若手小屋番奮闘記 ~北アルプス・蝶ヶ岳ヒュッテ&南アルプス・光岳小屋~

24/02/17まで

石丸謙二郎の山カフェ

放送日:2024/02/10

#登山#ネイチャー

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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回のテーマは、「若手小屋番奮闘記」。先代の娘として小屋を継いだ、北アルプス・蝶ヶ岳ヒュッテの中村梢さんと、静岡県の公募で採用され、大好きな山の管理人となった、南アルプス・光岳小屋の小宮山花さんをお迎えして、小屋番になって苦労したこと、うれしかったことなどを伺いました。

【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本:山本志保アナウンサー
中村:中村梢さん(蝶ヶ岳ヒュッテ 小屋番)
小宮山:小宮山花さん(光岳小屋 小屋番)

“風が強い”蝶ヶ岳。“雨が多い”光岳。山の自然は厳しい!

山本:
けさの「山カフェ」は、「若手小屋番奮闘記」。お客様は……

中村:
北アルプス、蝶ヶ岳ヒュッテの中村梢です。

小宮山:
南アルプス、光岳小屋の小宮山花です。

山本:
北アルプス、南アルプス、それぞれの山小屋で4~5年、小屋番をやっていらっしゃるお二人です。今回のテーマは、「思い通りにいきません。それでもすてきな山暮らし」。まずは「いや~困った!」ということを、お二人にそれぞれお聞きします。

光岳の小宮山さん、「困ったこと」は何でしょう?

小宮山:
特に、夏場は、雷を伴う夕立が、毎日のようにあります。近くのテント場も池になるくらいで。登山道も、沢のように水がすごく流れていたり、近くの木道に、雷がドカンドカンと落ちることも多くて。

光岳小屋

石丸:
そんなに南アルプスは雨が降る?

小宮山:
降りますね。太平洋からの湿った空気が、初めて当たる山なので。

石丸:
屋久島は日本一雨が降ると言うけれど。

小宮山:
「屋久島と匹敵するくらい多い」という話もあります。

山本:
水が多いのは意外でしたね。

石丸:
水が多かったら、“天水”で全部水はまかなえる?

小宮山:
まかなえますね。特に「太陽熱温水器」という、水をお湯に変えるものを置いているので、ありがたく生活させてもらっています。

中村:
うらやましい。蝶ヶ岳は“水が少ない”のが悩みで。ちょっと分けていただきたいですね。同じく天水で生活はできているのですが、水が少ない山域としては、半分ほど分けていただきたいくらい(笑)。

山本:
蝶ヶ岳ヒュッテは、雨はどうしていらっしゃるのですか?

中村:
同じように貯水しまして、消毒ろ過をして、循環させて使ってはいますが、光岳のように水は豊富ではないので、夏はカツカツになったりすることも多いです。

山本:
そのときは、どうしていらっしゃるのですか?

中村:
なるようにしかならないので、節水しながら生きています。

石丸:
山小屋らしい言い方。「なるようにしかならない」。

中村:
なので、お風呂が5日に1回になるのですが、光岳さんは多いですよね?

小宮山:
雨と太陽もないとお湯にはならなくて、両方が必要なのですが、両方があった時には、2日に1回とか。温度も60度ぐらいになりますね。

中村:
うらやましい!

山本:
中村さんがうずうずしていらっしゃる(笑)。

小宮山:
それで、洗い物もしています。せっせと運んで。

中村:
太陽で温まったお湯で?

小宮山:
はい。「元・雨水」ですね。

山本:
お風呂に入るのは、スタッフさんですか?

中村:
スタッフですね。それでも5日に1回の水の少なさになっているので、ちょっと聞いていて、ヨダレが出てしまいますね(笑)。

山本:
一方で、蝶ヶ岳ヒュッテのお困りごとは?

中村:
“水が少ない”ことに加えて、“風が吹いている”ことが非常に多くて。なので、天気の移り変わりが非常に激しいです。月の半分は風が吹いています。

蝶ヶ岳ヒュッテ

山本:
結構強いのですか?

中村:
天気にもよりけりですし、台風が近づいてきた時は、風速15~20メートルで、立っていられない時もあります。そこまでの風でない時でも、雨に加えて、強風ということもありまして、風の強い日はテントが飛んでしまったり、低体温症になっているお客さんがいて、逃げ込む方が多いですね。

石丸:
標高2,600メートルくらいあるからね。

中村:
きっと、寒さも相まってだと思います。

山本:
そういう、「困った……」という方の相談に乗っていらっしゃるのですか?

中村:
そうですね。光岳さんとは違う悩みになりますが、風が強くて雨が少ない。その割には、低体温症にもなりやすいし、水も少ないという意味で、頭を抱えることは多いです。

山本:
りょう線上にある小屋だと、「風がもろに来る」ということなのでしょうか?

中村:
そうですね。

石丸:
“むき出し”だもんね。木が1本もないし。

中村:
“ハイマツ”と言って、背の低いマツしか生えていないので、風の状況によっては、小石も飛んできます。

山本:
景色がいいけれど、つらい面もあるのですね。

石丸:
言ってみれば、屋上に住んでいるようなもの(笑)。

石丸:
小宮山さんのところは、周りに木があるのかな?

小宮山:
そんなに高い木はないですけれど、森林限界は高いので、ハイマツも群落としては、「世界的南限地」と言われるくらい、ワサワサワサです。海の波のように風が吹くと、ワサワサワサ~と。

野菜不足でスタッフの健康面が心配!

山本:
「山小屋の食事」について、それぞれの小屋の事情を伺いましょう。光岳小屋は、7月中旬~11月初旬までが営業シーズンと伺っております。“食事に対するお悩み”は、いかがでしょうか?

小宮山:
ヘリコプターでの荷揚げが、シーズン中、1回きりなので、その1回で、「どういう食事ができるのか」をいつも考えています。去年は、シーズン前に、台風の影響で素泊まりに変更したのですが、新鮮なものはないですし、乾物が中心になってきますね。

石丸:
野菜がないんだ。

小宮山:
ないです。
特に(小屋番になった)初年度は、スタッフの栄養が足りなかったのか、爪がすごくやわらかくなってしまったり、白髪が増えてしまって。去年は、牛乳を飲むなど、スタッフの健康を考えました。

山本:
スタッフの健康も気配りをして。

小宮山:
1年目は全然余裕がなくて、後回しになってしまった部分だったのですが。

山本:
お客様の食事を確保するから、スタッフの分が足りなくなっちゃった?

小宮山:
「お客さんの食事をどうするか」で頭がいっぱいで、スタッフはどうにかなると思っていたのですが、甘かったですね。

石丸:
お客さんは、1日野菜食べなくても何とかなると思うけど、3か月も野菜食べなかったら……えらいこっちゃ。

山本:
そこで、小宮山さんは考えました!

小宮山:
考えました。去年、宿泊プランの中に、「はじめてのおつかい」プランというのを作りました。野菜を3種類持参してくれた方には、宿泊代から2,500円を引いて、泊まってもらうというもので。

石丸:
僕が、ネギとピーマンとブロッコリーを持って行ったら、2,500円引いてくれるの?

小宮山:
ただ、去年は、キャベツを必須にしたんです(笑)。
キャベツは、お客様の食事に提供したくて、「キャベツ入れてみよう」というので決めたのですが、残念ながら台風の影響で、素泊まりになってしまったので、スタッフの健康のために、野菜はおいしくいただきました。

石丸:
その発想、面白い!

山本:
“取れたてのキャベツ”をもらったこともあったそうで。

小宮山:
「2日前に取ったんだよ」と言って、キャベツを持ってきてくださった方がいて、みずみずしくて、パリッとしていて、本当においしかったです!

中村:
「写真撮っちゃった」と言ってましたよね。

小宮山:
すごく大きくて! 思い出しても涙が出ます。

石丸:
“砂漠のオアシス”みたいな。「山の上でキャベツ!」って(笑)。

小宮山:
皆さん、協力してくださって。

山本:
一方、蝶ヶ岳ヒュッテですが、やっぱり生鮮食品は悩みですか?

中村:
まったく同じです。ヘリコプターで荷揚げをする頻度は、月に1~2回なので、多少条件は違いますが、やっぱりお客さんを優先するので、「野菜が足りないね」ということは多かったです。
あとは昨今、温暖化によって、山の上もそれなりに暑くなってきたので、野菜が予定以上に日持ちしない。すぐ腐ってしまうということで、光岳さんとはまた少し違う意味で、悩みがあります。なので、「はじめてのおつかい」プランは、非常にいい案ですね。

小宮山:
毎日、「きょうは何が来るんだろう」って、すごく楽しみなんですよね。

山本:
“野菜がふんだん”というのは、スタッフもお客さんも、うれしいことですよね。
蝶ヶ岳ヒュッテは、4月下旬~11月上旬の営業シーズン。将来もしかしたら、「おつかい」プランもできるかもしれない(笑)。

中村:
怒られない程度にまねさせていただいて。

山本:
ぜひ、情報交換をしていただければと思います。

小屋番さんは、プライベートタイムはあるの?

山本:
「山小屋で暮らす生活サイクル」が気になりました。「お二人のプライベートタイムがあるのだろうか?」ということを、テーマにしていきましょう。

まずはお二人に聞いてみた、“山小屋での1日のスケジュール”。
起床は、だいたい4時半前後だそうです。そして、お客様に朝食を提供して、お掃除もして、昼食を提供。お客様の受付と案内、夕食の準備と提供。ところによっては、バータイム。スタッフが夕食を取って、消灯して、片付けと朝食準備の後、寝るのは22時~23時ごろ。

これ、プライベートあります?

中村:
あってないようなものですね。(プライベートな時間を)作ろうと思えば、できなくはないのですが、お客さんとお話したい部分もありますし、スタッフと交流する大事な時間もあるので、気づけば、ないと言えばないです。

山本:
小宮山さんは、毎年こうですか? 最初はもっと、「早起きをしていた」と聞きました。

小宮山:
最初は「午前4時に朝ごはんを食べたい」というお客様がいらっしゃいまして、午前3時前に起きていました。勢いだけで乗り切った感じではあるのですが、私やスタッフが長く小屋の管理をしていくためには、「このままじゃダメだな」と思って、考えようと。なので、中村さんと一緒に、4時半起きを目指したいです。

石丸:
それでも、4時半起きなんだ! 寝るのは22時~23時。きっと爆睡するのだろうな。

中村:
コテンと寝て、そのまま眠ること多くないですか?

小宮山:
私、寝ている場所が玄関の隣なので、人の気配を感じながら……。守られているのかもしれないです(笑)。

山本:
熟睡できないデメリットもあれば、守られていると(笑)。

“オンとオフの切り替え”を聞きましょう。まずは、蝶ヶ岳ヒュッテの中村さんの“オンとオフの切り替え”はいかに?

中村:
私の場合は、仕入れで(山を)下りたりすることも多くて。なので、その前後でプライベートの時間は取れなくはないので、うまいこと息抜きをする時間を作れます。光岳さんのほうが、大変なんじゃないかなって。

小宮山:
小屋を留守にできないのがありまして、どうしても気を張っていますね。でも、いけないですね。自分にも余裕がないと、いい空気ではいられないので。

山本:
すぐに下界と行き来できる距離ではないですが?

小宮山:
数日空けないといけないですしね。

山本:
「もう嫌になっちゃったわ!」と思うことはないのですか?

小宮山:
「やめたくなる」のはないですが、「うーん……」となって、ハイマツのほうに「ワァァー!」と叫んで行って、(小屋に)戻ってくることは、意外とあります(笑)。

石丸:
下界だと、ベランダに出るとかはあるけれど、「ハイマツに向かう」(笑)。

山本:
近所迷惑にはならないですよね。“よしよし”って、してあげたいです(笑)。
中村さんはどうですか?

中村:
プライベートは、それなりに取れている部分はありますが、昨今、アウトドアブームで、「山に来てみたい」という方が増えてきて、すごくうれしい部分がある反面、山の知識が本当にない方とか、装備が「それで大丈夫?」という方もすごく多いんですよね。そういった方が、すごく遅くに到着されたり、逆に「遅く来ます」という連絡が来ると、注意をしなきゃいけないので、宿泊業としての私の部分と、山小屋としてお客さんにきちんと教えなきゃいけない部分があって。ですが、私の年齢もありますし、性別もあって、あまり伝わらないことも多くて、そういう時は、腹立たしくなって、掃除の時間に、大好きなクイーンを流します。ガンガン流しすぎて、スタッフさんから、「ちょっとしばらくは、クイーンやめてもらってもいいですか?」と言われます(笑)。

山本:
スタッフからクレームが来ちゃう(笑)。

中村:
「違うアーティストも、入れてもらっていいですか?」と(笑)。
でも、似たような事案は、小宮山さんもあると思います。

山本:
管理人さんとして、お客さんやスタッフへの目配りもありますでしょうし。そういう、コミュニケーションのストレスはありましたか?

小宮山:
私は怒ったり、注意するのが得意ではないので、「私」ではなく「管理人」として動くのに、まだ慣れないですね。

石丸:
注意は必要なことで、言わないと本人が気づかないこともあるんだよね。だから、これからだろうけれど、言って大丈夫ですよ。命に関わることだから、小宮山さんに言われたおかげで、「助かった」と思う方が必ずいるから。

小宮山:
言わないと伝わらないですもんね。ほかに言う人いないので。中村さんを呼ぶわけにはいかないですし(笑)。

山本:
20代~30代って、なかなか人をいさめたり、物申すことが難しい時も多いでしょうから。

石丸:
悩んだ時は、ハイマツに駆け込んだり、クイーンを流していきましょう!

〈写真左から〉蝶ヶ岳ヒュッテ・中村梢さん 光岳小屋・小宮山花さん 石丸謙二郎マスター


番組では、番組へのメッセージ・写真投稿をお待ちしております。また、最新の放送回は「らじる★らじる」の聴き逃しサービスでお楽しみいただけます。ぜひ、ご利用ください。

石丸謙二郎の山カフェ

ラジオ第1
毎週土曜 午前8時05分

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【放送】
2024/02/10 「石丸謙二郎の山カフェ」

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