打つスタッフのために作った“使用ガイド”がありまして、熟練者でなくても、このガイドを見れば作業できるように、修正のパターンをまとめています。これを作ることで、僕ら自身も、きちんと運用できるかを確認することができました。

現場のスタッフからのリクエストで追加したものもあり、文字数や行数によって汎用のレイアウトを作ったりもしています。僕の作業の最後の数週間は、システム運用のシミュレーションにほとんどの時間を費やしていたかもしれません(笑)。

現場のスタッフからのリクエストで追加したものもあり、文字数や行数によって汎用のレイアウトを作ったりもしています。僕の作業の最後の数週間は、システム運用のシミュレーションにほとんどの時間を費やしていたかもしれません(笑)。

どうしてもデジタルで作るとCGっぽさが見えてしまうところがありますが、背景の映像がフィルムタッチで作っていますので、いかにして質感に手触り感をもたせられるかを追求し、“真田丸フォント”として使える質感にしました。非常に複雑な設定があるため、編集ソフト上でも、実際に各回のテロップを打つスタッフには、その部分は触らないようにとお願いしています。
テクスチャーの画像が1枚あって、それを切り抜いているのではなくて、文字そのものにテクスチャーをつけ、色を付け、光を当てて、ということをソフト上で自動的にできるセッティングをしています。このテロップのグレードは、通常ならタイトルロゴで使うレベルのものですが、それで全てのテロップを作っている。これは大河だからこそできたことです。そういったことも含めて今回は、時間をかけられる贅沢な仕事でした。

Q.放送が始まってから、周りの方からの反響や感想などはありましたか?

僕自身も大河ドラマのタイトルバックへの憧れがあってこの仕事に就いたので、自分が担当した大河がオンエアされているのは本当にうれしいことです。とはいえ、タイトルロゴならまだしも、テロップが話題になることはあまりありません。その中で、周りから、映像と文字の世界観がすごく合っていていいね、という感想をもらえたので、うれしかったのと同時に、大河はやはり細かいところまでたくさんの人から見られているんだなということを実感しています…!

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