『いま、会いにゆきます』著者・市川拓司、自らの発達障害を語る

ざっくり言うと
2018/11/19 すっぴん! 「すっぴん!インタビュー」小説家 市川拓司さん
韓国で映画化、大ヒット作が日本公開
「間違っている」ではなく「違っている」だけ

文学

くらし・健康

2018/11/19

9時台の放送を聴く
2018年11月19日(月)放送より

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【出演者】
宮沢さん:宮沢章夫さん(月曜パーソナリティ)
藤井アナ:藤井彩子アナウンサー(アンカー)
市川さん:市川拓司さん(小説家)


宮沢さん: すっぴん! 月曜日はパーソナリティーの宮沢章夫と、
藤井アナ: アンカーの藤井彩子でお届けしています。ここからは「すっぴん!インタビュー」。今日は今NHKで行っているキャンペーンの1つとしてお送りします。
「発達障害って何だろう?」
先天的に脳の働きの一部が異なることで特定の分野に困難さや生きづらさを抱える発達障害。見えにくい障害とも言われるんですが、どうしたら軽減することができるのか。周りの人には何ができるのか。お聴きのリスナーの皆さんと一緒に考えていく取り組みです。
ゲストを改めてご紹介しましょう。小説家で自らが発達障害の1つ「自閉スペクトラム症」であることを公表されている市川拓司さんです。改めましてよろしくお願いします。
市川さん: よろしくお願いします。
宮沢さん: よろしくお願いします。今日はこうしてスタジオにお越しいただきましたが、ご自身の発達障害について話すっていうのは、苦ではないんでしょうか?
市川さん: 全然苦じゃないですね。これもたぶん、自閉スペクトラムのある種の個性だと思うんですけど、誤解されることがやっぱり嫌い。あとウソがつけない。あと秘密を持てない。ということから言うと、むしろしゃべりたい。他の人は分かんないですけど、俺はそんな感覚で生きてますね。
藤井アナ: じゃあ今日は正しく理解してもらうために、よろしくお願いします。では市川さんの経歴をご紹介しましょう。市川拓司さんは小説家として2002年に『Separation』でデビューされました。2003年発表の『いま、会いにゆきます』が映画化・テレビドラマ化されて140万部の大ベストセラーとなって、恋愛小説の旗手として注目されました。その後も『恋愛寫眞 もうひとつの物語』『こんなにも優しい、世界の終わりかた』など恋愛小説を発表し続けていらっしゃいます。
一方でご自身の発達障害についても、一昨年『ぼくが発達障害だからできたこと』、そして今年の3月には『私小説』という本も発表されて、自らの特性やそれにどう対処して小説家として活動を続けてこられたかをつまびらかにされています。
今、小説家としてどんな活動をしていらっしゃいますか?

古き良き時代の恋愛小説を執筆中

市川さん: 今書いてるのが昭和20年ぐらいから始まる、うちの親父とお袋がほぼモデルになってるような、昭和の古き良き時代の恋愛、純愛小説ですね。やっぱり、そのころのすれていない時代、清貧とか、「名もなく貧しく美しく」とかそういうイメージを今も書きたいなと思って。そういう話を今書いてる最中ですね。
藤井アナ: 昭和20年代ってことは、戦後間もなくということですか?
市川さん: そうですね。物語は戦中から始まるんですけど、うちの親父が昭和9年生まれですから、そこから晩年までの物語を今ずっと書いてるわけです。
宮沢さん: 今のお話聞いてたら、うちの親の恋愛の時代を聞いてるような感じ。
市川さん: そうですね。その世代の人に読んでもらえたらね。うちはたぶん、お袋15歳で親父16歳ぐらいで知り合って、そのまま結婚してますから。大純愛時代。
藤井アナ: いつごろそれは発表できる予定なんですか?
市川さん: まあ来年には。

映画『いま、会いにゆきます』韓国版が大ヒット

藤井アナ: 楽しみにしております。更には韓国版の『いま、会いにゆきます』これ映画になったんですけども、大変なヒットだったそうです。それが日本にもやってくるそうですね。
市川さん: 来年の春ごろ、日本でも公開されます。
藤井アナ: また日本のとは違う感じになってるんですよね。
宮沢さん: でも恋愛に関しては普遍的なんですよね。韓国でも、同じように受け止めたんでしょうね。
市川さん: でも韓国のあのヒットはやっぱすごかったですね。ソン・イェジンさんという方がヒロインなんですけど。もう年末の賞レースが始まってんだけど、やっぱ主演女優賞とか。あと今年の最多動員賞とか。
藤井アナ: 聞いたら、240万人動員したそうです。もう国を代表する大ヒット作ということで。
市川さん: 恋愛作品としては何年かぶりの大ヒットらしいです。
藤井アナ: まもなく日本でも見ることができるということなんですが、今日は市川さんにたくさんメッセージもいただいてるので、ご紹介もしながらお送りしていきたいなと思っています。
まずご紹介するのは「かる」さん。「わたしも病気をしてから、感覚のバランスが大きく変わった人間です。1人で過ごす時間もつらいのですが、やはり人間関係の中で大きな難しさを感じています。市川さんがどのようにして感覚の違いをこえて、自分の居場所や関係を作ってこられたのか、どんな時に作品を思いつかれたのか、お話を楽しみにしております」といただきました。
自閉スペクトラム症となってるんですが、発達障害の中のどういう位置づけのものと考えたらいいんでしょうか?

集団欲求が薄くなる「自閉スペクトラム症」

市川さん: 昔は「アスペルガー」って言ってたんですけども、やや孤立しがち。自分の中で最近キーワードとなっているのは「自閉スペクトラム」、一般の人たちが必ず持ってる集団欲求と逆相関なんじゃないかなみたいな。そうすると結構一般の人たちに理解していただきやすい。つまり自閉スペクトラムが強くなれば強くなるほど、集団欲求が薄くなっていく。集団欲求にまつわるいろんなサブカテゴリーがあるわけじゃないですか、ヒエラルキーとか、あるいは帰属意識とか、忠誠心とか。それがどんどん薄くなっていくのが、自閉スペクトラムだと思うんですよね。だから、障害って言えば適応障害ではあるんですけれども、むしろそういう「マジョリティーとの逆相関を持っている個性」だというふうに捉えてますけどね。
宮沢さん: それは小学生のころから、「1人でいたい」っていう感じなんですか?
市川さん: 1人でいたいっていう感じよりは、全くマイペースでしたね。1人で好きなようにやって。幼稚園の時から、授業中でも外に勝手に飛び出して、外を走り回ってたりとか。みんなと同じ行動をとるという意味においては、全くやってなかったですね。
藤井アナ: そこに意義を見出せないという感覚なんですか? あまり気にならない?
市川さん: たぶん気にもしてないですね。まったく周りは見えてないんですね、たぶん。
宮沢さん: それはおかしいことだとは全然思わないわけですね。
市川さん: やっぱり怒られますけど、懲りなかったですね。
藤井アナ: 自分として、なんか周りと違うのかもしれないなっていう感覚は小さいころからあった?
市川さん: ないですね。子どもってそんなもんですよ。
藤井アナ: 確かに。周りと比較しませんもんね。
宮沢さん: 中学・高校になってくると、ある種、自我が目覚めてきて、他人との関係ってのを意識するようになるじゃないですか。そのころってどういうふうに感じてたんですか?
市川さん: 大して考えてなかったです。中学から陸上を始めて、中・高・大とずっと陸上づけだったんですよ。競技は800メートル中距離なんですけど。だから、そこに集まってる連中とずっとつるんでると、似たような連中なんですよ。中距離班なんてのは、ちょっと孤独癖が強くて、周りと協調できない連中の集まりみたいなもんなんで。意外と自分がそこではマジョリティーだったり。やっぱり「うわー」と思ったのは、社会人になってからですね。
宮沢さん: なんかそれで思い出したのは、筋肉隆々のボディービルをする人たちって、「何かスポーツやってたんですか」って聞くと、「いや、そういう集団でやるのが苦手だったんで、だから1人で筋肉つくってたんだ」って言うんですけど、ちょっと今それを思い出しました。
市川さん: そうですね。だからバスケットボールとか野球とかサッカーとは全く違う人種がやって来ます。
藤井アナ: チームスポーツではないスポーツだったから、気にならなかった。
市川さん: そうですね。なおかつその中でも、短距離班・跳躍班とかと比べると、中・長距離班はヘンです。あんな苦しいことやるやつはおかしいですよ、やっぱり。あらゆるスポーツが、練習前のランニング嫌うじゃないですか。そこだけをやる。
藤井アナ: 確かにそうですね。
宮沢さん: 中距離きついですもんね。
市川さん: 50メートル走を7秒ぐらいのペースですよ。で、800メートル走りきるんです。乳酸がたまって酸欠を起こして気持ち悪くなりました。俺19歳の時に、練習中に倒れたんですけど、血中の乳酸濃度が高まったせいじゃないかと、自分では思ってるんですけど。
それがパニック障害のトリガーになることもあるらしいんですよ。
藤井アナ: 発達障害なのだということを認識されたのは、おいくつの時にどんなきっかけだったんですか?

『自閉症だったわたしへ』を読んで意識

市川さん: いくつかは覚えてないんだけど。ドナ・ウィリアムズの『自閉症だったわたしへ』という本をたまたま読んだら、非常に似ていて。その人は高機能自閉症という名称がついてる人なんだけど。読んだら、特に代謝ですね。代謝の部分、体のフィジカルな部分が非常によく似ていて。これはかなり近い人種なんだなって。そこで自分はこういうカテゴリーに入る人間なんだっていうのを意識しました。たぶん20代の後半か30前後ぐらいだと思いますけど。
藤井アナ: この本が出たのが1993年だそうなんですね。だからそのあとすぐぐらいですかね。
市川さん: たぶん出てすぐ買ったんですよね。
藤井アナ: そのフィジカルな代謝の部分っていうのは、具体的にどういうことですか?
市川さん: 一番大きいのは低血糖症ですね。血糖値をうまくコントロールできなくて、日に何度も何度も低血糖症に陥っちゃうんですよ。ひどい時は気を失っちゃって。陸上の夏合宿で山に走りに行った時に、400メートル20本とか走るわけですよ。そこで血糖値が下がりきっちゃって、そこで気失っちゃったんだけど。先輩たち気が付かずに下山しちゃって。山の上で1時間くらい倒れてたことありますよ。でもその時はね、氷砂糖1袋食べて復活みたいな。やっぱり血糖値のコントロールがその当時からうまくできてなかったんですね。それ読んだらドナ・ウィリアムズも同じこと書いてて。あといろんな食べ物アレルギーの話も出ていて。非常に参考になりましたね。
宮沢さん: それは精神的な病とは別の、フィジカルな病?
市川さん: たぶん本質的には、根っこで全部つながってるんだと思います。脳の構造とか、神経の状態とか、あと腸の状態とか。意外と最近、自閉スペクトラムなんかも「腸の病気じゃないか」みたいな言われ方もしてて。やっぱり、消化吸収とどっかでつながってる気がしますね。
宮沢さん: でもまだその時は、それが発達障害によるものということについて、気づいてなかった?
市川さん: 全然気がつかなかった。たぶん「練習のしすぎ」ぐらいにしか。
宮沢さん: その後どのように対処なされたんですか?

「人生諦めたほうがいいかな?」と考えたことも

市川さん: 対処もなにも、最初は「ちょっとこれは人生諦めたほうがいいかな」ぐらいに。もう家から出られなくなったんで。パニックがひどくてね。家から出たとたんにパニックに襲われちゃって。家から100メートル離れることもできなかったので。これはもう親に養ってもらおうって思ってましたね。家で家庭菜園作って、トマトでも育てて一生生きていこうと思って。親父の年金で暮らしていこう、みたいな。そこから徐々に、自分が具合悪くなるものを1個1個見つけて排除してった感じですね。今もそれは続いています。30年40年続けて、1個1個排除してった感じですかね。
藤井アナ: 先ほどメールで質問あったんですが、「最初の作品はどのように思いついたのか」ってことで言いますと、デビューは2002年ですよね。その作品を発表する、書いてらっしゃる時には、ご自身のその発達障害ってことはもう認識されていたんですか?
市川さん: いや、してないですね。ドナ・ウィリアムズを読んだのはずっと前ですから、何となく自分がこういう人間であるっていうのは分かってたけども、まだ自分にそういうガッチリとした名称がつくという感覚はなかったですね。
藤井アナ: 自分の中で「こういうものなのだ」って名前が付いたのは、いつごろの出来事なのですか?

デビュー後に診断を受ける

市川さん: デビューした後です。『いま、会いにゆきます』が世に出て、それがヒットして、女性から『いま、会いにゆきます』のインタビューを受けたんですよ。その時にこうやってしゃべったら「市川さんそれっぽいよ」みたいな。「大体自閉スペクトラムの人たちは、夢のこととか記憶のこととか時間のこととか、そういうの語りたがるのよ」とか。「市川さんそればっかり言ってる。ちょっとわたし知ってる所に見てもらいに行きなさいよ」って言われて、行ったら、ほぼすべて当てはまりますね、みたいな。ただ「市川さんは作家として成功されたんで、診断書は書きません」と。そういう決まりがあるんですって。社会的にちゃんと成功してると診断書は書かない、みたいな。その時はそう言われました。
宮沢さん: でもその子と出会わなかったら、まだ分からなかった?
市川さん: まあ行かなかったですね。その後でそのことを報告したら、涙ぐまんばかりに「よかったね市川さん、やっと市川さんの場所が見つかってよかったね」みたいな感じで。それまで本当に、すごいさまよってましたからね。
宮沢さん: 記憶力を補うためにメモなんかも、作品を作る時は常にとっていらっしゃる?
市川さん: そうですね。意外とあれって集中してない時にポッと浮かぶじゃないですか。その時に忘れないように、今だったらスマホがあるんで、ボイスレコーダーで入れたりとか。寝る時も大体、枕元にメモを置いといて。常時3、4か所にはメモを用意してますね。
宮沢さん: でもそれって僕なんかもそうですけどね。さっきいいこと思いついたんだけど、って。
市川さん: 結構ミュージシャンの方そう言いますよね。メロディーラインとか歌詞とかね。だから結構多いと思います。
藤井アナ: ただそのお医者さんに会って、診断書は書かれなかったけど、発達障害の一種、自閉スペクトラムですよって言われたことで、なにかご自分の中で変わったことってあるんですか? 名前がついたっていうことについて。生きづらさについて。
市川さん: あまり大きくはないですね。ただ、やっぱり腑(ふ)に落ちたっていうか。「やっぱりね」っていう感じはありましたね。そこで違ってたら、逆に途方に暮れちゃったかも。自分の中ではかなりそのドナ・ウィリアムズから始まって積み重ねて、「そうだろう」という思いがあったんで。「ああやっぱりね」って感じで、そこで1段落ついたような感じがありますね。
藤井アナ: ではここで一曲、リクエストの曲をお届けしましょう。市川さん何をおかけしましょうか?
市川さん: えっと古いんですけど、天地真理さんの『想い出のセレナーデ』。

(♪「想い出のセレナーデ」)

藤井アナ: 選曲の理由は何ですか?
市川さん: 『壊れた自転車でぼくはゆく』っていう純愛小説書いたんですけど、その時のヒロインの名前が“真利ちゃん”で。それはどこからとったかっていうと、『時間ですよ』っていう番組出てた時の天地真理さんが、そのまま“マリちゃん”だったんですね。相手の男の子が堺正章さんで“ケンちゃん”で。“マリちゃんケンちゃん”で、非常に子どもっぽい愛らしいカップルだったんですよ。そのイメージがすごい強烈にあって。だから自分の小説の中では“カンちゃんマリちゃん”にして。でもイメージは相当、あの番組の中での天地真理さんをイメージしてましたね。
宮沢さん: 同世代だっていうのは感じています。
藤井アナ: さて発達障害についてお話をいろいろと伺っているんですが、自閉スペクトラム症という名前が付きました。今までのことを全部振り返ってみて、発達障害でつらかった、これは大変だっていう思い出はどんなものがありますか?

発達障害で大変だったこと

市川さん: 自閉スペクトラムだとかそういうのが分からずに苦労してたのは、単純に人間関係やっぱり下手くそでしたね。最初に入った会社も3か月で辞めてるんですけど。人間関係というよりは、周りの人間を観察してて、社会人というものがどうしても許せなくて。つまり本音と建て前、あるいは規則のための規則、意味のない不条理な決まりごとがどうしても耐えられなくて。ずっと苦情を上司に言い続けて。あげくの果てに(3か月で)辞めたっていうか。だから次は小さいところに行こうと思って、従業員2、3人しかいない個人事務所に行ったら、今度は記憶力の問題で。入ったとたんにミスを連発して。右から左に数字転記するのに、それを間違えるという。
それがずっと続いて。それと同時にすごくつらかったのは、二次障害って言われてるんですけど、心身症の問題ですね。いろんな自律神経の不調が、10代の後半、20歳ぐらいからずっと今も35年間続いてますけど、今となってはそれが一番辛い状態ですね。
藤井アナ: ツイッターで「くどう」さんから「そもそも発達障害って病気なのか?」って質問が来てるんですけど、病気ではないっていうことですよね?

発達障害というより適応障害

市川さん: 病気ではないです。だから、発達障害というよりは、適応障害だと思うんですよ。つまり他の場所、自分だったらアマゾンのジャングルとか、そういうところへ行けば結構元気に暮らしてるんだろうけど、この都市化された近代的な社会の中での適応障害、つまり超過密人口も超過密な中での適応障害であって。なおかつ、そこでのストレスが原因となって起きた二次障害。これはかなり病気に近いんだと思いますね。
藤井アナ: 根本的なその発達障害のところは、薬で治るとか良くなるってことは、基本的にはあまりないことなんですね。
市川さん: だって個性を薬で治さないですもん。
藤井アナ: ですよね。ということになるわけですね。後半でも引き続きお話を伺っていきます。後半では市川さんご自身のことを「テナガザルと近い」と、著書の中で書いてらっしゃいます。どういうことなのか詳しく伺っていきたいと思っています。

「テナガザルに近い」とは?

市川さん: 定義で言えば、世界のマジョリティーがチンパンジーなんですよ。要は集団があってヒエラルキーがあって、やや乱婚的で。それに対してマイノリティーであるのがテナガザルであったり、ゴリラであったり、オランウータンだったりするわけですけど。その中でもテナガザルっていうのは、典型的な一夫一婦制なんですね。なおかつ子ども必ず2人産んで。子どもたちは大きくなったら親離れして、あとは夫婦で暮らしていく、みたいな。自分のテリトリーがあって、ほかのテナガザルとは必ずそのテリトリーを侵害し合わないんですよ。もし近づいてきたら、1時間でも2時間でも歌を歌い続けるんですよ。「俺たちここに居るよ、来ないで」って。そうすると向こうも「ああ、ごめんごめん」って。だからケンカがないんですよ。ケンカする能力もないんですよ。チンパンジーはよその部族まで行ってケンカしたりしますけど。そうやって、人間を4つのパターンに当てはめると、ゴリラだったら一夫多妻だし、オランウータンは根っからの孤独癖だったり。その中で言うと、自分はテナガザルの一夫一婦制なんだなってしみじみ思って。なおかつ、自然が好きだったり森の中にいると心が落ち着いたり、異常に手が長かったりとか。そういうのも、なんかテナガザルとすごい親近感覚えますね。
藤井アナ: 身体的な特徴も合わせて。
市川さん: だってテナガザルってあだ名でしたもん。子供のとき。手挙げると誰よりも高い。
藤井アナ: あと大変な愛妻家としても知られてますよね、市川さんは。
市川さん: もうそれが職業です。愛妻家が職業です。
藤井アナ: こんなメッセージも来ていました。40代女性の方「サブレ」さん「すっぴん! のホームページに、ご自身の障害を肯定的にとらえ、と書かれていたんですが、そうとらえられるようになったきっかけは何でしたか? 自閉スペクトラム症の娘(小学校6年生)は自己肯定感が低く、なかなか自分に自信が持てません。家では肯定的な声かけなどを心がけていますが、学校など外に出ると周りの子との差が気になって、なかなか前向きになれないようです。市川さんがご自身の障害を肯定的にとらえたのはこんな出来事・声かけなどがきっかけだったという思い出がありましたら、お話しください」。
市川さん: まあ難しいんですけどね。自分の場合は、母親が破天荒な人で。俺なんかよりもはるかに破天荒な人で、子供で。たぶん精神年齢9歳ぐらいで。俺が学校でどれだけ「間違ってる」「お前はだめだ」「こんなことやったらいけないよ」って怒られても、「もっとやれ! もっとやれ!」って。「お前ちっちゃいねえ。私だったらもっとすごいことやるよ」みたいな。逆にあおりたてられるぐらい。お袋がすごい人で。だからどんどん自我が膨らんでいって。父親がほとんど家にいなかったんですよ。営業マンだったので、出張で。だからほとんど精神的母子家庭みたいな感じだったんですけど。そうすると、父権的な圧力もなく、自分よりはたぶん精神年齢が年下の母親が「やれ」とあおってるものですから、それがたぶん最大の自分の中での自己肯定感につながってたのは間違いないんですね。で、そこで外部からの圧力というのはすごくて。同級生はみんな「おもしろい」って言ってくれるんだけど、やっぱり先生たちの覚えは悪くて。ほぼ片っ端から怒られるだけの学生時代だったんですけど。小学3年か4年の時の女の先生が、自分が書いた作文、1時間で20枚書いたんですけど、それが「すごいよかった」って。調布っていう町に住んでたんですけど、調布中の学校に印刷して配ってくれたんですよ。それはいまだに、自分が母親以外の大人から認められたってことで、強烈に残ってますね。親が全面的に肯定してあげるのは当たり前なんだけど、誰かやっぱり、外部の人間がもう1人や2人、なにか褒めてくれると、それが一生の宝になっていく気がしますね。
宮沢さん: 「書く」ってことに関して、そのころから意識的だったんですか?

飼ってもいない“愛犬”が死ぬ話を書いた小学生時代

市川さん: 大好きでしたね。小学1年の時に、飼ってもいないのに愛犬が死んじゃうって話を書きました。当時から泣ける話が好き。
宮沢さん: ウソつきだなあ。
市川さん: ウソつきですよ。作文もかなりフィクションです。だから20枚書いちゃうわけです。普通の人が1枚2枚呻吟(しんぎん)している中で、ペロペロッと20枚サッと書いて「はい」って。それは、犬のぬいぐるみのコロをお母さんが「捨てろ」って言ったのに、愛着があって捨てられないって話を膨らまして書いたんです。それも泣ける話なんですね。
藤井アナ: 実生活の中でなかなかウソがつけないというお話がありましたけども、ファンタジーを書くのはとてもお好きで、得意でいらした?
市川さん: もう大好き大好き。物語つくるのはもう大好きでしたね。書いてなくてもいつも頭の中に物語を作ってますね。それは職業になる前から、いろんな物語をずっと頭の中で1時間でも2時間でも、その中で遊んでました。
宮沢さん: それまさにシャーマンの資質といってもいいですよね。物語で世界を作っている。それが人々に伝播(でんぱ)していくことによって、社会が変化していく。まさにそういう役割って感じがしますね。
藤井アナ: 市川さんが書くもの、やはり恋愛の印象がとても強くて、“恋愛小説を書く人”って印象を持ってる方も多いと思うんですね。ただ思ったのは、恋愛というのは非常に高度なコミュニケーション能力が求められるジャンルのような気もしていて、ここについては書く上での難しさっていうのは感じないんですか?

“テナガザルの恋愛”を書き続ける

市川さん: いや、だから普通の人の恋愛は書けないですよ。複雑なあんな、ラブ・アフェアは。じゃなくて、自分が得意としている、本当に一途な、生涯に持ち球一発、外したらたぶん一生1人者みたいな。そういう恋愛のしかたの話をただひたすら繰り返し書いてるだけです。それはお医者さんによっては、共依存に近いわけですね。相手なしでは成り立たない人生ってことになってしまいますから。でも、それが自分たち、テナガザルの恋愛だぜ、それをひたすら10本だろうが20本だろうが書き続けてるって感じですね。
宮沢さん: 例えば、日常生活の中で人を観察してて、こういう人物がいる、こういうふうに書こうという書き方はしないんですか?
市川さん: 一切ないですね。人見ない。
藤井アナ: ご自分の中にあるものを出していくスタイル。
市川さん: やっぱり人間ってどっか多重人格じゃないですか。特に俺の場合は女性的な部分がすごく自分の中にあって。それの、静かな女性・やんちゃ女性・ちょっと元気な男性・もの静かな男性。この4つの使いまわしぐらいですかね。
宮沢さん: そうすると、小説以外のエッセーとか、紀行文とか。そういうものは書こうと全く思わない?
市川さん: 昔メルマガでエッセー書いてたこともあるんですけど、紀行文じゃなくて、『ぼくが発達障害だからできたこと』みたいな、考察ですね。紀行文とかにあんまり興味がないというか。
宮沢さん: 内面にいくってことですかね。それは分からなくはないっていう言い方も失礼なんですけど。僕なんか、内面に入って、どうして僕はここでこういう行為をしたのかっていう。やっぱりありますね。ただ僕の場合は外側も興味深いので、外側のことも書くっていうことなんですけど、そこは全く、違うのかなと思って。
市川さん: 結構無意識レベルの話なんでしょうね。書いてる時は何となく分かってるふりして書いてんだけど、結果からみると結局過去のなにかつらい思い出だったりとか、あるいはずっと抱えている不安だったりが、表面に出てきたのを書いてるだけで。全部内因的なんですね。動機はほとんど自分の一番深い部分からしか出てこない。
藤井アナ: メッセージもう1通ご紹介します。30代男性の方「池左エ門」さん「発達障害は他人の気持ちが分からないというステレオタイプで語られがちですが、それは違うと思います。なぜなら市川さんの小説は多くの人々の心を打っているからです。本当に他人の気持ちが理解できないのであれば、恋愛小説は書けないと思っています。市川さんはどうやって脳を活性化させているんですか? わたしも発達障害で物書きをすることがあるんですが、薬を飲むと落ち着くのですが、一方で悩が創作的ではなくなってしまうという感じがするのです。薬を飲まないと脳はクリエイティブなのですが、今度はエネルギーを使いすぎて燃費が悪くなります。市川さんの実体験とアドバイスをお聞きしたいです」。

家の中を1時間走る

市川さん: 安定剤飲んでるとやっぱり駄目ですね。創作についてはね。だから自分の中でやっぱり、食事ですよね。圧倒的にコントロールして、不自然なものはとらないとか。最近だと小麦粉を完全にカットするとか。そういうことをやって、まず脳の過剰興奮の部分をある程度抑えていく。逆に抑えると発想が乏しくなりますから、そこは今度は逆にアップさせなきゃいけないので、ランニングですよね。僕の場合は家の中を、端から端までギリギリ50歩なんですけど、それを1日100往復とか200往復とか、長いときには立て続けに1時間ぐらい走るんですよ。家の中を1時間走るって結構大変なんですけど。そうするといろんな遺伝子スイッチが入るんですって。時速4キロメートルの移動と5キロメートルの移動と6キロメートルの移動では、それぞれ入るスイッチ違うんですって。4~5キロメートルぐらいのスピードで入るスイッチがちょうど執筆に向いてて。それでまず血流を上げて。あとは70%カカオ含有のチョコ食ったりとか。
宮沢さん: 僕もやります。4~6キロメートルのスピードで走ります。
市川さん: それを逍遥(しょうとう)派っていうんですよ。逍遥って散歩って意味ですけど。逍遥派の哲学のグループは、「散歩するといいアイデアが浮かぶ」っていうのをもう何千年も昔からみんな言ってたんですよ。坪内逍遥ってそこからとったんだと思うんですけど。ヨーロッパの古典的な文学者たちはみんな山歩き、スイスとか、ああいうとこの山歩きをして、自分の精神を正常に保って。結構あの人たちは脳が際どい状態の人たちですから、なんとか正常に保つためにハイキングして。心を落ち着けて、一気にバーッと書く。ランニングが結構ね、自分の中では。もともとランナーだってのはあるんですけど。僕はボクサータイプっていって、3分執筆したら1分ランニングみたいな。時には逆転しちゃいますけど。1分書いて、3分ランニングとかね。それで大体ずっとやってますね。
藤井アナ: そういう、例えば食べ物に関してもそうですし、ランニングがいいんだってこともそうですけど、それは試行錯誤で見つけていくものなんですか?
市川さん: 試行錯誤っていうか、本能ですね。走りたいときに走る。意外と、脳がある程度活性化して、気づく力が強いと、本能のままにやっていることが大体正しかったりして。脳が萎えてくると自分の欲望が結構間違った方向に行っちゃう。「今日ラーメン食ったあとビール飲みたい」とかなっちゃうんだけど、脳がガンガン活性化してくると、正しいもの食べられたりとか。自分の食べちゃいけないものが、嫌いになったりとか。正しく働いていく。だいたい最近の医学書を見ると「あ、正しかったんだ」って。本能ありきなんですけど、後で学術的に結構それが証明されることが多いですね。ほんとその繰り返しですね。
宮沢さん: それは、日常的に一般の人も当てはまることではありますね。
市川さん: 自閉スペクトラムっていうぐらいですから、一般の人もその中に入ってます。ゼロか100の間のどっかに必ずみんないる訳ですから。効かないわけないですね。
藤井アナ: では改めて作品についても伺いますが、先ほどでもちらっとご紹介しました。『いま、会いにゆきます』海外でも10か国以上で翻訳されて、韓国で公開された映画が動員数240万人。日本でも大ヒットでしたけれども、これだけ多くの方々に市川さんの作品が届いてる、みんな共感している。これはどういう現象なんだっていうふうに捉えてますか?

市川作品が世界中で受け入れられる理由

市川さん: さっきテナガザルの時におっしゃってましたけど、人間の原形である、みたいな。なおかつその原形である自分が、今の社会の潮流なんか全く見ずに、自分の一番深い所に潜っていった、一番原初の欲求じゃないですか。たぶん一番身近にいる人と仲良くしたいみたいな。一番その人間の古い、なおかつ本質的な欲求が、結構世界共通言語になりうるんだなと思いましたね。
藤井アナ: 根っこの部分だからそこは変わりないんだ、と。
市川さん: サーフィスな部分というのが、意外と苦手。逆にね。それがむしろ、ローカライズできないわけですよね。ローカライズできないがゆえに、海外でも受け入れてもらえたのかな。それはむしろ発達障害はだからこそだって自分では思ってますけどね。
藤井アナ: ではここでもう1曲、市川さんからのリクエストの曲をお届けします。今度は何にしましょうか?
市川さん: 山口百恵さんの『山鳩』で。

(♪「山鳩」)

藤井アナ: 選曲の理由は何でしょう?
市川さん: これはですね、『絶唱』っていう、彼女が主演している映画の主題曲なんですけど。この映画が大好きで。原作もすごい有名なんですけども。ものすごい自己犠牲、利他愛的な女性がヒロインで。結局、それゆえに命を落として、最後は亡くなっちゃうんですけども。その自己犠牲とか利他愛っていうものが、どうしても自分の中ではすごく共感できる部分で。今書いてるものは、そこをものすごく強調してるわけですね。そういうイメージを膨らませる時に、この曲ってすごく自分の中にフィットするんですね。
藤井アナ: 市川さんは発達障害があるご自身のことを“選択的発達者”って言葉で表現されてますよね。これはどういう意味で使ってらっしゃるんですか?

“選択的発達者”とは?

市川さん: 最近“障害”をちょっと、あまり面白くなかろうってことで、“発達デコボコ”っていう言葉が結構今広がりつつある。でもデコボコっていうのは滑らかじゃないなぁと思って。もうひとつポジティブな言葉って何かないかなと思った時に、“選択的発達者”という言葉が意外と事実にも即してる気がするし、どこにもネガティブな印象がないから、「これ広めてやろう」みたいな感じで。自分で思いついたんですけど。結局のところ、脳のリソースなんてものはみんな一緒なんですよ。ほとんどね。それをどこに割り振るかで。要は脳のリソースを人間関係に割り振る代わりに、発想とか、あるいはよく言うんですが“パターン認識”といって、自分の五感を全開に開いていろんな情報を自分の中で総合して、そこに1つのパターンを見つける。法則を見つける。そういう能力を高めたのが、選択的発達者の中でも自分のパターンだ、というふうに思ってますね。
藤井アナ: 今いろんな形で、発達障害かもしれない、もしくは発達障害と診断されて、生きづらさを抱えてらっしゃる方大勢いると思います。改めてそういった方々にメッセージをお願いできますか。

「間違ってる」のではなく「違ってる」だけ・仲間を思い浮かべる

市川さん: 特に、お子さんとかが、自分もそうでしたけど、同級生のみならず、大人たちからも「間違ってる」、必ず言われるんですね。そこでどんどん自己肯定感を失って、スポイルされて。本当はすごい才能持ってるかもしれないのに、それも埋もれて。最後にはもう、「自分はダメなんだ」って卑下しちゃうようなことをよく見てきたんですけども。「間違ってる」っていうのは、マジョリティーが、言ってしまえばチンパンジーがテナガザルを見て「お前の恋愛間違ってるよ」って言うのと同じであって。価値体系あるいは、進化的戦略の選択の違いだけであって。「間違ってる」じゃなくて「違ってる」だけなんだ。「違ってる」というのは「劣ってる」わけじゃなくて、並列的にものを見なきゃいけない。相対的なものの見方を、まずは冷静に自分がすること。それと、繰り返し言ってるように、自分はそういうテナガザルであればテナガザルという集団の中の、一構成員なんだ。つまり、自分1人が孤立してて自分1人がマジョリティーのチンパンジー軍団から責められてるんじゃなくて、これはテナガザル軍団全体に対して言ってることだから、あなた1人ではないよと。その時は、一緒に攻撃されている仲間が背後に大量にいることを思い浮かべると、結構耐えられるようになるんじゃないかなと思いますね。
宮沢さん: ネットの時代になってね、出会える機会というのは多くなったんじゃないでしょうか。孤立していた人たちは。
市川さん: そうでしょうね。ここ数年で一気に認知度が上がったので。そうやってみんなが発言する機会が増えてるような気がしますね。
藤井アナ: 今日はツイッターでもたくさんメッセージをいただいていたんですが、「えむた」さんから感想として「なんか聞いていて、とてもすっきりとした」とメッセージいただきました。「ほげ」さんからも「市川さんの話は面白い」とメッセージをいただいております。こういう機会を通じて、正しい理解につながっていったらいいな、というのが市川さんの願いでもあるわけですよね。今日はありがとうございました。
市川さん: どうもありがとうございました。

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