当事者たちの意外な思い 『ゆかいな認知症』奥野修司①

ざっくり言うと
2019/01/25 すっぴん! 「すっぴん!インタビュー」 ノンフィクション作家 奥野修司さん
認知症当事者たちに聞いてわかった意外なこと
知識があれば認知症になっても元気でいられる

文学

くらし・健康

2019/01/25

9時台の放送を聴く
2019年1月25日(金)放送より

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【出演者】
高橋さん:高橋源一郎さん(金曜パーソナリティ)
藤井アナ:藤井彩子アナウンサー(アンカー)
奥野さん:奥野修司さん(ノンフィクション作家)


東日本大震災で大切な家族を亡くした人々の霊体験を取材した『魂でもいいから、そばにいて -3・11後の霊体験を聞く-』を2017年に発表し話題になったノンフィクション作家の奥野修司さん。次に取り組んだテーマが「認知症」です。取材をしているうちに見えてきたものは、一般的に思われているものとは全く違った認知症のあり方でした。当事者も介護する人も心が軽くなるお話を伺いました。


藤井アナ: 朝早くにありがとうございます。メッセージが来ています。
<『魂でもいいから、そばにいて』読みました。震災のあった7月に行った気仙沼、昨年まで年に何回か通った陸前高田。その時の様子をありありと思い出しました>と。そして、最新の『ゆかいな認知症』についても<たくさんの書店に問い合わせたのですが、今は取り寄せることができないとのこと。私の母は認知症なので読んでみたいです。今日のお話、楽しみです>。
一時、紙の書籍を購入することができない状態だったんですね。
奥野さん: 印刷ミスがあってちょっとストップしてたんですけど、もう印刷が始まってます。
高橋さん: 『ゆかいな認知症』という、なかなかあっと驚くようなタイトルではあるんですが、実はこの番組で僕、福岡の「宅老所」という認知症の施設を取材したことがあって、本当にびっくりするような体験だったんですが、なのでこの「ゆかいな」っていう意味も分かるような気がするんですが。もちろん、僕なんかがやったよりも綿密で膨大な取材もされているんですが、非常に重要でかつおもしろいテーマですよね。
奥野さん: そうですね。でも環境がよければ、結構みんなゆかいな生き方をするんですよね。だから、20人くらい本で取材したんですけど、みんなゆかいな方ばっかりで、本当は『ゆかいなゆかいな認知症』というタイトルにしたんですけれども、それじゃ長すぎるっていうんで(笑)。
高橋さん: いや、僕は『ゆかいなゆかいな~』でいいと思うけどな。

奥野修司さんは1948年大阪生まれ。立命館大学卒業後、1978年から南米のアマゾンなどで日系移民の調査をおよそ2年にわたって行いました。帰国後フリージャーナリストとして活動を始め、1998年『28年前の「酒鬼薔薇」は今』で<編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞>を受賞。2005年に発表した『ナツコ沖縄密貿易の女王』で第27回講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。ほかに『ねじれた絆 -赤ちゃん取り違え事件の十七年-』『心にナイフをしのばせて』など数多くのノンフィクション作品を発表されています。


藤井アナ: 認知症取材を始めたきっかけは何だったんでしょうか?
奥野さん: 20年ぐらい前ですけどもうちの兄が若年性認知症と診断されて、2013年に亡くなったんですね。ちょうど1年ぐらい前から表情が全然出ないし、言葉も出ないし、それまでは実家に会いに行ったりしてたんですけれども、もう行っても分かんないだろうなっていうことで、行かなくなっちゃったんですね。
当時、がんのターミナルの患者さんを取材したりしてたのに、何で分かんないと思ったんだろうって自分で考えてみたら、結局分かんないと思ってただけなんじゃないかって思ったんですね。がんの患者さんの場合は、しゃべらなくなっても、耳はちゃんと聞こえてるからしゃべりなさいって当たり前だったんですね。じゃあ、認知症とどう違うんだろう? と思ったわけですよ。
亡くなったあとに、あの時じゃあ兄貴はどう感じてたんだろうかとか、本当に分かんなかったんだろうかっていうふうな疑問が出てきて、全国を歩いて軽度から重度まで認知症の人を取材してみよう。話し聞いてみようって。だから、2年近くかけて50人くらい取材しましたかね。
高橋さん: 個人的な疑問から発したと思うんですが、それまでお兄さんが若年性認知症でお会いになってたわけですよね。それ以外の認知症の方と会って、これはどうだろうと思ったっていう経験があったわけではなかったんですね。
奥野さん: なかったです。初めてです。だから、亡くなるまでは自分の兄が認知症であることを恥ずかしくて誰にも言わなかったですね。
藤井アナ: 実際に、認知症の方にインタビューをするんだってことを他の方におっしゃったら笑われたって。そんなの無理だろうって言われたっていうふうに本に書いてらっしゃいましたね。
奥野さん: そうそうそう。
高橋さん: これ、だから逆にね「おもしろかった」って言い方は変なんですけれども、認知症の方にインタビューすると決めて始められたんですよね。その前の本もそうですけども、霊的体験について話を聞く。インタビューするって。それだって言ったら、お前なにを考えてるのかっていうふうには思われなかったんですか?
奥野さん: いや確かにあの本もそうですけども、今回もそれはできないだろうって言われて。だから2年間は全然記事にならなかったですよね。
高橋さん: 当てはあったんですか?
奥野さん: ないです。
高橋さん: それがすごいですよね。
藤井アナ: とにかく聞いてみようって思いになったんですよね。結論どうでしたか? 認知症の方は、表情が乏しくなり反応がなかったとしても。どうなんでしょうか?
奥野さん: 2年間取材してみた結論から言うと、僕は認知症って病気じゃなくて障害者だと思ったんですね。だから例えば「記憶ができない」という障害が症状の進行と共に深くなっていきますけれども、それ以外は人間の根源の悲しいとかうれしいとか、それは重度になっても変わらないんだっていうのが分かったってことですね。
藤井アナ: 悲しいうれしい。感情の部分については変わらない。例えば嫉妬深いとか、そういう特性についてもそうですか?
奥野さん: はい。そうです。

「徘徊には目的も理由もある」

藤井アナ: そんなふうに感じる、結論づけるきっかけって何か取材の中であったんですか?
奥野さん: やっぱり一番教えられたのは(島根県)出雲市にある、重度の認知症の方のためのデイサービスですね。そこにトータルで5回ぐらい行きましたね。みんな重度ですから、行ってすぐに聞くというわけにいかないんで3日と4日ってなるんですけども、大体皆さん大体5分ぐらいしか話がもたないですね。だから話を聞いても、5分か10分で同じことをずっと繰り返すっていう。
高橋さん: ループするんですよね。
奥野さん: そうそう。それをずっと3日間、聞き続けるとかね。
その中で当時、徘徊をよくする女性がいて、その方と親しくなったんですよ。その方に聞くと、徘徊って何も当てもなく歩き回るっていう意味ですけれども、そうじゃなくって徘徊にはちゃんと目的もあって理由もあるんだって言うんですよね。僕はその方に教えられたんですよね。
藤井アナ: 何とおっしゃってたんですか?
奥野さん: 書いてもらったんですよ。
藤井アナ: ご自身にですか? あ、ちゃんと文章書いてます。
奥野さん: ええ。重度の方です。カタカナだけですけども、ちゃんと書けてるんですよ。
藤井アナ: ひらがなカタカナ交じりで。
奥野さん: その中に「怒られると家出することがある」って書いてるんですよね。「私はいない方がいいと思うから家出するけど、外歩きすると気分はよくなる」。
家の中で嫌なことがあるから気分転換に出るんですよ。だけど忘れて家に帰って来れないから徘徊って言うんですよね。
その時ちょうど春のすごく晴れた日だったんですけども、僕に「風が気持ちいいわよね」って言うわけですね。「こういう時に外に出ると嫌なことみんな忘れるのよ」って。だから外に出るんですよね。ちゃんと目的はあるんですよ。目的が無いんじゃなくて。ただ帰って来れないだけなんですよね。
高橋さん: 僕は福岡の『宅老所』っていう所を訪れたんですけど、やっぱり同じようにいわゆる徘徊をされる方がいて。みんな理由があるんですよね。
藤井アナ: 人によっていろんな事情がある。でも認知症っていうともともとの原因、例えばアルツハイマー型であるとかレビー小体型であるとか、こういう場合はこういう症状、みたいに一般的には分けられてますよね?
高橋さん: でも読むと全員違うもんね。
奥野さん: 教科書的な本に書かれてるのは平均値なんですよね。人の性格が皆それぞれ違うように、認知症もみんな違うってことはやっぱり知っておかないと失敗しますよね。
高橋さん: びっくりしたのは空間認識ができない。普通に記憶もできるけれども、物をちゃんと納められないとか。そういうのも認知症にあるんだって、今回はじめて知りました。
奥野さん: 同じアルツハイマーでも、よく講演される方があるんですけども、原稿を普通に読む人もいるし、1行読んだら次の行が分からないって人もいますしね。本当さまざまですよね。
藤井アナ: 車の雑誌に認知症の介護に関する記事を書いてらっしゃると聞いたんですけど、どうしてなんですか?
奥野さん: どう言ったらいいのかな。せっかくいろんな認知症の人から話を聞いたんですから、これ介護に生かさないと意味がないだろうと思ったんですよね。
介護してる人たちの上手くいかない原因って言うのは、たぶん認知症のことをよく知らないから。介護する人はよかれと思ってやってるんだけども、それが本人にとって嫌なことだったら失敗しちゃいますよね。だから、それを知らせるにはどうしたらいいかと考えた時に、実は今日本でいわゆる売れてる雑誌は、大体60~70代の人が読者なんですよ。介護するのは40代ですよね。40代で読んでる雑誌っていったら車雑誌だったんです。
藤井アナ: 介護する世代にぴったりはまる、そういう所に載せようっていう思いで。
高橋さん: さっきおっしゃってましたけど、意外と家族って分からないもんなんですよね。
奥野さん: いや。介護をしている専門職の人も、実は分かっているつもりで分ってない。分からなければ本人に聞けばいいんですよね。
高橋さん: 聞かないんだ。
藤井アナ: 認知症の方に聞いてもしかたがないって思い込みがあるのか。
奥野さん: と、思ってるのかは分からないんですけど聞かないですね。専門職ですから知識あるじゃないですか。だから、分かってるつもりになってるのかも分からないですね。
高橋さん: 僕が行った施設も、とにかく彼らに聞く。なに考えてんのかって。実は聞くと返事返ってくるんですよね。

“励ましの言葉”がショックに

奥野さん: 一番、徘徊につながるのが“励ましの言葉”っていうのがあって。
介護する人たちは、昔の元気な姿に戻ってほしいもんだからつい「どうして覚えてないの?」「また忘れたの?」「さっきも言ったでしょう」とか、そういうのをつい言っちゃう。だけど認知症になった人にとったら、そんなこと言われてもどうにも出来ないわけですよね。だからそれがすごくショックで、逆にそう言われると叱られてると理解しちゃうんですよね。
藤井アナ: ツイッターで<叔父が認知症だった。子どものころはかわいがってもらったのに、叔父との話しが全くかみ合わなくなってしまったことを認識した時は、やはりショックだった>とおっしゃっていて、やっぱり介護する側もショックだと思うんですね。かみ合ってないと感じることもあると思うんです。そこを乗り越えて、どういうふうにコミュニケーションを取っていったらいいんでしょうか?
奥野さん: かみ合わないものはしょうがないですよね。それは障害なんですから。それが認知症なんですから。
だけど、さっき言ったみたいに悲しいとかうれしいとかそういう基本的なことは同じなわけです。もうちょっと知ってほしいのは、例えば認知症になると視野が狭くなります。だから僕らでもそうですけど、見えない所からいきなり呼ばれたらびっくりしますよね。だから必ず視野に入る。人によって45度ぐらいしかない人もいるし、70度ぐらいしかない人もあるし。見えるとこから近づいてあげるっていうのが本人も安心しますよね。後は優しく声をかけて同時にスキンシップをするとか、いろんな方法があると思うんですけども。
藤井アナ: 認知症の方もショックを受けてるんだっていうのを聞いてハッとさせられたんですけど、介護されてる認知症の方の気持ちになるには、どういう考え方をしたらいいんでしょうか。
奥野さん: 忘れることは当たり前。さっき言ったみたいに障害であって、後は皆と同じですから。接し方は赤ちゃんみたいにやさしく、ですけど、人格としては大人ですからそこは尊厳をちゃんと保たないといけない。例えば、出雲の施設は「忘れることを自慢できる空間」なんですよ。
一番つらいのは、認知症になると何もわからないから忘れても当然だろうと思ってるけど、実は本人は忘れることはすごいつらいんですよ。思っても口に出さないだけで。だからさっきの施設では忘れることをお互いに自慢し合う。そうするとすごい楽なんですよ。だからみんな元気。環境さえ整えてあげれば、すごい本人は元気になっていきますよ。
高橋さん: この本に出てくる人たちは、みんなポジティブですよね。記憶をどんどん無くしていくんだったら、じゃあ覚えていくにはどうしたらいいかっていうふうにして。

「人に頼る」は一番楽なツール

高橋さん: あと、奥野さん書かれてたと思うんですけど、社会とのつながりですよね。介護してあげる、じゃなくて、外に出ていくことで進行も遅くなるし、カバーできるようになってますよね。
奥野さん: 特に男性がそうですね。社会とつながりが切れると、本当にダメですね。
ちょっとしたことでいいんですよ。例えば僕の知ってる事業所なんかでは駄菓子屋さんをやってて、そこに子どもが来る。駄菓子屋さんの店主になるわけですよ。子どもと話をしたりする。それでも十分、社会とつながってる。時々、車でお店に行って洗車をするとか、市から頼まれて竹やぶの整理に行くとか。そういうことで向こうから自分は求められているんだっていう感覚ができるとすごい元気になります。
藤井アナ: 自分が認知症になるってことも考えておいた方がいいと思うんですけれど、なった時にこうした方がいいよって何かアドバイスありますか?
高橋さん: 本当にマジに考えますよ。
奥野さん: まず認知症のことを知っておくことですよね。事前に知ってる人って、認知症になってもすごく元気ですよ。立ち直りも早いです。後の自分の人生設計もできますから。
藤井アナ: 言った方がいいですか? 周りの人に「自分は認知症なのよ」って。
奥野さん: 言った方がいいです。オープンにした方がいいです。だって認知症になったら、誰かを頼らなくてはいけないわけですよね。その時に、カードなんかを持って「自分は認知症です」って言って「ここに行きたいんだけど、どうすればいいですか?」って聞けば助けてくれる。
高橋さん: 実際には助けてくれる人、多いんですよね。
奥野さん: いろんなツールがあるんですけど、「人に頼る」って一番楽なツールですよ。
高橋さん: 助けてもらうのも技術だっていわれますもんね。
奥野さん: 意外にオープンにすると、皆いい人ばっかりです。
藤井アナ: ちょっと、それ聞いて安心しました。カミングアウトもした方がいいし、知識を持っておけば恐れなくても大丈夫ってことですね。
高橋さん: そして、積極的に助けてもらう。

「当事者たちの意外な思い 『ゆかいな認知症』奥野修司②」 につづく

9時台の放送を聴く
2019年1月25日(金)放送より

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