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Discover science column

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今回の実験は「坂の下で会いましょう!」

今回はウラ話がたくさん──実験レンジャーたちがこういうときは、実験が難航した証拠です。

同じ高さのスタート地点から始まる4つの坂道。ここにボールを転がします。距離が最も短くなるのは直線ですから、これが一番先に到着すると思いきや、そうはなりません。距離だけでなくボールが転がるスピードが大事になるからです。

たとえば、スタート地点からすぐに上り坂があったりしたら、ゴール地点がいくら下にあってもボールは転がっていきませんよね。スタート直後の下りは緩やかで後半は急になる青い坂は、なかなかスピードが上がらず、ほかの坂よりもかなり遅い到着でした。スタート直後の傾斜が急であるほうが、より速いスタートダッシュが可能になります。ですが、一番、傾斜の急なピンクでは最後の瞬間に白い坂のボールに抜かれてしまいます。前半の傾斜が急である分、後半は緩やかになり、ボールのスピードが遅くなってしまうのです。

今回の実験で、白く塗られた坂は「サイクロイド」と呼ばれる曲線になっています。円周の1点に目印をつけてその円を転がしたときに描く曲線が、サイクロイド。転がるボールが一番速く到着する「最速降下曲線」です。

今回の実験では、最初に試されたのはボウリングの球でした。重い方が空気の影響を受けにくく、計算通りの結果を得られると考えたからだそうです。坂ができあがった時点で、実際にやってみると……

ピンクの方が速い……!

なぜ計算通りにならなかったかのでしょう? 硬くて表面の滑らかなボウリングの球は、ピンクの坂のような急な斜面では、転がらずに滑っていたのです。さらに、ゴール付近を転がり抜けるボウリングの球は、重さもスピードもあるので、かなり危険な存在であることもわかりました。そこで、急遽(きゅうきょ)、ボウリングの球からゴムボールに変えることに。坂は表面が多少でこぼこした木でできていますので、ゴムボールであれば滑らずに転がっていきます。これが、収録の2日前のことでした。

収録日は、ゴムボールで行ったわけですが、今度は軽くて空気の抵抗を受けてしまいます。計算通りであれば、同じ坂で何度やってもゴールでは同じスピードになるはずなのですが、そうならない。映像を見ると、ボールが少しふらつきながら転がり落ちていることもわかります。これは、結構、深刻でした。大実験では10の坂から同時に転がして、ゴールで一緒になるようにしたかったからです。このままでは、微妙にずれることが容易に予想できます。

ですが、実際にやってみたところ、ぴたりと一致。これには参加していたすべての実験レンジャーから「おお〜」という声があがったそうです。なぜ、うまくいったのかは「正直、わかりません」。

ところで、ボールが最も速くゴールにたどり着く「最速降下曲線」がどんな曲線であるのか、昔の人たちの議論がありました。円弧、つまり円周の一部分の曲線だという説もあったようです。面白いのは、最速降下曲線がサイクロイドだと突き止めたのは、計算からであったという点。実験で試したわけではないようです。摩擦や空気の抵抗などで、計算通りの結果にならなかったかも知れませんね。

(日本科学未来館・詫摩雅子)