登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。
今回のテーマは、「編集者イチ推し! “山の書き手”たち」。
お客さまに、山岳図書出版社で編集者として50年近いキャリアがある神長幹雄さんをお迎えしました。
作家に登山家…。神長さんが交流してきた日本登山界の“書き手”たちとは?
【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本:山本志保アナウンサー
神長:神長幹雄さん(山岳図書編集者)
登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。
今回のテーマは、「編集者イチ推し! “山の書き手”たち」。
お客さまに、山岳図書出版社で編集者として50年近いキャリアがある神長幹雄さんをお迎えしました。
作家に登山家…。神長さんが交流してきた日本登山界の“書き手”たちとは?
【出演者】
石丸:石丸謙二郎さん(俳優・ナレーター)
山本:山本志保アナウンサー
神長:神長幹雄さん(山岳図書編集者)
山本:
けさの山カフェは、“読書の秋”ということで、山の本の編集者として50年近いキャリアをもつ、神長幹雄さんをお迎えしています。
けさは「編集者イチ推し! “山の書き手”たち」がテーマです。神長さんは仕事柄、山を愛する作家や登山家たちと交友を深め、山の本を一緒に作ってきました。この時間は主に、3人の作品を紹介してまいります。作家の田中澄江さん、串田孫一さん、登山家の小西政継さん、その代表作をこれからひもといてまいりましょう。
1人目は、戦後、映画やテレビドラマで大活躍した、脚本家で作家の田中澄江さんを取り上げます。神長さん、この方は、どんな山の本を書かれたのでしょうか?
神長:
有名な本としては、『花の百名山』。タイトルもとてもいいですし、1977年から、山雑誌で3年間連載していました。それがすぐに本になったあとに、1981年、「読売文学賞」を受賞され、それからすぐ文庫化されて、現在は新装版もできて、大勢の方たちに読み継がれている本です。『新・花の百名山』という本もあります。
山本:
『花の百名山』は、高山植物の花々を切り口にして、百の山の個性を書き分けている作品ですよね。
神長:
そうなのですが、実は花の話だけではなく、かなりいろいろな方面に話が飛んでいます。歴史上の話であったり、人の話であったり、そういう意味で、とても味わいの深い文章が百個続いているような形になります。
石丸:
本の中には、神長さんが、田中さんと一緒に行かれた山もありますでしょう?
神長:
秋田駒ヶ岳(あきたこまがたけ)に行ってきました。花がとてもきれいで、とても楽しかったです。
石丸:
田中さんは、どういう方なんですか?
神長:
強い人です。非常に細やかな気遣いなど、しなやかさを持った人ですけれども、とても心は強い人でした。
山本:
どんなエピソードがありますか?
神長:
秋田駒ヶ岳は、あまりに花ばかりなので、立ち止まっちゃうんです(笑)。カメラマンの方と3人で一緒に歩いていたのですが、ちょっと時間が気になるじゃないですか? それでも、なかなか前に進まない。立ち止まってメモをして、スケッチをしていたときに、カメラマンの方に撮っていただいた写真を見ると、どの写真も笑っています。花を見て笑顔になってしまう。
山本:
お花が好きなんですね。
神長:
結局、最終的には時間がなくなってきてしまい、救助隊が出ちゃうと困るので、私一人だけ先に下りて。(田中さんは)最後のほうは、懐中電灯をつけながら下りていました(笑)。
石丸:
そんな夜まで! 夢中になっちゃうんだ。
山本:
時間の感覚がなくなっちゃうぐらい、好きなんですね。
それではここで、田中澄江さんの『花の百名山』から、東京にある標高599メートルの「高尾山(たかおさん)」の一節を、マスターの朗読でお届けすることにしましょう。
~田中澄江 「高尾山」 朗読~
山本:
「春の盛りを前にした谷の美しさはどうか」というところで。「本当に花が好きな人なんだな」と伝わってきます。この文章の魅力は、どんなところでしょうか?
神長:
細かい点について、一つ一つ観察したことを、文章の中にうまく取り入れています。朗読していただいた箇所もですが、頭の中に情景が浮かんできて、つくづく文章上手な人だなと思いましたね。
石丸:
いろいろな本の朗読をしてきましたが、田中澄江さんの本は、すごく朗読しやすい。目で読むのではなくて、声に出してスラーっと読める、めずらしい本です。
神長:
文章として完成されていますよね。相手が読むことを計算して、文章化されています。
山本:
続いてのおすすめの“山の書き手”は、作家の串田孫一さんです。どんな方なのでしょう?
神長:
哲学者であり、作家であり、大先生です。東大の哲学科に在学中から山に登り出して、東京外国語大学の山岳部の部長に就任されて、そこで教え子たちと一緒に山に登り出し、最終的には、山の雑誌を作られます。その功績はとても多大だと思います。
山本:
それはどんな雑誌でしょう?
神長:
昭和33年にできた『アルプ』という雑誌で、一切の広告を排除して、読み物だけに絞って、内容は詩や文章だけとなっていて、それが読者に大変な反響を呼びました。
山本:
串田さんは多才な方だったみたいで、多くの分野の作品を世に送り出したみたいですね。
神長:
400冊ぐらいですね。
『アルプ』は1号~300号あるのですが、串田さんが亡くなられたあとに、『アルプ0号』という本で編集のお手伝いさせていただきましたが、そのときの巻末に著作一覧をつけましたが、何ページにもわたっていて、たぶん400を超えているのではないかと。そのくらいの数の著作があります。
石丸:
串田孫一さんは、大正生まれの方で、本としては、エッセー集『山のパンセ』を書かれた方ですよね。
神長:
あと、『若き日の山』も有名ですね。
山本:
「パンセ」とは、どういう意味ですか?
神長:
「パンセ」は“思索”という意味があります。串田さんらしいタイトルだなと思いました。
山本:
それはなぜでしょう?
神長:
どこかで思索している。どこかで物事の次を考え、深みを考える。だから、表面的なことだけではなく、「表面の裏側にあることは、どういうことなのか?」ということを考えられていて、それを文章にされていると思います。
山本:
「山の旅をどう表現するか」という、山岳紀行文をお作りになった方ですよね。その中でも好きな作品はありますか?
神長:
やっぱり『山のパンセ』が一番好きです。このあと読んでいただけると思いますが、「島々谷の夜」という箇所があるのですが。
石丸:
「島々谷」というのは長野県ですよね。(アルピコ交通上高地線)の「新島々(駅)」からちょっと入ったところにある。そこが出発点になるでしょうかね?
神長:
そこから、徳本(とくごう)峠というところに上がるのですが、そこから見た穂高の山々のすばらしさは、あそこに行った人じゃないとなかなか分からない。山が一気に開けます。
山本:
これからご紹介する、「島々谷の夜」。朗読の前に、“聴きどころポイント”を教えてください。
神長:
串田さんのすごさは、特に「紀行文」と「随想」だと思います。「紀行文」の場合は、手に取るように情景が浮かんでくる。これから読んでいただければ、お分かりになると思いますけれども、特に夜の情景を書かれているのに、昼間の情景みたいに、その時の光景が目に浮かんでくるように書かれている。それが串田さんの「紀行文」のすばらしい部分じゃないかなと。
山本:
串田孫一の『山のパンセ』より、「島々谷の夜」です。
~串田孫一 「島々谷の夜」 朗読~
山本:
山の文章は数あれど、夜の山を行く描写は初めて聞いたような気がします。「夜の山はこうなんだ」と思いましたし、「ガイドブックの文章ではなく、エッセーなんだな」と改めて思いました。
山本:
串田孫一さんの『山のパンセ』については、長野県の方からもお便りをいただいています。
串田孫一さんの『山のパンセ』を読んでいます。有名な本ですので、「どんな文章かな」と思っていました。読んでの感想は、淡々としていて、派手な脚色がない。シンプルな文章だと思いました。静かに自分の中に入っていく感じです。出版された時代、山についての文筆は、今のように多くなかったかと想像しますので、これも当時の特徴なのでしょうか? 山のパンセについて解説していただけたらうれしいです。
神長:
『山のパンセ』が出たのは、1957年ですから、今から60年前ぐらいですね。お便りのとおりで、派手さがないんですよね。派手さがないのに、心に響くようなものがある。それは串田さんそのもののような気がします。串田さんという人柄は、高ぶらない、声高に何か発する人でもない、淡々とした人で、でも、その裏にあるのは、何らかの神髄というか、裏側をきちんと捉えているからこそ、こういう文書を書けたのではないかと。
ぜひ読んでいただきたいのは、「島々谷の朝」という文章がこのあとに続きます。朝もすばらしいです。
山本:
朝もあるのですか? ちょっと雰囲気が違うのでしょうね。
神長:
同じような形で書かれていますが、物事の洞察の深さみたいなのが、文章から現れるのはすごいなと思います。
山本:
そこが多くの人に支持された理由でしょうかね。
石丸:
串田さんは、ラジオ番組もずっとやっていらっしゃった。詩と音楽と山の話。そして、ご自分で朗読をされて。僕なんかがまねのできない。いわゆる、虚飾というものを全部とっぱらっていて、シンプルきわまりない。それでいて、人の心を打つという。
神長:
だいぶ前ですが、私も聴いたことがあります。淡々としながらしゃべっているけれど、その裏にテーマを設けながら、しゃべっていたような気がします。
石丸:
お便りが来ています。
京都府・30代
思い出の本は、串田孫一さんの『山のABC』です。から、A~Zにちなんで、アイゼンやピッケルなどの道具や用語を紹介する絵本じたての本です。とにかく山に対する、静かだけれども愛情を感じ、山に登るきっかけとなった本です。
山本:
影響を与えていますね。
神長:
『山のABC』も、とてもいい本です。普通の解説じゃない、ひねっている部分があります。
山本:
解説ができるほどの知識も豊富だったと。
神長:
この本は共著ですが、共著の方達も含めて、造詣(ぞうけい)はとても深かったと思います。いろいろ調べて、的確なところを表現しているのが『山のABC』ですね。
山本:
多作な方だったと伺いましたけども、片っ端から読んでみたい!
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【放送】
2023/10/28 「石丸謙二郎の山カフェ」
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