「大空を飛び、山を撮る」 空撮写真家 山本直洋さん

23/11/11まで

石丸謙二郎の山カフェ

放送日:2023/11/04

#登山#ネイチャー#写真

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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回は、エンジンつきのパラグライダーで、上空から山や大地の写真を撮る、写真家の山本直洋(やまもと なおひろ)さんがご来店。現在、「世界七大陸最高峰を撮影する」という、世界初の試みに挑戦中。上空からの眺めは、どんな世界なのでしょうか?

【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本(志):山本志保アナウンサー
山本(直):山本直洋さん(空撮写真家)

撮影のテーマは「地球を感じる写真」

山本(志):
けさは、“空撮写真家”の山本直洋さんをお迎えしています。エンジンつきのパラグライダーで空を飛び、七大陸最高峰の山々を空撮するという、前人未到の挑戦をされています。

石丸:
山に登る人たちは、自然が大好きで、「自然の中で何かを感じたい」と思っている方たちばかりなんですよ。その方たち、そして僕も、「空を飛びたい」と憧れています。ものすごくうらやましい! 空を飛んでカメラで写真を撮る。どんな瞬間に撮るのですか?

山本(直):
僕の写真家としてのテーマがありまして、「地球を感じる写真」というテーマで写真を撮っています。できるだけ高いところから、ダイナミックな景色を見るのが好きでやっていますが、「まず、自分の体で地球を感じて、感動したときにシャッターを切ること」を意識してやっていますね。

山本(志):
「地球を感じる」というのは、地球のどの部分に感動するのですか?

山本(直):
いろいろなところで地球を感じますが、僕が一番好きなのが、火山の地形。すごく地球を感じますね。火山でできた地形ってすごくおもしろくて、僕がすごく好きな山で、北海道の樽前山(たるまえさん)という山があるんです。火口のところまでは立入禁止になっていますが、飛んで行くと見ることができるのです。地球の力でできた形を見ると、地球を感じますね。あとは、氷河によって削られた地形もそうですね。

石丸:
山本直洋さんの写真集をめくったところに、樽前山の写真が! 僕も、去年登ったんです。「何、この山!」となって、大好きな山です。火山という“地球ができた頃の原風景”みたいなのが、そのままあって。上空から見ると、何て言ったらいいんだろう……ケーキみたいな形ですよね。真ん丸で、真ん中にちょこんと溶岩ドームがあって。

山本(直):
もちろん、登山で見られる景色もすばらしくて。僕は登山も好きなので、登山と空撮、どちらもすると、さらに地球を感じることができますね。

山本(志):
ヘリやドローンでも撮ることはできますが、違うものなのですか?

山本(直):
まったく別物ですね。ヘリコプターやセスナで空を飛ぶこともできますが、機体に守られている感覚や、機体に乗っている感覚があるんですよね。モーターパラグライダーだと、生身で飛んでいますし、セスナやヘリコプターだと自分が好きなところに行けない、パイロットに指示はできるかもしれないですけれど、自分でコントロールできないので。

石丸:
自由度が違う。

山本(直):
一時期、「航空機のパイロットになりたい」と思って、就職活動のとき、航空会社を受けたこともあったんですけれど、航空パイロットだと行く場所が決まっているので、自分の好きなところに行けないじゃないですか? また、ドローンだと、好きなところに飛ばすことができますが、ドローンはモニター越しになってしまうので、自分自身が感動してシャッターを切ることができません。だから、モーターパラグライダーで生身で飛んで、自分が地球を感じて、それが伝わる写真を撮ることは、ドローンではできないと思っています。

山本(志):
対象との接し方が違いますものね。

山本(直):
モニターで見ているので、きれいな映像は撮れます。だから映画を見ている感じなんですね。僕が飛んでいる感覚にはならない。

山本(志):
子どもの頃に、海外で見た風景にも影響を受けたみたいですね。

山本(直):
海外生活があって、ちっちゃい頃から海外の景色を見ていたので、その経験はかなり大きいと思います。中学生の頃は、3年間くらいノルウェーに住んでいたのですが、家族旅行でプレーケストーレンという観光地に行きました。フィヨルドに600メートルぐらい、崖が垂直に切り立ってる観光地がありまして、2~3時間歩いて崖のところまで行けて、そこで見た景色が、すごくきれいだったんですね。

だいたい観光客の方は、そこの崖を見たら、引き返して帰ってくるんですよ。ただ、山はそこが一番上ではないんです。もっと上に行けるところがあるので、僕は一人で、もっと上まで登って行っちゃったんですよ。崖とは反対方向の山の向こう側の景色を見ることができたんです。それがものすごくきれいで感動して、しかも周りに人が誰もいないので、一人で感動しちゃって、そこで30分ぐらいたそがれていたのですが、そのあと親のところに戻ったら、親が僕のことを探し回っていて、母親は、崖から落ちたのではないかと思って泣いていたんですよね。

母親に「どこ行ってたの!」と言われたときに、かっこつけて「俺は地球を見てきた」って言ったんですよ(笑)。

石丸:
かっこいいな~(笑)。

山本(直):
その経験が原体験となって、「地球を感じる写真」をテーマにして撮影活動をしています。

山本(志):
そのあと、いろいろな山の撮影に挑まれるわけですけれど、国内の山で、強く印象に残っている山はありますか?

山本(直):
日本で一番すごいのは、富士山(ふじさん)ですね。特別な山だなと感じます。

山本(志):
どんな印象の写真が撮れたのでしょう?

山本(直):
実は富士山って、何回も飛んでいるんですよ。ただ、富士山周辺は、すごく風が難しいんです。結構危険な風が吹いたりするので、近づいたり、高いところまで行けないこともあります。写真を撮ったときは、4,200メートルぐらいまで上がったのですが、このときもすごく曇っていました。かなり暗かったので、「いい写真は撮れないかな」と思いましたが、せっかく来たので飛んでみたんですね。

飛んでから1時間半後ぐらいに、雲で覆われた空の一部が丸く穴が開いてきて。「穴あき雲」という自然現象なのですが、空に穴が開いたんですよ。そこから太陽の光が差し込んで、富士山に光が当たったんですね。それを見てすごく感動して、夢中になって写真を撮りました。1時間~2時間飛ぶのは、ドローンだとそんなに長いこと飛んでいられないんですよ。モーターパラグライダーの場合は、飛んでいる間にどんどん景色が変わってきて、ベストの瞬間をファインダーをのぞいて切り取ることができるんですよね。

富士山を空撮したときは、自分の目で見て、地球を感じながら撮った写真という意味では、印象に残っていますね。

七大陸最高峰の空撮に挑戦中!

石丸:
今は、七大陸の最高峰を空撮しようと。

山本(志):
もう2座、成功したんですよね?

山本(直):
そうですね。「何を成功と言うか?」にもよりますが、2022年2月に、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロを撮影してきました。キリマンジャロは、標高5,895メートルあるのですが、エンジントラブルで、その高さまで上がれなかったんです。マックスで5,180メートルまでしか上がれなかったので、自分が納得する「地球を感じる写真」は撮れませんでしたが、一応プロジェクトとしては、第2弾に進めようということで、ことしの9月にオーストラリア最高峰のコジオスコの空撮をしてきました。

キリマンジャロの空撮

山本(志):
挑戦をしようとしたきっかけはありますか?

山本(直):
空撮を始めてしばらくは、日本での「地球を感じる写真」がテーマで、10年間くらい作品を撮りためていました。写真展をやって、写真集も出して、ある程度やって来られたと思ったときに、海外にもう一回出たくて、「何かおもしろいネタを作りたいな」と考えたときに、大陸最高峰を思いつきました。七大陸でそれぞれ一番高い山を空撮できれば、それこそ「地球を感じる作品」ができると思って始めたのがきっかけですね。

石丸:
七大陸の山には登ったことはありますか?

山本(直):
キリマンジャロも、コジオスコも、登山をしました。

石丸:
それは何をしに?

山本(直):
地形を見て、空撮をして万が一トラブルがあったときに、「どこだったら不時着できるか?」や、「風が危ないから、こっちは行けないな」とか、下準備をしています。

石丸:
準備を怠りなし!

山本(直):
そういうことするために登っていますが、もちろん、ただ登りたいのも大前提にあります(笑)。

山本(志):
そういう準備をするのは、お一人では難しいですよね。

山本(直):
日本国内で作品撮りをするときは、一人で飛ぶことが多いのですが、「七大陸最高峰空撮プロジェクト」に関しては、一人ではできないので、チームを組んでやっています。僕がパラグライダーのライセンスを取ったスクールがあって、そこで出会った僕の師匠と「一緒にやろう」ということで始めました。師匠は、僕の人生を大きく動かしてくれた恩人なのですが、実は2021年に亡くなってしまったんです。そのときはショックでしたが、新たにプロジェクトチームを作って、いま活動をしています。

火が体に燃え移る事故も……それでも飛びたい理由

山本(志):
2021年からプロジェクトがスタートして、クラウドファンディングでも資金を集めたりしたそうですね。その挑戦の準備をしている中で、事故もあったようで。

山本(直):
このプロジェクトをやろうと思い立ったのが2017年でした。それからクラウドファンディングや、スポンサー集めをして、2019年にキリマンジャロに行く2~3週間前にテストフライトをするために栃木で飛んだのですが、普通のエンジンだと4,000メートル以上まで上がることができないので、エンジンの改造をしていたのですが、テストのときにそのエンジンが燃えてしまったんですね。

石丸:
上空で?!

山本(直):
上空2,500メートルぐらいでエンジンから火が出てしまって、その火が体に燃え移ってしまい、背中と腕に大やけどをしてしまいました。皮膚移植の手術を2回やるような、助かったのが奇跡ぐらいの事故を起こしてしまいまして。

石丸:
ガソリンの火だから、相当燃えるでしょう? 消せないでしょう?

山本(直):
最初はあまりにも熱くて、「燃えて死ぬぐらいだったら、飛び降りて死のう」と思って、飛び降りようとしたんですよ。ただ、いろいろな機材をつけているし、グローブも着けていて、ハーネスが外せなくて、飛び降りられなかったんですね。自分でもがいてハーネスから抜け出そうと思って、思いっきり暴れたのですが、暴れているうちに運よく火が消えてくれました。

山本(志):
よかったですね……。

山本(直):
体の火が消えた時点で、パラグライダーも運よく燃えてなくて。ライザーが半分ぐらい燃えていたので、もっと燃えていたら落ちてしまいますが、運よく。(※ライザーとは、パイロットとキャノピーをつなぐ細いロープを束ねるベルトのようなもの)

山本(志):
高いところだと、エンジンがうまくいかないんでしょうかね?

山本(直):
上がれば上がるほど、酸素が薄くなってきてしまうので、エンジンのパワーがどんどん落ちてきます。そのエンジンを復旧するために、「ニトロシステム」というシステムを組んでエンジンを改造していました。エンジニアの方に相談して、テストでうまくいった状態だったので、空撮をやってみたのですが、うまくいかなくて燃えてしまった。通常、モーターパラグライダーが飛んでいる間に燃えることはありません。過去に前例がないんですよ。僕の場合は、特殊な改造をしていたので、事故が起きてしまったんですね。

山本(志):
やめたくなりませんでした? 奥様とかお子様も心配したでしょう?

山本(直):
僕の中では、燃えても1ミリもやめる選択肢はなかったです。

山本(志):
なぜですか?

山本(直):
何でですかね? 考えたのですが、最終的に“自分がやりたいことをやっている”から、という結論に至りました。事故をして入院をして、しばらく飛べなかったのですが、退院してしばらくリハビリをして、ひさびさにパラグライダーで飛ぶときに、入院中も「飛びたい」と思っていましたが、もしかしたら、自分が気づかないところで、トラウマみたいなのがあって、飛ぶときにそういう恐怖感が出てきちゃうのかなと思いましたが、実際飛んでみたら、まったくトラウマ的なものがなくて。むしろ初めて飛んだのときのことを思い出して、涙が出てきたんですよね。「心からやりたいことなんだな」と感じました。

これが、クライアントがいて、「キリマンジャロを空撮してきてください」という仕事だったら、たぶんやっていられなかったと思います。自分がやりたくてやっていることなので、続けられるんだろうなと感じました。家族には迷惑をかけてしまいましたが(笑)。

石丸:
キリマンジャロの撮影を成功したときはどうでした?

山本(直):
キリマンジャロは、6,000メートルまで上りたかったのに、そこまで行けなかったのが、悔しかったですね。でも、5,000メートルまで来られたのは、「一人じゃここまでこられなかった」とすごい強く思いました。本当にいろいろな方の支援を受けて行けたので、心から感謝の気持ちが出てきたのと、僕の師匠と一緒に飛びたかったのもあって、いろいろな感情がごちゃ混ぜになって、上空で号泣しました。

石丸:
涙の中で見えたキリマンジャロの景色はいかがでした?

山本(直):
僕の中では完全に“地球を感じて”、もうすごく感動して全身震えるぐらいの気持ちでしたが、写真としては自分の納得できる「地球を感じる写真」が撮れなかったので、またリベンジで行きたいなと思っています。

山本(志):
「納得できなかった」というのは?

山本(直):
理想とする写真が僕の中にあって、「キリマンジャロの上から見た写真」が撮りたかったんですよね。

石丸:
それでも、相当の高さまで行っているけれどね。

山本(直):
そうですね。キリマンジャロの隣にマウエンジという山があって、それは5,000メートルぐらいで、それよりも高いところまで飛べましたが、キリマンジャロの火口上から見たかった思いが強くて、また行きたいなと。

山本(志):
キリマンジャロを見たときには、「キリマンジャロだ!」と思いました?

山本(直):
全身で感動しましたね。何回かうまくいかなくて、最終的にやっと飛べて、やっとキリマンジャロに向かって行くことができて。雲の中に入っていき、雲から抜けたときに、キリマンジャロがフワ~っと見えてきました。もう“全身鳥肌”です。


番組では、写真や番組へのメッセージの投稿をお待ちしております。また、最新の放送回は「らじる★らじる」の聴き逃しサービスでお聴きいただけます。ぜひ、ご利用ください。


【放送】
2023/11/04 「石丸謙二郎の山カフェ」

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