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マップ制作NHKチームのリーダーで3DCGアーティストの鴫原和宏さんに、戦国時代の勢力分布を映像化した3DCGマップについて伺いました。

 

戦国シミュレーションゲーム「信長の野望」のファンにはおなじみの、戦国時代の勢力分布を映像化した3DCGマップ。『真田丸』では番組用に再構築し、物語の状況説明に使っています。予想以上に難航したというその作業と苦労について、マップ制作NHKチームのリーダーで、3DCGアーティストの鴫原和宏さんに伺いました。

鴫原 和宏 (しぎはら かずひろ)
3DCGアーティスト。
NHKでは『坂の上の雲』(2011年)、土曜ドラマ『負けて、勝つ』(2012年)、大河ドラマ『八重の桜』(2013年)のVFXを担当。映画は『男たちの大和』(2005年)、『東京タワー』(2007年)、『ヤッターマン』(2009年)、『暗殺教室』(2015年)など。

Q.ゲーム用の3DCGマップをテレビ番組用に使うにあたって、実作業的にどんなことからはじまったのでしょうか。番組側からの要望はどんなことがありましたか?

鴫原さん
シブサワ・コウさん率いる「信長の野望」チームから提供されたゲームの3DCGマップデータを変換する作業は簡単ではなく、さらっと出来たということではありませんでした。正直、僕らもシブサワ・コウさんのチームから「そんなんじゃだめです」と怒られながらやった部分もあります。もちろんシブサワさんも、半端なものは出せないということがありましたし。
まず最初にとりかかったのは、ゲーム用のCGデータを、汎用の3DCGソフトで使えるようにコンバートすること。それを使ってどうやってカメラワークをつけていくか、上手くドラマの中の状況を説明できるように見せられるかのシミュレーション、そのふたつですね。

Q.コンバートとは…?

鴫原さん
ゲーム用のCGデータは、専用のソフト、専用のハードウェアがあってはじめて動くものです。それをそのまま他のソフトに持ってきても、描画することはできません。そこで、3DCGの汎用ソフトでも動くように変換する、作り変えることが必要でした。
僕はVFXの仕事に長く携わっていますが、ゲームのCGデータは初めて見ましたので、それをコンバートするにあたって最初は色々と戸惑いがありました。でも今になって振り返ってみると、「信長の野望」マップは、データ量はものすごく重いのですが、洗練されていて構造が実にスマートなんです。量は多いけれども、理路整然としているというか。そのことに気づくまで少しかかりましたが、それが理解できてようやくコンバートできました。

Q.1年以上前からマップ作業に着手されていたとか。

清水拓哉プロデューサー
初めてシブサワさんのチームにお会いしたのは、2014年の5月です。

鴫原さん
コンバートの作業に1年近くかかりました。その後、カメラワークを決めるためのシミュレーションを何度も試していきました。

Q.テストムービーを提出しては、清水PからNGを出され…を繰り返したわけですね。

鴫原さん
(笑)。そこまですごい回数ということではありませんが、今日久しぶりに、最初のテストムービーを見てみたら、今のマップのムービーとは全然違いましたね(笑)。はじめはコンバートのやり方がうまくいっていなかったので、地図そのものがまだ荒かった。シブサワさんのチームからも色々アドバイスをいただきました。

清水P
そもそも、ゲーム用のCGをテレビ用にできるのか?という検証に時間が必要でした。つまり、毎週毎週、50回に渡って放送する大河ドラマでは、お芝居部分も全て含めた映像編集で、地図で表現する内容が固まってから2~3週間でマップを完成させないと間に合わない。もちろん、途中で部分的に変更したいことも出てきますし、そのペースで50回作り続けられる代物になるのかが一番の問題でした。

鴫原さん
データが重過ぎると、修正や変更に対応するにも時間がかかりますので、なるべく軽くしようということでしたね。

Q.ゲームと『真田丸』、マップの最大の違いとは?

鴫原さん
地形のデータは基本的にはゲームと同じです。ほかにも“兵士の行軍”のモデルデータもそのままです。それに貼るテクスチャー(表面の質感の表現)などはアレンジを加えています。例えば、“富士山は絶好の目印なので、アイコンぽく見せたい”と監督からオーダーがありましたので、分かりやすい富士山になるように描き換えています。

(第1回「船出」より) 兵士の行軍

(第1回「船出」より) 富士山

3D(立体)で表現するとデータが重くなってしまう部分は、なるべく3Dに見えるような2D(平面)で擬似的に表現しているのもデータを軽くするためです。3Dで表現したものはレンダリング(映像化するための演算処理)にも時間がかかりますので、雲などは2Dで描いて、2Dのソフトで置いておけば作業上も軽く出来ます。

清水P
毎回マップを作るときに、“どのくらい広いエリアを見せるか”が悩ましいところです。見せたい地域だけに寄る(映像的にアップにする)と周囲との関係性が分からないから、引いたところも見せますが、やりすぎるとディテールが分からなくなる。「三浦半島までは入れよう」とか「能登半島まで引こう」とか。
それと、3Dらしさを見せるためにカメラを水平にしたり。水平にすると地形の高低差は分かりやすいけれども位置関係が分かりづらい。だから、(第4回「挑戦」では)水平の沼田城から、俯瞰(ふかん)で関東甲信越全域まで引いてみたりしています。

鴫原さん
“高低差が分かる”というのは、大河ドラマの説明としては新しいかもしれません。当時は交通網も通信網も発達していませんから、地形が及ぼす影響は大きかったと思います。

Q.第1回から毎回マップが登場しています。すべてイチから作っているのでしょうか?

鴫原さん
日本地図のベースやアイコン(武将の顔写真、家紋など)は用意してありますので、各回の監督のオーダーに沿ってカメラワークをつけていって、必要なアイコンを置いていく、という感じです。ベースは1年かけて作ったものがありますので、そこから各回のマップに仕上げていきます。

Q.ということは、日本全国、どの地域でも使おうと思えば使えるのでしょうか?

鴫原さん
そうですね、戦国時代劇用なので、北海道と沖縄はありませんが…。大泉さんから怒られるかもしれません(笑)。東北から九州までは使えます。

Q.今は信濃が中心ですが、今後の展開で東北や西日本のマップも見られるということですね。

鴫原さん
今のところカメラワークは南側から見ているマップになっていますが、逆からも出来ます。戦っている大名からしたら、北か南かというのは関係なくて、地形だけで判断しているはずなので、逆から見るとこういう地形…という、“上杉目線マップ”を見せるのも面白いのではないでしょうか。

清水P
それいいですね、1度やってみますか!

鴫原さん
まあ、あまり色々出来ると言っちゃうと、自ら墓穴を掘るんですけども(笑)。

Q.監督からのムチャぶりはありませんか?

鴫原さん
基本的には僕たちの意見を尊重していただけることが多いですが、大変なのは、“大名の領地”ですね。陣地の色分けが毎回少しずつ変わるのを間違えてはいけないので。

清水P
今回のマップ起用には当初スタッフ内で反対の声もありました。それはまさにその“領地”が毎回コロコロ変わっていくし、最も混沌とした天正10年(1582)をやる。毎回考証の先生の確認を経てからCGマップを作るなんて間に合うのかと。今のところギリギリ何とかやってますが(笑)。

ネットでの反応を見ていたら、上杉領が空白になっているところ(上杉の青色になっていない)に気づいてくれた人がいてうれしかったですね。天正10年前後は家臣が反乱していてその地域は上杉領ではなくなって、飛び地になっているんですよ。

(第1回「船出」より) 上杉の領地が飛び地になっている

鴫原さん
確かにそこのマップを作っている時に「なんでここ切れてるんだろう? つなげていいじゃない?」と思っていました(笑)。

Q.映画やCM、ドラマのVFXのお仕事をされていて、『真田丸』の3DCGマップとの違いはありましたか?

鴫原さん
エンターテインメントのCGは、かっこよくあることが大前提です。絵的なかっこよさを追求していれば多少の間違いなどは気にしないところもありますが、『真田丸』では歴史に沿った表現ですから、間違いがあってはいけない、その中でどううまく見せていけるかを考えています。NHKの仕事ではいつも、お城に関しても、ちょっとでも間違えてはいけないというのがありますので。

清水P
第14回(4月放送予定)から大坂城が登場します。その大坂城のCGを作っているのも鴫原さんチームです。実写と見まがう大坂城になっていますので、ご期待ください!

Q.3DCGでゼロから城を作る作業とは?

鴫原さん
モデリングといって、元になる形を作って、そこに表面の絵を貼っていくという作業です。

Q.設計図があるんですか?

鴫原さん
設計図はNHKからいただいたものを使って、それを見ながら、合ってる間違ってるというのを繰り返しながら作っていきます。はじめはワイヤーフレームで形を作って、ポリゴンといって面を貼って、そこに壁なら壁のテクスチャー、屋根なら瓦のテクスチャーを貼っていきます。大坂城のCGにも1年近くかかっています。

清水P
大坂城の研究をされている木岡敬雄先生から、360度どんな建物だったか分かる図面をお借りして、参考にしつつ、図面を元に組み上げたCGを木岡先生にチェックしていただいて。本当に細かいところまで厳しいチェックを受けて何度も修正していきました。

Q.突っ込んでお聞きします。若年の視聴者層拡大をねらってのマップなんでしょうか…(笑)?

清水P
なるべく戦国時代が好きな人たちに見てもらいたいということで、“This is 戦国時代劇”を三谷さんも思っていらっしゃるし、そういったものが好きな人たちにも見ていただきたい、というのはありますね。
“ゲームと同じマップが毎週出てくる!”ということで見てくれる人の間口を広げられたらという思いはあります。

鴫原さん
…もし時間があればですけども、マップはいま“夏バージョン”ですが、「信長の野望」のテクスチャーを使えば“秋バージョン”とか、季節ごとに変えられると思います。もしそういうご希望があれば…。

清水P
でもね、例えば天正10年の冬が来て、マップを冬バージョン、雪バージョンにしちゃうと、そのマップの前後に出てくるお芝居のシーンでもちゃんと雪を降らせないといけないんですよ、その問題があるんで…(笑)。「冬の春日山城…ドカ雪なんだろうな…」とか思いますけど、セットに雪を積もらせるのは大変なお金と時間がかかるので割愛します…(笑)。

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