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Discover science column

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今回の実験は「アリと巨大な壁」

番組では言っていませんが、壁の素材は発泡スチロールです。軽い素材ですが、5メートル(2階建ての建物ほどの高さ)ともなると、重さは180キログラムになるのですね。最後の壁がドーンと轟音(ごうおん)を立てて倒れるさまは迫力がありました。

実験レンジャーの記録を見ると、当初、一番大きい壁の高さは10メートルだったようです。しかも、アクリル板で実験を始めています。アクリル板で10メートルって……。いやいや、いくら大科学実験でもそれは無理でしょう。最後の壁は100トン近くになるはず。危ないですって、そんなものをドーンと倒したら。

次に検討したのが、模型飛行機などに使う軽い木材のバルサ板。それでも5メートルの壁で重さ1.4トンなので、断念。さらに軽い発泡スチロールとなりました。

「大科学実験」には珍しく、1ミリ以下を測って壁を並べた今回の大実験。なぜここまで細かい数字を出したのでしょう?

2枚の壁の間隔が近すぎると、壁が倒れるスピードがぶつかったときに十分になりません。遠ければ遠いほどスピードはありますが、壁を押し倒す力よりも下向きに押す力が大きくなっていきます。また、ぶつかる位置も下になるので、次の壁が持ちこたえやすくなります。今回は倒れるか倒れないかギリギリの大きさの壁にしたので、距離を細かく合わせる必要がありました。

とはいえ、計算で求められる数字です。最初は、「失敗しそうにないので、テレビとして面白くならない」と考えていたのだとか。

ところが……。

予備実験をしてみると、倒れない。何度か試すうちに、床面の素材や倒れた壁と次の壁の摩擦も影響することがわかってきました。そして、大実験の収録日。壁を正確な位置に立てるのにも時間がかかったり、スタートしても半分も行かないうちに止まったり・・・。そのうちとっぷりと夜も更けてしまい、せめて半分くらいが倒れればいいかなと、あきらめムードになっていたそうです。

ですが、予備実験から摩擦のことを経験的に知っていた実験レンジャーは、摩擦を減らすためにテープを用意していて……。お見事です!

なお、テープの効果は、摩擦を減らすだけではないだろうというのが、レンジャーたちの考えです。1つは、上の方に貼ったので、テープの重さで壁の重心がわずかに高くなり、倒れやすくなったというもの。もう1つは、予備実験での観察に基づく考えです。予備実験では発泡スチロールは実験を重ねるたびに表面がへこみ、同時に、どんどん倒れやすくなったというのです。

発泡スチロールの壁同士はいつも同じ位置でぶつかりますので、その部分だけがへこんで固くなり、凸凹だった表面がなめらかになっていったそうです。その結果、倒れる壁が、点ではなく線や面でぶつかるようになり、回を重ねれば倒れやすくなったのだろうというわけです。

テープには、表面を固くなめらかにする効果があります。摩擦だけではなく、こうした効果も影響しているのだろうという考察でした。繰り返し実験をした人ならでは発想です。やっぱり、実際にやってみるのは大事ですね。

(日本科学未来館・詫摩雅子)