山岳遭難救助隊長が教える、“山岳遭難を防ぐ”ための備え

23/12/02まで

石丸謙二郎の山カフェ

放送日:2023/11/25

#登山#ネイチャー

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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回は「山岳遭難」について。このところ、山での遭難者数が増え続けています。遭難しないために、どう備えたらいいのか、静岡県警察山岳遭難救助隊の坂上雅信隊長に伺いました。

【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本:山本志保アナウンサー
坂上:坂上雅信さん(静岡県警察山岳遭難救助隊 隊長)

生還するために必要な持ち物は?

山本:
けさは、静岡県警察本部の山岳救助隊の方に、もしもの時の“山から生還するためのアドバイス”をうかがいます。
お話いただくのは、山岳救助に30年近く関わられ、現在は静岡県警察山岳遭難救助隊の隊長を務めていらっしゃる、坂上雅信さんです。

石丸:
坂上さん、おはようございます。
きょうは土曜日だから、救助隊としてスタンバイしておられるのですよね?

坂上:
そうですね。

石丸:
そんな中、ありがとうございます。
山で道に迷わないようにするのは当たり前ですが、もしもの場合に備えてどうしたらいいか、持っていくべき装備を教えてください。

坂上:
生還するためのセットがありまして、警察学校でも教えているのが「ヘッドランプ」「雨具」「非常用の食べ物や水」「携帯電話と予備のバッテリー」です。日帰り登山でも、必ず持って行っていただきたいと思っております。

石丸:
ヘッドランプは、低山だと持って行かない人が多いですよね。

坂上:
道迷いの遭難を見てみますと、日帰り登山の方が、思わぬ行程遅れで下山が遅れてしまって、それで暗くなって道に迷ってしまうことが非常に多いものですから、そういった場合に備えて、ヘッドランプが必要になります。また、行程遅れは、山の中で、一昼夜ビバークする可能性がありますので、たとえ天気がよくても防寒具を忘れずに、さらに、レインウエアは寒さをしのぐことができます。

石丸:
雨具は「雨は降らないから、いらない」って思っちゃうけれど、雨具という名の“防寒具”という意味ですよね。

坂上:
そうですね。

山本:
非常食用の食べ物として、おすすめのものはありますか?

坂上:
私、個人的には、いつもチューブ式の練乳を持参しています。凍りませんし、手軽で、カロリーもあって日持ちするので、持参しています。

石丸:
あれだと、口にそのままチュッチュッとできるし、日持ちもする。1本いつも入れておけばいいんだな。
(遭難をした)ジュンタロウさんの時代になかったのが、携帯電話なんですよ。それはいかがですか?

坂上:
現在においては非常に有効なアイテムで、大げさに言うと「生死を左右する」といっても過言ではないと思っています。道に迷ったと思ったら、バッテリー残量があるうちに、電波が入る場所で「110番」や「119番」をしてもらいたいと思います。よくあるのが、道に迷った方が、警察や消防に通報する前に、家族や友人、知人に連絡をして、そこで携帯電話のバッテリーを消耗して、残り数%で、ようやく警察や消防に通報するのが非常に多い印象があります。「道に迷ったな」と思ったら、家族・友人・知人に知らせたい気持ちを抑えて、まずは「110番」か「119番」をしていただければと思います。

石丸:
そうすると記録にも残るんですかね?

坂上:
携帯電話のGPS機能、いわゆる「位置情報」なんですけれど、その「位置情報」を入れてもらって「110番」「119番」をすれば、場所が分かる可能性が高くなります。

石丸:
「位置情報」を“オン”にする。

坂上:
それで通報していただければ、その場所が「位置情報」として分かる可能性が高くなります。操作自体は簡単ですので、今一度確認していただければと思います。

山本:
携帯電話の設定は、周りの人にも聞きつつ、やってみるといいですね。実際に役に立った例が、静岡でもありますか?

坂上:
過去に、天城山(あまぎさん)で道に迷った方なのですが、この方が、GPS機能をオンにして「110番」したおかげで、ルート外の山中で、無事見つけたという例もあります。

山本:
“今いる居場所がまったく分からない”、“けがをしてしまった”、“電波が届かない……”といったときは、どうしたらいいのでしょうか?

坂上:
大原則は、救助が来るまで“その場で待つ“ことだと思います。
道に迷うと、"歩き回って下山しよう”という心理が働くと思います。しかし、下山すると、思わぬところに崖があったりして、転落の可能性が非常に高くなります。道迷いは、だいたい“下山時”に発生します。その場で待っていただくことが原則となっています。

山本:
道迷いの大半が下山時なのですね。具体的な例はありましたか?

坂上:
数年前に、2人パーティーの登山者が、下山中に道に迷って歩き回っているうちに、1人が滑落してしまいました。もう1人の方が、道に迷いながら何とか救助要請をしましたが、救急隊が行ったら、あと数10メートルで林道だったのですが、そんな場所でも急な崖がありますので、道迷いの下山は、非常にリスクが高いと感じております。

もし迷ってしまったら? 救助につながる行動

石丸:
自分が「ここにいますよ」と、知らせるにはどうしたらいいでしょうか?

坂上:
現代だと、ヘリコプターが捜索に出る機会が非常に多いので、ヘリコプターに自分の居場所を知らせるアピールをしていただきたいと思います。こちらで実験をしたのですが、有効なのが「レスキューミラー」と呼ばれる、専用の鏡です。登山用品店に売っているのですが、レスキューのミラーの反射がとてもまぶしくて、ヘリコプターからすぐに場所が分かったという結果がありますので、非常に有効です。

山本:
夜で反射が期待できない場合は?

坂上:
ヘッドランプの光で見つけた例もありまして、先ほど、日帰り登山でヘッドランプの話をしましたが、日没前に救助要請があって、ヘリコプターで移動したときに、遭難者の方が、ヘッドランプの明かりをつけて振ってくれたので、場所が分かった例があります。

石丸:
ほかに何かありますか?

坂上:
これも実際の例なのですが、道に迷った方がテントを広げて居場所を知らせたり、レインウエアを振り回したり、長い木の枝に、白いタオルを巻き付けて振り回して、ヘリコプターに居場所をアピールした例もありました。

石丸:
手を振るのではなくて、長い棒に巻き付けることで振り幅が広くなるのか!

坂上:
ヘリコプター隊に聞いたら、手を振るだけだと、非常に見つけづらいみたいで、振り回す行為が非常に大事だと聞いております。

石丸:
声はさすがに聞こえませんもんね。どうしても「おーい」とか言ってしまうけれど、その体力を温存して(長い棒に巻き付けて、レインウエアやタオルなどを)振ったほうがいいわけですね。

親しい人に行先を細かく伝えよう

山本:
行く前に、私たちができることはありますか?

坂上:
「きょうはどこの山に登るのか」を、家族や友人や会社の同僚に伝えることが大事です。何も言わずに出かける方も多いと思いますが、遭難はいきなり訪れますから、親しい方に「移動手段として、自家用車を使います」や「公共交通を使います」と(伝えていただきたいです)。公共交通を使うのなら、何時何分に発着なのか、登山口も何か所もありますので、「この登山口から登山をする」など(の情報)を残しておくのも、非常に有効です。

山本:
何か具体的な例はありましたか?

坂上:
首都圏の方から、「南アルプスに登山に行くことを聞いたけれど、無断欠勤をしている人がいます」という通報があったのですが、南アルプスと言っても、静岡県からも入れますし、山梨県からも入れますし、長野県からも入れます。どこから入ったのかが分からなくて、とにかく探してみるということで、本人の車があるか探しました。
結局、本人の車はなかったのですが、その方がお住まいの県から山に登っていまして、そこの登山口で車が見つかりました。結果は非常に残念で、通報してくれた同僚の方も、何となく「南アルプスに行く」と、チラッと聞いただけだったのですが、もし「この県から、この山に登るよ」と伝えていれば、結果が違ったかもしれません。

山本:
私、今週、紀伊山地の山に登りに行ったのですが、登山届のポスターを見たんです。ファックス・メール・郵送・アプリなど、いろいろな方法で登山届を出せますよ、という告知ポスターがありました。どんな形でもいいから、周りに「自分がこれから行くよ」という情報を提出しておくと、救助につながりやすいですよね。

坂上:
そうですね。静岡県の場合の話なのですが、静岡県庁のホームページから、事前申請で登山届を出せますし、最近は、登山用アプリでも登山届を出せるようになっています。警察に、郵送とかファックスで送っていただいても結構です。都道府県によって仕組みは違いますが、皆さんが、どこの山に登って、どこにいるのかを救助機関と情報共有できることが大事です。

山本:
それによって、助けに行くスピードが、かなり違ってくるのでしょうね。
最後に、これから山に行きたいというリスナーの皆さんに、メッセージをお願いできますか?

坂上:
大変恥ずかしいのですが、私自身も救助隊に入ってから、道に迷った経験があります。救助事案で行ったのですが、それなりに救助隊の年数を重ねていて、今思い起こすと慢心ですね。反省をして、より慎重に行動するようになりました。

山本:
知っている山でも、確認しながら進んでいくのが大事なんでしょうね。

坂上:
根拠のない自信は遭難を招くという、反省した例であります。

石丸:
さっそく、携帯の「位置情報」を出す方法を何回もやって練習します!

山本:
マスターのスマホもばっちりです。大事なお話をありがとうございました。


番組では、写真や番組へのメッセージの投稿をお待ちしております。また、最新の放送回は「らじる★らじる」の聴き逃しサービスでお聴きいただけます。ぜひ、ご利用ください。

石丸謙二郎の山カフェ

ラジオ第1
毎週土曜 午前8時05分

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【放送】
2023/11/25 「石丸謙二郎の山カフェ」

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