なぜクマが人の前に姿を見せる? 研究者が語るクマ事情

23/12/09まで

石丸謙二郎の山カフェ

放送日:2023/12/02

#登山#ネイチャー#どうぶつ

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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回のテーマは「研究者が語るクマ事情」。ツキノワグマの生態に詳しい、東京農工大学大学院教授の小池伸介さんがご来店。ことし、なぜクマが人の前にこれほど姿を見せるのか、どんな食べ物を好み、冬眠中はどんな様子なのか、伺いました。

【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本:山本志保アナウンサー
小池:小池伸介さん(東京農工大学 大学院教授)

クマの被害が多いのは、さまざまな理由が!

山本:
小池伸介さんのプロフィールをご紹介します。
小池伸介さんは、1979年生まれで、名古屋市のご出身です。東京農工大学卒業後、NGO職員などを経て、現在、東京農工大学大学院教授です。専門は生態学。東京の奥多摩・栃木、群馬などの山林を中心に、多い時で、年間150日ほど調査で山に入り、ツキノワグマの生態や森との関係などを研究しています。ことし7月には、研究の様子やツキノワグマの生態をユニークに紹介したエッセイ、『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』を出版されました。

石丸:
ユニークなお名前の本を出版されて。この本は何の本ですか?

小池:
今までいろいろなクマの本を書いてきましたが、クマに興味がある人だけが手に取っていました。ただ、世間を見ると、クマの間違った知識や、クマの正しい姿はなかなか知られていなくて、「何とかしたいな」という思いがありました。「クマに興味がない人に、読んでもらうためにはどうしたらいいか?」ということで、題名をおもしろくしたり、表紙を有名な漫画家の方に描いてもらいました。まずは手に取ってもらうことで、クマの正しい姿を知ってもらうために書きました。

石丸:
年間150日、山に入っている?!

小池:
これは学生のときですね。今は、いろいろな仕事があって、(年間)30日~40日ぐらいですね。

石丸:
十分です! 「うらやましい」と言っても、仕事でもあるわけですよね。

小池:
研究でも行きますし、学生と一緒に、実習で山に行ったりもしますので、いろいろな形で山に行く機会はありますね。

石丸:
山が好きだった?

小池:
そうですね。大学時代も探検部でしたので。

石丸:
探検部?!

小池:
沢登りや雪山に行ったりしていたので、昔からよく行ってましたね。

山本:
その頃の経験が今に生かされていますか?

小池:
野生動物の研究は、道のない山に行きますので、そういう意味では、学生のときの経験が役に立っていますね。

石丸:
ことしは、クマのニュースが多かったですよね。

山本:
国のまとめによりますと、クマの被害に遭った方は、ことし4月~11月までで、212人にのぼり、統計を取り始めて以来、過去最悪の被害となりました。

石丸:
“アーバンベア”と言って、人里に出るクマも多かったですけれども、山で何が起きていたんですかね?

小池:
出没の多かった地域に共通する原因としては、この時期のクマは、冬眠に向けて脂肪を蓄えなきゃいけない時期なのですが、秋の主食であるドングリやブナの実が凶作だったのが、おおもとの原因です。ただ、ドングリがなる・ならないは、植物の繁殖のための戦略なので、昔から、なるときと、ならないときがずっとありました。

石丸:
サイクルみたいなものがあるんだ。

小池:
一定の間隔であるので、ことしは、たまたま、ならない年であったし、ならないドングリの種類が重なった可能性が考えられます。

石丸:
それは日本中?

小池:
地域によって違います。数十キロぐらいの範囲で、なる・ならないが同調します。いろいろな種類のドングリがあるので、どれもならなかったことが、可能性の一つとしてあるかなと思います。

石丸:
ツキノワグマの行動範囲は、どれぐらいなんですか?

小池:
食べ物がある春~夏は、数キロ四方範囲で生活をします。ただ私達の研究では、ドングリがならない秋になると、数十キロ四方範囲ぐらいまで、行動する範囲が広がります。

石丸:
それって、どれぐらいだろう?

小池:
「山手線の中の範囲くらい」ですね。個体差はありますが、よく動く個体だと、20キロ~30キロ遠くまで、食べ物を探しに行くこともあります。

山本:
今までも凶作だった年もありましたよね? ことし、特に被害が多いのはなぜですか?

小池:
凶作・豊作はずっとあって、2000年以降、ドングリの凶作に伴う出没は定期的に起きてきました。ことし被害が多い原因は、これから検証する必要がありますが、一つは、クマの数と、分布している範囲が広がっているのはあると思いますね。

山本:
数が増えているのですか?

小池:
これは20年~30年という長いスパンですが、クマを捕獲しすぎないようにする政策が行われてきたので、クマの数がじょじょに増えてきたのと、もう1つは、農村に目を向けると、少子高齢化や人口の都市集中があるので、人がどんどん撤退しています。その撤退した場所は、新しい野生動物の生息場所になります。これはクマだけではなく、サル・シカ・イノシシもですが、分布している範囲がどんどん広がっています。そうすると、人が住んでいるすぐ裏に、クマが日常的に住んでいる状況が、何十年かけて出来上がってきているのです。

ですが、それだけでは森からクマは出ないんです。クマは警戒心が強い動物なので、森から出ることは結構リスクがあるんです。それでもなぜ出るかというと、一つは高齢化した集落だと、山の手入れができないので、森と集落の境界が不明瞭になっていく。そうすると、わりと簡単に集落に近づけます。また、どこの農村に行ってもありますが、収穫しない柿や栗は結構ありますよね?

石丸:
ありますね。「なぜ採らないの?」というのが。

小池:
あれが、動物から見ると魅力的な食べ物なんです。集落の近くまで行って、最初は恐る恐る、クマは森から出て食べてみたら、「意外に人間も何もしてこないし、おいしい」と。そういう学習をしていくと、「今度は昼間に行ってみようか」、「また食べられた」と、だんだん大胆になってきます。クマは「成功体験」で行動が大胆になるので、そういったことが積み重なって、どんどん集落の中まで行ってしまいます。

石丸:
渋柿でも食べるんですか?

小池:
食べますね。もちろん順番があって、やっぱり甘いほうから食べますけれど、渋柿も食べます。
警戒心が強い動物ですが、何かメリットがあれば、彼らはどんどん行動を変えていきます。なので、森から出るかどうかは、不明瞭な森との境界や、誘引物の存在が大きく効いていますね。

石丸:
厳密に言うと、クマは“草食”ですよね?

小池:
“雑食”ですが、“かなり植物に偏った雑食属性”ですね。

石丸:
肉は基本的に食べない?

小池:
あれば食べます。ツキノワグマですと、食べ物の8割~9割は植物ですが、夏だとハチとかアリも食べますね。巣を作るので、1か所見つけて、たくさん食べられるので、効率がいいのです。

シカの死体も、あれば食べます。私達の実験で、シカの死体を山に置いて、どんな動物が食べにくるのかという観察をすると、クマは結構来ますし、タヌキやイノシシも来ます。ただし、秋になると、クマの頻度が減るのです。おそらく、山の中のシカの死体は、どこにでもあるわけではありませんよね? たまに食べられる“ごちそう”みたいなものです。だけど、クマからすると、秋の間にたくさん食べなきゃいけないので、どこにあるかわからないごちそうを探すよりは、たくさんあるけれど、ちょっと栄養価は低い、ドングリを食べたほうがいいので、クマは、秋になると“ドングリモード”になります。なので、秋はシカに執着しなくなるのです。

山本:
ニュースに出ていた、北海道の「OSO18」は、レアな個体ですか?

小池:
個体の検証ができていない部分も多いですが、かなりレアですし、こうなる背景なり、原因があったと思いますね。

石丸:
一つの個体を、全部のクマに当てはめるのは、よくない?

小池:
よくないですね。クマは、非常に個体差が大きく、人間だと個性とも言いますけれど、同じ地域にいても、一頭一頭、食物の種類も微妙に違います。それぐらい個体差がある動物なので、問題を起こすのは、特定の個体だったりします。なので、「一頭がこう」だからといって、「クマ全体がこう」とは言えないわけですね。

石丸:
クマは頭がいいですか?

小池:
非常に記憶力がいいと思いますね。単独で森の中を生きていくので、サルやシカと違って、群れたりしません。また、寿命が20年くらいありますので、「過去にあそこで食べられた」、「あそこに行くと危なかった」とか、そういった記憶をもとに生きているはずなんです。そういう意味で、非常に記憶力はいいと思いますね。

石丸:
嗅覚は?

小池:
嗅覚は非常にいいですね。基本的に嗅覚を頼りに生きていて、ある研究によると、「犬の6倍ぐらい優れている」という研究もあります。基本、嗅覚を頼りに生きている。別に目や耳が悪いわけではないですが。

クマの冬眠の仕組みとは?

山本:
環境省の呼びかけでは、「冬眠するとされる12月にも被害が出ている年があるので、引き続き注意を呼びかけている」というニュースがあったのですが、そもそも冬眠はしないんですか? それとも冬眠するものなのでしょうか?

小池:
日本にいるツキノワグマは冬眠します。しない個体は、基本的にはいないと思います。冬眠というのは、食べ物がないから寝てすごすので、冬は食べ物が減ってきますので、冬眠をします。ツキノワグマは、東南アジアなどにもいて、台湾のツキノワグマは冬眠しませんが、少なくとも、日本のツキノワグマは冬眠します。

石丸:
雪がある・ないは、関係ない?

小池:
ないですね。

石丸:
四国や中国地方でも冬眠はする? どこかの穴の中に入って。

小池:
穴の中だったり、大きな木の中とか、岩穴の中とか、身を隠せるようなところで冬眠しますね。

山本:
冬眠のサインといいますか、「よし、これから寝よう」というのは、どういう状態が整ったら寝るのでしょうか?

小池:
ちょっと分からないところはありますが、冬眠しようとしたら、3日ぐらいで準備を始めますね。急激に活動が低下していき、パッと穴に入るので、何か引き金があるのだと思います。

山本:
お腹いっぱいになったら?

小池:
それはあるかもしれませんね。ただし、一般的な傾向ですが、ことしのようにドングリがない年は早く冬眠します。ダラダラ探しません。だから「お腹いっぱいになったら」は、ドングリがあるときはそうかもしれないですが、ドングリがないときは、また違った傾向があるのかもしれません。

山本:
逆だと思ってました。私の場合は、お腹すいていると寝付けないんですよ(笑)。

小池:
お腹が空いているのか分かりませんが、ドングリが少ないときは、(冬眠が)早くなる傾向があります。

石丸:
クマが冬眠している間は、排便はどうなるのですか?

小池:
冬眠中は、“飲まず・食わず・出さず”ですね。

石丸:
出さず?

小池:
“出さず”ですが、尿は作られています。ぼうこうで再吸収して、それをタンパク質のもとのアミノ酸に精製して、そこからタンパク質を使って、筋肉を維持しています。だから、冬眠中に動かなくても、筋肉は衰えないですし、骨も衰えないのです。

石丸:
再利用する!

山本:
人間だと何日も寝ていると、衰えて、歩くのがおぼつかなくなってしまいますが……。

小池:
クマの場合は、じっとして冬眠中動きませんが、筋肉も衰えないですし、骨も衰えない。

石丸:
強引に起こしたとすると?

小池:
すぐ起きます。冬眠中といっても、リスとやヤマネの冬眠と違って、体温が34℃ぐらいで4℃ぐらいしか下がらない代わりに、心拍や呼吸を少なくして、エネルギーを使わないようにしています。穴の近くに人が通ったり、狩猟や林業などで騒がしいと、すぐ心拍や呼吸数は戻って、体温もすぐ戻ります。そうすると、穴を変えたりもできるのです。

山本:
そういう場面に出会ったことはありますか?

小池:
私たちも冬眠中のクマの調査することがあるので、そういうときにクマが出てきちゃうことは、過去に経験ありますね。

石丸:
クマの赤ん坊と一緒に寝ていることもあるのですか?

小池:
クマは冬眠中に出産をします。“飲まず・食わず”ですが、母グマは、さらに出産と育児もやります。

石丸:
冬眠中に?! 眠っているときに出産するのですか?

小池:
ウトウトしているような状況だと思いますが、出産するメスのほうが活発なので、恐らく起きている状態に近いと思います。
1月の下旬~2月の頭ぐらいに出産をしますね。パンダの赤ちゃんの映像を見たことがあると思いますが、非常に小さいですよね? あれぐらいのイメージで、数百グラムぐらいで小さく産んで、非常に高栄養なミルクを与えて一気に大きくするという育児をするので、穴の中で授乳をして、子どもを育てます。

山本:
小池さんは、冬にフィールドワークしているときの“子グマを抱っこしている写真”がありますが、これはどういう状況ですか?

小池:
これは日本のツキノワグではなく、アメリカクロクマなのですが、ちょうどアメリカに留学しているときで、冬眠中のクマの調査に行っていて、実はこの横で、この子グマたちのお母さんに、麻酔をかけていろいろ調査をしていました。生まれて1か月か1か月半ぐらいです。子グマには麻酔をかけられないので抱っこをして、冷えないようにダウンの中で温めていました。調査が終わったら、穴に戻しました。

石丸:
いっぺんに4頭も生むんですね。

小池:
アメリカクロクマの場合は、多くて5頭を生むことがありますね。

石丸:
日本の場合は?

小池:
日本の場合は、1頭~2頭で、まれに3頭ですね。

石丸:
よく2頭がまとわりついている映像があるけれど、そういうことか。

山本:
冬の間は冬眠していますが、行動が活発なときは、不幸にしてクマと人間が出会ってしまうこともあります。そういうときは、クマの気持ちからすると、どういう心理状況なのでしょう?

小池:
基本的にクマは、人を食べてやろうとか、積極的に襲う動物ではなくて、クマの攻撃は“防御”を目的にした攻撃なんです。
例えば、(人とクマが)はち合わせてしまって、自分の逃げ道を確保したい、人を“はたいてでも”逃げ道を確保したい場合だったりとか、子どもがいる母グマは非常にナーバスになっているので、子どもを守ろうとして、通常であれば何でもないような人間とクマの距離であっても、子どもを守ろうとして向かってくることがあったりします。

もう一つは、人間もですが、若い個体は好奇心もあるし、警戒心もそんなに高くないので、人間に興味を持って近づいてきます。攻撃しようとするわけではありませんが、人間と接しようとしたことが、人間にとって大けがに至ることもあったりもします。

石丸:
質問ですが、早池峰山(はやちねさん)で、普通の道路にドドーンと、ツキノワグマが落ちてきたんですよ。「どうなんだろう?!」と思ったら、たぶん恥ずかしかったのか、コソコソと逃げていったんですよ。クマも恥ずかしいという気持ちはあるのですかね?

小池:
恥ずかしいというよりは、警戒心が強いし、多くのクマは、人間に会いたくない気持ちを持っているので、クマもパニックというか、姿を隠したい気持ちがあったのでしょうね。

石丸:
僕にとってみれば、動物って崖から落ちると失敗じゃないですか? 「こんなところを見られちゃった」みたいな、逃げて行った気がしちゃったんだけれど、そんなことはないのかな?(笑)。

小池:
姿を見られることは、あまり好きじゃないので。「やぶに隠れたい」とか、そういう行動だと思いますね。

山本:
冬眠しているであろう穴を見つけても、近づかないほうがいいですよね?

小池:
そうですね。クマの分布は非常に広いですし、森ならどこでもクマがいるような状況ですので、どこで冬眠してもおかしくない状態なので、木の穴や、ちょっとしたくぼみにクマが冬眠している可能性があるので、のぞかないほうがいいですね。

石丸:
クマを見つけると、写真や映像を撮ろうとするじゃないですか? あれはどうです?

小池:
距離とか、クマがこっちに気づいているのかによりますが、「そのあとどうなるか」が読めない状況でもありますし、向こうが向かってくる可能性もあるので、そういうのに時間は使わないほうがいいと思いますね。

山本:
あまり刺激しないほうが、いいかもしれないですね。


番組では、写真や番組へのメッセージの投稿をお待ちしております。また、最新の放送回は「らじる★らじる」の聴き逃しサービスでお聴きいただけます。ぜひ、ご利用ください。

石丸謙二郎の山カフェ

ラジオ第1
毎週土曜 午前8時05分

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【放送】
2023/12/02 「石丸謙二郎の山カフェ」

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