平出和也さん&中島健郎さん トップクライマーが語る「パートナー」とは?

23/06/24まで

石丸謙二郎の山カフェ

放送日:2023/06/17

#登山#ネイチャー

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登山を趣味とし、山を愛する石丸謙二郎さんが「山」をテーマに、さまざまな企画をお届けする<石丸謙二郎の山カフェ>。今回は世界に誇る日本のトップクライマー、平出和也さんと中島健郎さんがご来店。数々の功績を打ち立て、それぞれ山岳界のアカデミー賞と言われるピオレドール賞を複数回受賞したゴールデンコンビ。トップクライマーが語る「パートナー」とは?

【出演者】
石丸:石丸謙二郎(俳優・ナレーター)
山本:山本志保(NHKアナウンサー)
平出:平出和也さん(アルパインクライマー 山岳カメラマン)
中島:中島健郎さん(アルパインクライマー 山岳カメラマン)

信頼しあい、欠けているものを補う

山本:
2人はパートナーを組んでどれくらいになるんですか?

中島:
出会ったのは10年ぐらい前です。

石丸:
最初はどこで?

中島:
記憶にあるのはパキスタンです。僕が初めてパキスタンに行って敗退して下りてきて、そのとき平出さんは谷口けいさんと3度目のシスパーレ(パキスタン カラコルム山脈 7611メートル)に。

平出:
2013年だね。

中島:
たまたまイスラマバードという街で出会って。

石丸:
たまたま出会うものですか?

平出:
たまたまでしたね。特に連絡はそのころしてなかったんで。健郎がいつ下りてくるかも知らなかったし、僕たちが入山するのはいつか、お互い知らなかったんですけど、たまたまイスラマバードという拠点にまず行って、そこで準備をするんですけど、そしたらたまたま。

中島:
宿は同じでしたね。

石丸:
見た目はどんな感じでした?

中島:
何か不思議な感覚でしたね。2人が(平出さんと谷口さんが)一緒にいるところを初めて見たので、「パートナーとして男女でクライミングをやってるんだ」というので、ちょっと驚きましたね。

平出:
確かにそのころは男女で組んでヒラヤマ登山活動してたのはたぶん僕たちぐらいじゃない? だいたい男性や女性で固まっていたりするほうが多いので。

石丸:
自己紹介したんですか?

中島:
一応しました(笑)。谷口けいさんは会ったことあったんですけど、平出さんはちゃんとはなかったのでそのときに。

平出:
健郎の思い出が全然なくて、その日の夜にピザを食べに行った思い出しか僕はなく(笑)。「若いな~」というか、「やっと始まったんだな」ぐらいで。初めてのカラコルムで敗退して帰ってきて、「まだまだだな」って思いましたね(笑)。

石丸:
年は5歳違うことになるんですね? 5歳差のパートナーって気にはならないものですか?

平出:
全然気にならないものですよ。

山本:
そもそも山を登るにあたってのパートナーってどういうものなんですか?

平出:
1つの大きな目的地があるので、その目的地に片方が行きたいと思ってもそこにはたどり着けないわけで、2人が同じように山を見たときに、高さ、難しさ、心意気のすべてが、同じベクトルで山に向かっていないと実現しないことですから、同じ夢を見られる仲間がパートナーかなって思いますね。

山本:
健郎さんにとって山のパートナーはどういうものなんですか?

中島:
信頼できる相手ですね。ちょっとでも「何だこいつ」みたいなところがあったら……。ただ登るだけでも大変なところなのに、そんなことにいちいち気を使っていられないですし、お互い信頼しあってるところですかね。

山本:
具体的には2人はどういう役割分担をするんでしょう? 単独で行くのと何が違うんですか?

中島:
僕自身、単独は少ししかやってないですけど、いまだに経験値が足りてない部分が多くあって、経験値がもともと高い平出さんと一緒に行って勉強させてもらってたんですよね。果たして平出さんが僕に何を求めているかはわからないですけど……(笑)。

平出:
僕はそもそもさみしがり屋なんですよ。まず1人で山に行けないんですよね。最初の1日ぐらいはいいんでしょうけど、遠征だと1か月や2か月になるわけで、例えばひとりぼっちになると、僕はさみしくて帰ってきちゃうと思うんですね。だからこそパートナーが必要なんです。
僕は今、健郎と組んでますけど、私たちがやっている山登りというのは、例えば同じグレードの山が登れるクライマーが2人集まったら山頂に立てるかと言ったらそうではない。自分にはないものを相手は持っていて、補い合えるかどうか。それが健郎と組んでいるとあって、すごいチームワークになっているんじゃないのかなと思っています。

石丸:
欠けているものを補えるか、ということですね。

平出:
そうですね。

石丸:
ということは、選ぶ基準は何かあるんですか?

平出:
そもそもシビアな登山に一緒に登ってくれるパートナーってそんなにいないですよね。
よく先輩が言ってたんですけど、人生においてヒマラヤぐらいの山に挑戦するときにパートナーになる人って、人生で1人か2人出会えればいいぐらいなんだと。だからこそパートナー選びは難しいぞと。でもこうやって同じ時代をタイミングよく生きていて、タイミングよく出会って、そもそも健郎が関西出身ですから、関東に就職で出てこなかったら、そもそも出会ってないわけですよ。だから会うべくして会ったんでしょうね。会ってみたら「何かこいつとはおもしろい登山ができそうだ」と。登りだしてみたらすごいいいセンスの登山もするし、クライミング技術もあるし。

例えば僕が1だとして、頑張って2くらいの山に登れたとしても、3くらい難しい山には行けないわけですよ。でも健郎も1で、2人で2になって、力を合わせて4ぐらいの登山ができるのであれば、夢のような山に登れるわけですよね。そういうことを考えたら、1人でやる必要ない。2人で大きな夢をかなえたほうがいいんじゃないかなって思ったんですよね。

石丸:
キャンプでもいいんですけど、僕は仲のいい友達と雨が降ってるときに2日ぐらい一緒にじーっとしてるとケンカになるんですよ。つまらないことが気になってね(笑)。そういうのはないですか?

中島:
1回だけ一方的に怒られたようなときはありましたね。
平出さんにとっては4度目のシスパーレの挑戦のとき、僕にとっては初めての山だったんですけど、7000メートルの順応って高所に弱い僕にとっては結構大変な作業なんですね。ふらふらになりながらも、頑張って前を歩いてたつもりだったんですけど、いきなり後ろから罵声とストックが飛んできたんですよ。もうろうとしてたけど、いきなり飛んできたのでびっくりしました。確かに、高山病で調子が悪いだけじゃなくて、ちょっと気を緩めていたところがあったんですよ。それを見破られたというか、「そんなんじゃこの山には登れない」って言われて。

山本:
シスパーレについてご紹介しましょう。
パキスタンのカラコルム山脈にあるシスパーレという山は標高7611メートルありまして、平出さんは4回挑戦されています。そのうち3回は、2007年は小松由佳さん、2012年は三戸呂拓也さん、2013年は谷口けいさんと挑戦されて、4度目の中島健郎さんとのシスパーレ挑戦。そのとき中島さんは初めてのシスパーレだったんですね。

石丸:
4度目の挑戦ということは、3回敗退をしたということ。1つの山に4回行くのはめずらしいと思うんですけどね。

平出:
ほかの人からも世界に山はいっぱいあるので、「1つの山に固執するのはよくない、いろんな山を見なさい」って言われたことあるんですけど、僕は2001年にシスパーレを初めて見上げたときに「僕の人生をかけて登りたい」って思わせた山なんですよね。単純に強い登山家だけでは登れないことを突きつけられてる感じがしたんですよね。何を言いたいのかというと、人間としても強くないと、成長しないと、あの山は登らせてくれないと感じて。

私はそれまで競技スポーツをしていたので人と競うことをしてきたんですけど、登山家を志したとき、人としての強さを得たいと思ったんですよね。自然の中で生き抜く力みたいな。競技場の中では一番になれるぐらいの競技者ではあったんですけど、グラウンドの外へ出てみたら、意外と自分ってまだまだ弱いんだなと。自然の中での強さを自分は持ってないなと思ったので、人間の強さというものを育てたかった。だからこそシスパーレでは一番それを求められた感じがしたんですよね。そこから挑戦を繰り返すわけですけど、そのつど、はね返されて成長を繰り返してきたんですよね。

石丸:
健郎さん、山のパートナーとして今の言葉ってすごく重いじゃないですか? いつも自分の横にいてどう思いますか?

中島:
正直、僕自身はそこまで深く考えて山を登ってないです。でも平出さんみたいな人が2人いて一緒にパートナーを組んでいたら、意見がぶつかり合ってそもそもパートナーとして成り立たないんですよ。このデコボコ具合がいい味を出しているんだと思います。

平出:
まるで自分が緩衝材になってるかのように言ってるけど(笑)、いろんな意見やいろんな環境で、2人がぶつかることはそんなにないですけど、どっちの意見を通すかっていうと、実は健郎の意見を通すことが多いんです。「どっちのルート登ろうか」とか、「きょう何食べようか」という、ささいなことでも。なるべく健郎が健郎らしくいられるように、僕は健郎の意見を実は通すようにしているので、意外と僕のほうが変化してるというか、緩衝材になっているんですけどね(笑)。

恐怖と戦いながらも“空白の山”へ

山本:
2人で山に登ろうというときに、世の中にあまた山がある中で、「この山に登る」というのはどうやって決めるんですか?

平出:
最近は私が“空白の山”を見つけてきて。

山本:
“空白の山”とは?

平出:
空白というのは、世界で誰も登っていない壁とか頂を探すことで、「一緒に登ろうよ」って健郎を誘うことが多いんです。

山本:
未踏の山を登るのはなぜですか?

中島:
誰も登ってないところなので、答えがないからこそ自分たちで(ルートを)見つけることができる。それが正解かどうかを実際登って、下りてくることもあるんですけど、全部自分たちで選択できる楽しみがありますよね。

平出:
“宝石”はまだまだ眠っていて、それを見つけられるかどうか。幸い僕たちは“宝石”を探り当てて、そこに行くことができたから。

石丸:
平出さんの著書の中でも、韓国のある登山家が「平出くんが見つけたところ、うらやましい、嫉妬する!」って。あの見つける能力は何なんですか?

平出:
僕は地道に地図を眺めますね。地図を見て過去の文献から、人が歩いたところに線を引いて、登ったピークには点を打ってみて、人が歩いてない場所をまず見つけるとこから僕の山探しは始まっていて。やはり見えているところって誰でも目が行くので、「どこが空白なのか」をまず明確にすることから一歩一歩。だから意外と地道だし、意外とやっていることは昔のような感じなんだと思いますね。

石丸:
岩と雪のみじゃないですか? ほとんど白黒の世界ですよ。あれを見て見えてくるものなんですか?

中島:
僕らが登れるか登れないかは見えてきますね。もちろん技術が高いクライマーもたくさんいるので、岩壁だけのルートにトライするクライマーもいますが、僕たちはそういうスタイルではないので、僕たちに合ったギリギリのラインで登れるところはだんだん見えてきますね。

平出:
だいたい話し合ってないんですけど、「あそこは右に岩壁を巻いて……」とか、息が合うんですよね。自然に見ているラインが同じなんですよね。大きな山を見ても、山頂につながる道というものは意外と心の中で同じものをイメージしてるんですよね。

山本:
それがパートナーたるゆえんですかね?

平出:
それもあるでしょうね。それが全然違うところを見てたりとか、「俺はあっちから登りたい」とかになったら、「どっちにしようか?」ってなるんですけど、そもそも山頂に立つための道がスタート地点からすでに重なってるのは大きいですね。

山本:
素朴な質問なんですけれど、誰も登ったことのない山に挑むとき怖くないですか?

平出:
怖いですよ。僕は山を登れば登るほど怖くなりましたね。

山本:
平出さんほどの経歴があっても?

平出:
20代のときは正直怖くなかったんですよ。振り返ってみると、その怖さにただ気づいていなかっただけ。自分が成功したところしか見えてなかった。でも実際はその背後に紙一重の危険というものが潜んでいるけど、それに気づいていなかっただけ。でも今はケガをしたり失敗も繰り返して、その危険に気づけるようになったからこそ、山が怖くなってきたんですよね。

山本:
健郎さんは怖くなることはないですか?

中島:
壁に取りつくまでは怖いですね。できることなら取りつかない理由を探してるというか……。だいたいアタックする前って天気が悪くて、天気待ちでベースキャンプにずっといるんですけど、恐怖で押しつぶされそうになるんですよね。でも壁に取りつくとそれどころじゃなくて、楽しいので登っているんですよ。目の前の壁をただ黙々と登る感じですね。


番組では、写真や番組へのメッセージの投稿をお待ちしております。また、最新の放送回は「らじる★らじる」の聴き逃しサービスでお楽しみいただけます。ぜひ、ご利用ください。


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2023/06/17 「石丸謙二郎の山カフェ」

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