【アフロ記者】マウント取りもしなくなる? 老いることでのいい変化

24/03/09まで

ラジオ深夜便

放送日:2024/02/01

#アフロ記者#ライフスタイル#家族

暮らしを豊かにする達人たちにお話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。人生100年時代となると、若いころより老いの人生が長いもの。体も悪くなり大変だけど、長生きすることでいい変化もあるそうです。稲垣さんがお父様を見て感じた、ある変化とは?(聞き手・渡邊あゆみアンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

長生きすると考え方が変わる?

――きょうの話題は、お父さまのお話だそうで。

稲垣:
渡邊さんがよく「お父さんによろしくお伝えください」とおっしゃってくださいますが。

――今もきっと聴いてくださっていると、私は思っております。

稲垣:
そうですね。ときどき忘れていますが(笑)。
きょうは父の話を。つい最近、父の誕生日だったのですが、87歳になりまして。

――おめでとうございます。

稲垣:
「もう87歳か」と、びっくりしました。

――来年は米寿じゃないですか。

稲垣:
そうですね。本当に長生きです。元気に一人暮らしを頑張っています。お正月はいつも、父のところに行って、2人で過ごすのを、母が亡くなってから毎年恒例でやっているのですが、数えたらことしで8回目の2人正月です。最初の頃は、大山に神社があって、そこに電車・バスに乗って、階段が結構あるのですが、階段を上がって、初詣に毎年行っていました。でもここ数年は、近所の歩いて行ける小さな神社に行く初詣に変わりました。つまり父も年を取りまして、コロナで不活発になったのもありますが、腰が痛かったり、歩くのが大変になりまして。

――87歳ですからね。

稲垣:
そうだと思います。父もそういう自分に不安を感じているところもあって、口ぐせは「自分の体が思うように動かなくなることが一番つらい」と。あと、「人生100年時代になってとんでもない。早く迎えにきてほしい」と。

――元気で100年ならいいけど、そうですよね。

稲垣:
長生きっておめでたいことですが、若い時間が伸びるわけではなく、老いの時間が伸びることですよね。だからおめでたいだけでは済まされない大変なことだなと。しかし娘の目から見ると、長生きしていいこともあるのではないかと、最近思うようになりまして、きょうはその話をしたいと思います。

まず父の紹介をさせていただきますと、父は昭和12年生まれで、子どもの頃に戦争を体験している世代です。兄弟もたくさんいて、時代も大変だったので、貧しさを知っている、今となっては歴史的な世代です。大学を卒業して、家電メーカーに就職をして、高度経済成長時代で、三種の神器とか、いろんな家電製品が売れに売れまくった時代を忙しく働いて、全国転勤で私たち家族も一緒に行っていました。仕事は忙しかったと思いますが、きのうよりきょう、きょうよりあすが、より豊かであるという。

――まさに右肩上がり。

稲垣:
そういう意味では、幸せな世代とも言えます。ただ娘の目から見た父は、猛烈サラリーマンですよね。だから家のことは、基本的には母に任せ切りで。夏休みに旅行へ連れて行ってくれましたが、基本的に会話をすることはない人でした。娘の学校でどんなことが起きたか、ほとんど父は知らない。

――昔のお父さんは、そうですよ。

稲垣:
すごく遠い人でしたが、娘との関係が変わってきたのが、母が病気で認知症になって、そこから父も初めて娘ともコミュニケーションを取るようになって、ちょっと会話をするようになりました。
しかし母が亡くなって、これは私の個人の感想ですが、父との関係が難しくなりました。父は威張っていたわけではありませんが、一家の大黒柱。そんな世代でもあるので、何を言うにも上からなんですね。

――昔のお父さん、みんなそうですよね。

稲垣:
私、もうすぐ60歳ですが、娘に向かって「お前もなかなか頑張ってるな」と。

――あ、今でも?(笑)。

稲垣:
そうなんですよ。「お父さん、サラリーマンだったら定年の世代よ?!」と。悪気はなく、ほめているつもりですが、ちょっとカチンとくるんですよね。それはたぶん父だけではなく、あの世代の方はみんなそうで、私の周囲でも、定年後のサラリーマンの高齢の方は、みんな人づき合いが本当にへただなと。よく行くカフェにおじさんが来ていてお話ししたりすると、初対面の人に「自分は大企業にいた」とか、「すごい仕事をした」とか……客観的に自慢話ですよね。聞いてもないけど語ると。それでみんなしらけるという、本人だけ分かってないというパターンがよくあります。

前は威張ったりするのが、人格的に問題があると思っていたのですが、今となってはそうじゃないと、最近思うようになりました。サラリーマンって、偉い人じゃないと、あまり会社で尊重されないという文化があるじゃないですか?

――階級社会だからですかね?

稲垣:
そうなんです。すごい人じゃないと相手にしてもらえないのが皮肉になっていて、自分のことを相手にしてほしいつもりで、一生懸命、「自分はちゃんとした立派な人間なんですよ」ということを言わないと、相手にしてもらえないと思っているからだと思います。

ただこれは絶対に勘違いで、会社の外に出ると、みんなから愛される人は「俺はすごいぞ」とアピールする人じゃなくて、“人様のすごさを理解できる人”が愛されると思っています。「この人は優しいな」「よく気がつくな」とか、そういうことに気がついて「すごいですね」とか、お礼を言ったりできる人が、愛されています。

父も含めて、ここになかなか気づけない。だから父にもチクチクと言ってはきましたが、80歳を過ぎた人が考え方やくせは変わらない。仕方ないと思っていたのですが、ここ数か月、父が明らかに変わったんです。

――どういうふうになりました?

稲垣:
まず、カチンとくる発言かなくなった。あと「ありがとうね」とよく言うんですね。

――そう言われるとうれしいですね!

稲垣:
雰囲気が柔らかくて、マウントを取ることもしなくなって、感謝しながらにこやかに生きていて。

――何があったのでしょう?

稲垣:
本人に聞いていないので、私の想像ですが、体の不具合も出てきて、弱くなって、でも老いは対抗もできないじゃないですか? 受け入れるしかない。人間は弱くなったとき、人の親切さが身に染みることがあると思うんですね。

父が体を悪くして「大変だな」と思いますが、それによって父が変化したのだとしたら、人生は苦労ばっかりだし、最後の最後に老いという苦労が襲ってきてひどいなと思いますが、これも案外悪いことじゃないのかなと。「生きることはいいことがあるな」と、父を見て思うきょうこの頃です。

――つまりお父様が、何かご自分で体得されたことから変わられた、ということですよね。頑固さは変わらないのではなく、優しい言葉を掛けてくださった人に対して「ありがとう」と、優しく言い返してくださる、お父様の変わりようですよね。

稲垣:
すごい変わり方だと思いました。

――私は2~3日前に、母が夕方にデイサービスから帰ってきて、その背中に向かって「ちょうどドライカレー作っているのよね」と言ったんですよ。そしたら、母は「あら、ありがとう」と言ったんです。いつも毎日ご飯を作っているから、別にありがとうでもないけれど、「ありがとう」って言われると、「頑張って作ります」みたいな気持ちになりますね(笑)。

稲垣:
そうですよね。その一言で、自分も周りも変わる魔法の一言じゃないですか? でもそれを言うのは簡単ではないですよね。

――身内だからこそ、なかなか言えないのもありますよね。

稲垣:
照れくさいし、言えなかったことも含めて、出来そうで出来ないことだと思います。年取って、その一言がぱっと言えるようになるのは、「人は年を取っても変われるんだ」と。自分もこれから老いを生きていくことになるので、ちょっと希望を持ちましたね。

――これから先、「自分がどうなっていくんだろう」ということは、年を重ねると分からないんですよね。「覚えられなくなってしまった」「忘れてしまった」など、自分がそうなったことも分からなくなってしまうかもしれない。それが不安で怖いと思うことですよね。

稲垣:
怖いと思います。病気は治りますが、老いは治らないじゃないですか?

――人類が経験してないほどの長寿になっているわけですから。

稲垣:
だからお手本もいないし、ある種の過酷な冒険ですよね。長生きというのは。

――ひとりひとり、違いますし。

稲垣:
皆さん、勇気を出して生きていると思います。そういう人たちを先輩として学ばせてもらわなければ。

――お父様を見て、そのようにお感じになったのですね。

稲垣:
はじめて「お父さんやるな」と、ちょっと思いましたね。

――さすがお父さんですよ。87歳にして、また教えてくれましたね。

稲垣:
そうだと思います。

――さあ、聞いていてくださったかしら(笑)。

稲垣:
どうですかね?(笑)。


【放送】
2024/02/01 「ラジオ深夜便」

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