障害者採用

「自分に何ができるか」よりも
「自分は何をやりたいか」が大切

ディレクター 長嶋 愛 2003年入局。ディレクター、制作局
文化・福祉番組部所属。両耳、聴覚障害。

NHKを志望した理由は?

小学校の先生を目指していましたが、途中で挫折しました。テレビのバラエティー番組が好きだったので、ミーハーな気持ちでテレビ局を受験し、結局、NHKだけ受かりました。
幼い頃から補聴器をして育ち、もともと耳は悪かったのですが、入局当時は電話もできたし、特に配慮が必要だと思っていませんでした。
ただ中継の時は、現場やスタジオ、様々な音声をキャッチしなければならないため、先輩に同行してもらい、サポートしてもらっていました。それ以外は、他のディレクターと同じように仕事をしていました。 でも年齢とともに聴力が低下し、5年目には電話もできなくなり、音声だけの会話は困難になりました。

NHKの職場環境はいかがですか?

実は、最初に「通訳をつけてディレクターを続けたい」とNHKにお願いした時、断られました。「健常者と同等に働けることが前提で、賃金に差を設けていない。特別なサポートは認めていない」という返事でした。悲しくて涙がこみあげてきましたが、それ以上どうすることもできず、局内でできる仕事をやっていました。
当時は、とにかく周囲の人に申し訳ないという思いでいっぱいでした。1時間以上ある会議を、ひたすら同僚が筆談してくれました。また、体は元気なのに、周りが忙しい中、自分は座っているだけ。電話も出られない。誰かに声をかけるだけで、筆談をお願いすることになる。「辞めたい」と初めて思いました。でも一方で、「このままお荷物のような状態で終わっていいのか」という思いも芽生えました。以来、どんなに小さな仕事でも、自分に任された仕事は、求められた以上のものに仕上げてやると、自分を奮起させて取り組んできました。

NHKの方でも、他の働き方の方が合うのではないかと、著作権の事務処理に関わる仕事など、いろいろ提案してくれました。でも、私はどうしても番組ディレクターの仕事をやりたかった。ですので、それだけはこだわって、伝え続けてきました。
昨年から正式に、音声を文字に起こす通訳をつけて、働けるようになりました。基本的には毎日、取材や編集、会議など、ディレクター業務にかかわる音声情報全てを通訳してもらっています。今は最高に働きやすいです。周りとのコミュニケーションも円滑になり、ちょっとした意見交換から、深い議論まで自由にでき、本来持っている力を発揮できるようになっただけでなく、それ以上の力を周囲に引き出してもらえます。

仕事のやりがいを教えてください

音のない世界を知っている私にとって、映像というのは、音があってもなくても、人の生き方や世界観、全てを伝えてくれるものと思っています。インタビューで「幸せです」という言葉が撮れるよりも、つり上がっていた眉毛がゆるんで、顔をほころばせる表情を撮れた時の方が、とても嬉しいし、やりがいを感じます。映像は嘘をつきません。その面白さは、聞こえない私だから見えることかもしれません。
以前は、取材から撮影、編集全てを担当するディレクターは、1人で全部できなければならないと思っていました。でも番組は、カメラマンや音声さん、編集マン、プロデューサー、いろんな人がかかわり、チームワークで作ります。障害があってもなくても、1人で作れる番組はないのです。そう気がついてから、とても気が楽になりました。
通訳をつけると、当然、費用が発生します。でも、投資してもらっているのだと考え、プレッシャーはありますが、自分にしかできない番組を作り、応えていきたいと思っています。
現在は、福祉班に所属し「ろうを生きる難聴を生きる」や「ハートネットTV」を作っています。福祉という枠にとらわれず、伝えたいことを大事に、自由に作っていきたいです。福祉や障害者の番組というと、敬遠する人もいますが、映像の力でもっと身近に感じてもらうことができると思っています。関心のない人にも届くような番組を作っていきたいです。

就活生へメッセージをお願いします

障害があると、「やりたい」ことよりも、「自分には何ができるか」を考えて、仕事を探す人もいると思います。でも、障害のことはいったん忘れて、自分は何をやりたいのか、自由に考えてみて下さい。仕事をしていると、障害関係なく、様々なことに悩みます。その時に、全ての原動力になるのは、自分の意志です。本人に「これがやりたい」という思いがあれば、NHKには自然と手を貸してくれる人たちがいます。私は、障害にとらわれず、「番組ディレクターがやりたい」という思いがあったからこそ、今の働き方が実現したと思っています。
NHKのダイバーシティは始まったばかりです。障害者が働く上では、まだまだ前例がないことも多いと思います。だからこそ、障害者の視点や意欲が必要です。是非、NHKに新しい風を吹き込んでほしいと思っています。