賛否あり! 遺伝子改良技術「トランスヒューマニズム」

ざっくり言うと
最先端の遺伝子改良技術で人間の能力を増進させる
「人間の定義」は技術の進歩によって変化していく
2019/05/17 「三宅民夫のマイあさ!」 三宅民夫の真剣勝負! ゲスト:堀内進之介さん(政治社会学者・スクリーンレスメディアラボ所長)

情報

2019/05/17

放送の前半(トランスヒューマニズムとは?)を聴く
2019年5月17日(金)放送より

放送の後半(トランスヒューマニズムを巡る議論)を聴く
2019年5月17日(金)放送より

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【出演者】
三宅キャスター:三宅民夫キャスター
堀内さん:堀内進之介さん(政治社会学者・スクリーンレスメディアラボ所長)


三宅キャスター: トランスヒューマニズム、実際にはどういうことが始まっているんですか?
堀内さん: 最近のニュースだと、エイズに関してHIV耐性というものを獲得させるために、遺伝子改良を施した双子の女児が中国で生まれたというニュースが話題になりました。他にも、アカゲザルに人間の脳の発達に関わる遺伝子を組み込んで、人間の由来を解き明かそうというものもあります。
もっと直近だと、記憶力や認知能力を増大させるサイボーグ的な機械を脳に装着して、能力を高めるというものもあります。そもそも人間の寿命そのものを引き延ばすための、「ご長寿遺伝子」というようなもののスイッチをオンにしようという研究もされています。
病気の耐性を獲得するための遺伝子治療というものや、薬によるドーピング、遺伝子改良、サイボーグ化というところまで、幅広くいろんなものが試みられているんです。
三宅キャスター: さまざまなことが試みられ、人間の能力を伸ばしていこうとしてる。「トランスヒューマニズム」という言葉で最近は言われ始めて注目されているということですが、トランスヒューマニズムというのはどういうことですか?
堀内さん: もともと英語的には、ヒューマン=人間ですね。トランスというのは越えるという意味がありますから、今ある私たちのそのままの人間を超えた新しい存在になろう、超人になろうと、そういうような試みとして付けられています。
三宅キャスター: この試みをどう受け止めるべきか、どこまで認めるか。不安や葛藤も心の中にあるんですが、堀内さんはどう考えますか?
堀内さん: いろんな意見があると思います。例えば私、今朝早かったものですからコーヒーを2杯飲んできてるんですけども、目を覚ますためにカフェインを取りたいわけです。皆さんもそういうことをされてる人たくさんいらっしゃると思うんですよ。これも薬によって一時的に覚醒させようという意味では、「増進エンハンスメント」とも言えるわけです。
あるいは、今日本では4人に1人が不妊治療によって生まれた子供だといわれていまして、そういう意味では私たちが普段は直感的に感じている遺伝子改良に関する嫌悪感みたいなものは、どうもあやふやなところがたくさんあるように思います。
よく遺伝子改良などのニュースを見ると、それは自然に反しているというような話もあります。かつて優生学と呼ばれた、公権力によって優れた遺伝子だけが伸ばされ、劣った遺伝子を消滅させたり減少させたりしようとする運動と結び付けられて批判されるっていうこともあるんですが、しかし実際によく見てみるとトランスヒューマニズムが行われている実践と、わたしたちが直感的に抱く嫌悪感とは大分違うところもあり、優生学と呼ばれた問題のある実践とは区別しなければならないという部分もたくさんあるように思うんです。
三宅キャスター: 例えば遺伝子改良した双子の女の子の場合、遺伝的な改変というのは自然に反するんじゃないかというのがありますよね。どう考えますか?
堀内さん: 人間も自然の一部。その一部にすぎない人間が自然をコントロールするのは身の程をわきまえないという意味で、自然に反するというふうに言われるわけです。しかし、自然であることが正常で、不自然なこと・人工的なものが異常だという考え方は大変問題を含んでいるんです。
例えば、かつては異性愛こそが自然で、同性愛は不自然だと言われたこともあったわけです。LGBTを含めてこうした感受性が問題になってますよね。自然であるか不自然であるかという線引きは、実はとても恣意的(しいてき)なものがあるということなんです。
三宅キャスター: 遺伝子改良は元に戻すことができなくなりますよね?
堀内さん: かつてはそう言われていたんですけども、2006年のノーベル医学賞を受賞した発見では、遺伝子のスイッチ・設計図を基に作品を作るということだとすると、その遺伝子の設計図に当たるものを機能させるかさせないか、スイッチオンにするかオフにするかっていうことも、技術的にコントロールすることができるようになってきたと言われている。そうすると遺伝子改良したあとでも、元に戻すことも技術的にだんだんできるようになってきているんです。
もっと言うと、もし元に戻すことができないということが批判になるとすると、教育に関しても問題になってしまうんです。例えばピアノ弾くための能力を獲得したり、ひも結んだり自転車に乗ったり、母国語を話すというのも教育によって見つけた能力ですが、一旦身につけてしまうとこれを元に戻すってことは簡単ではないですよね。
そういう意味で、「元に戻せない能力はいけない」というのだとすると、教育の部分についてもこれはいけないということになってしまうわけです。
三宅キャスター: 遺伝子改良などっていうのは、侵しがたいものに手を触れる、人間の尊厳に触れるのではないかという懸念がありますがどう考えますか?
堀内さん: 個人に関わるもの、自由とかプライバシーとか自尊心というものを大事にするという意味で人間の尊厳ということはたくさん今言われています。
他方で、遺伝子改良にまつわる人間の尊厳という言葉の中には、「人間の種の尊厳を守れ」という話も含まれているんですね。しかし、「人間の種を守れ」という言い方はなかなか正当化することが難しい。なぜ人間の種を守らなくてはならないのかをうまく説明することって難しいんですよ。
例えば人間と動物にはさまざまな種があります。この人間の種とほかの種、あるいはほかの機械などを混ぜてはいけないという論拠を考えるのはなかなかできない。かつては人種と人種の間を混ぜる、混血の子どもを産むということについても嫌悪感を持たれたこともあるわけです。同じような論法で、人間の種を特別扱いしなくてはいけない理由が何なのかは自明ではないんです。
三宅キャスター: トランスヒューマニズムという最先端の技術を考えていくと、これ今まで私たちが考えていた概念がそれでいいのかっていうことが問われてくるんですね。でもやっぱりここを踏み越えると…っていうこともあるように思うんです。そこが一体どこなのか何なのか。堀内さんはどう考えますか?
堀内さん: なかなか難しいところなんですよ。今まさにいろんな科学者・哲学者たちが踏み越えてはいけないポイントがどこにあるのかを議論をしています。でもそれはなかなか合意がされないところでもあるんです。
例えば障害ということを考えてみた時、障害のある方の人格だとか平等を傷つけるような形で、つまり障害者を決して生み出さないような社会を目指すということであるならば、これはたくさんの人が非難できるところだと思います。しかし、実際その遺伝子改良は障害者の存在そのものを生み出さないというようにやってるわけではないんです。
今は着床前診断と言う技術があり、妊娠して子どもを産む前にその胚が問題があるかどうかを検査して、場合によってはその胚を選択しなかったり産まないというような実践が既にされています。これについては多くの問題が確かにあるように思うんです。しかし、その遺伝子改良をすることは「障害を予防」しているわけであって、「障害者の存在そのものを予防しようとしているのではない」という言い方もされています。この観点でいくならば、遺伝子改良で障害者の存在そのものを否定してしまうような方向性と、障害者の人たちの生きやすさをさらに追究するためのバリアフリーのような技術とは分けて議論されるべきかもしれないと思います。
三宅キャスター: 最先端の技術はまだまだこれから出てくると思いますが、それが人に関するものであったとした場合、その人の存在あるいは人というものの存在を否定することになるような技術だと、そこは問題があるんですね。
堀内さん: そうなると思いますね。ただその存在を否定するわけではない、能力をもっと増進しよう、生活をもっとゆたかにしようという部分は一概に否定することはなかなか難しいのではないかと思うんです。
三宅キャスター: リスナーからの意見「眠気覚ましにコーヒーを飲み覚醒させることと、遺伝子改変させることは全然違う」
堀内さん: 私たちはこの事象、あの事象とを別々に考えてしまいがちだということなんです。いま遺伝的に継承されてるものは遺伝子改変だけでは無いと言われてるんですよ。例えばおなかに赤ちゃんがいる妊娠中のお母さんがどのような食生活をするか、どのような薬を飲むかによっても遺伝的には影響があるという議論もされていて、直接に遺伝子に手を入れることだけが遺伝的な改変というわけではないということも含めて、何がよくて何がだめかというのを事象ごとではなくて事象横断的に説明できる原理は何か、ということが論じられているんです。
三宅キャスター: 定義をしっかりして考えていかないと、ものがなかなか見えない時代になってきているということですか。
堀内さん: そうなんですよ。
三宅キャスター: トランスヒューマニズムの研究によって格差が広がるのではないかという問題については、堀内さんがおっしゃってるのはその問いかけ方自体を考えてみたほうがいいということですか?
堀内さん: おっしゃるとおりです。一方向だけの答えが出るわけではなくて、まさに技術は善用するか悪用するか。何をもって善用、何をもって悪用するかと言うことが問われているので、あるメリットだけに注目するのでもいけないし、あるデメリットだけを注目するというわけにもいかないということですね。
三宅キャスター: 結局、人間って何なんだろうということが問われているように思います。
堀内さん: 人間は環境と自分たちの間に技術を見いだしたり社会を産み出したりして、自分たちの足りないところを補いながら環境に適応し続けてきたんです。そういう意味では「人間の定義」もさまざまに変わってきたんですね。人間の範囲の拡大は技術と共に歩んできたということもあるんです。ですから、たくさんの不安な技術も危ない技術もあるのかもしれませんけれども、技術と共に人間の定義も拡大拡張されていくということだけは間違いないように思いますね。人間というもの自体の考え方も技術とともに変わっていく。あるいは変わっていくべきというふうに言えるかもしれないですね。

放送の前半(トランスヒューマニズムとは?)を聴く
2019年5月17日(金)放送より

放送の後半(トランスヒューマニズムを巡る議論)を聴く
2019年5月17日(金)放送より

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