【アフロ記者】人の行動は伝染する いい行動をつなげていくべし

24/01/23まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/12/14

#アフロ記者#ライフスタイル

暮らしを豊かにする達人たちにお話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。
アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。
今回は、「人の行動は伝染する」というお話。マンションのゴミ捨て場の整理を行っている稲垣さん。誰かに依頼されたわけではないそうですが、始めたきっかけとは……?(聞き手・村上里和アンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

自分の中にある“善と悪”

――きょうのお話は?

稲垣:
最近、新たな楽しみを見つけまして。グルメやショッピングでは全くなく、ゴミの整理です。自分自身はゴミをほとんどださなくて、2か月に1回、燃えるゴミを出すくらいです。

――燃えるゴミが2か月に1回?!

稲垣:
ゴミを減らすのが趣味の一つなので、自分のゴミは整理するほどではないです。整理しているのは、他人のゴミです。マンションのゴミ集積所があるのですが、ここの整理整頓に手を染めております。

――それは稲垣さんが頼まれてやっていることではなくて?

稲垣:
管理人さんのアルバイトをやっているわけではないので自主的です。資源ごみの日があって、ゴミの出し方が複雑なので、この日にゴミの分別をやっています。収集の方にお手間をかけずに気持ちよく持って行っていただけるように、ゴミを整えるという作業にハマっています。面倒ですが、やってみるとそれを上回る楽しさがあります。信じられないと思いますが、きょうはそのお話をします。

――どんな楽しさがあるのか教えてください。

稲垣:
本当に楽しいと思っていただけるかはあれですが(笑)、きっかけは、あるろうぜき者の存在が。マンションの入り口に、自動販売機がありまして、そこで買った飲み物の缶を自販機の横にポイ捨てをする人が、どうもいるんですね。缶がたまってくると、この自販機で買っていない缶を、また捨てる人が出てくるわけです。

――どこからか持ってきたものまで捨てられている。

稲垣:
そうなんですよ。要するに、入り口に缶が散乱する状態が常態化していまして。見るたびに嫌な気持ちになっていたのですが、私と同じマンションに友達が住んでいまして、その人は自主的に「缶をゴミの日に分別して捨てている」という話を聞きました。

――すごい!

稲垣:
えらいでしょう? これは一本取られたなと。私は文句を言って「嫌だな」って思っていましたが、ちゃんと行動するのがかっこいいなと思って、「よし、私もやろう」と。

まずゴミの日は、ビンと缶の決められた箱をセッティングしまして、散乱している缶を箱にちゃんと入れます。自動販売機にペットボトルは売ってないのですが、捨てられてあるので、そのペットボトルのラベルをはがして、ペットボトル入れに入れると。さらに、ダンボールとかのゴミも、結構みんな適当に捨てているので、持っていく人が大変だろうなと思って、段ボールは段ボールでまとめて。

もちろん朝、プリプリ怒りながらやるわけですが、でも終わったときは「いいことした。私も捨てたものじゃない」と、さわやかな気持ちになるので。

――見た目もスッキリしますし。

稲垣:
見た目もきれいだし、心もスッキリ。朝一番、これでスタートできるのは、なかなか悪くないです。

――だいたい、どのぐらいの時間をかけて作業をするのですか?

稲垣:
そんなにたいしたことなくて、5分かからないくらいですね。そこまで精緻にやっているわけではないし、大量にあるわけではないので。

そうこうしているうちに、ある妙なことに気づきました。
ある日、このゴミ問題の前日の夜に、マンションの外からガラガラガラと、空き缶をドバドバ入れているような音がして、ベランダから外を見たら、同じマンションの住人とおぼしき方がいました。正しく入れるべき箱とは別の大きいゴミ収集ボックスが置いてあるのですが、その中に缶を袋に入れて捨てている方もいるんですね。そこからその缶を取り出して、ボックスに入れている方がいたんです。もしかすると、われわれ先人の行動を見た人が、自分もやってみようと。新たな協力者が現れたことに気づきました。

この3人が顔をあわせたことはありませんが、ゴミの日以外にも缶のゴミが消えていたりすることがあって、「誰かやったな。なかなかやるな」みたいな感じで、心の中でつぶやく感じになってきて。「人の行動は意外と伝染するな」と。誰かゴミを捨てると、他の人も捨てるという悪い行動もありますが、いい行動も伝染することがわかりました。

――いい行動も伝染するんですね。

稲垣:
なかなかおもしろいと思って、知り合いにその話をしたら、「実はね」という話をされて、その方も同じようなことをされていました。出勤途中にお地蔵さんがあるらしくて、近所のおばあちゃんがきれいにして、お花を新しいものに変えていたのですが、ある日を境に、急に荒れ始めたらしいんです。「おばあちゃん何かあったな」となり、荒れた状態を見かねて、その方がおばあさんの後を引き継いで、掃除してお花を入れるようになったらしいのです。そうこうするうちに、見知らぬ花が飾られるようになってきたらしくて、花の感じからすると、「2人同じようにした人が増えたんだよ」とおっしゃっていて。

――気配を感じるわけですね。

稲垣:
花の特徴が、仏花みたいな人もいれば、おしゃれな花を入れる人もいたりして、種類からすると、どうも自分以外にも2人いると。顔をあわせたことないらしいですが、やっぱり人の行動は伝染するなと思いましたね。

人間って、“いい人間”と“悪い人間”がいると思っていましたが、そうではなく、“いい人間”と“悪い人間”が同じ人間の中にあって、何かのきっかけで、どっちかがズルズルと引き出されるのではないかなと思いました。今の世の中は悪いことがたくさん起きていて、それを見るたびに、「世の中にはとんでもない悪い奴がいっぱいいるな」と腹立たしくなりますが、いくら腹を立てても悪い奴っていなくならないし、無力感を抱きがちですが、実はそうじゃなくて、誰の中にも善悪があって、どっちかが出るんだなと考えると、一人の行動が波紋のように広がって、世界を変えていくんじゃないかなと思うようになったんですね。

そうすると、自分のささやかな行動も世界を小さいところから大きく変えていくのかなと、ちょっと希望を持ったりして、今週もプリプリしながらゴミの整理をするという、きょうこのごろのお話でございます。

――人の悪いところを責める前に、自分の中のいいところを出して、ちっちゃい行動をしてみると、それが広がっていく。

稲垣:
皆さんもそうだと思うんですよね。私も偉そうに言ってますが、自分もポイ捨てをやったことないかと聞かれると、たぶんやっているんですよね。

――私もつい3日ぐらい前に、会社のらせん状の非常階段を1人で歩いていたときに、手にあめのゴミを持っていて、ポーンって捨てたら「手のゴミもなくなるし、ヒラヒラしてきれいじゃないかな」って思ってしまいました。「そんなことしちゃダメだよ」という自分と、「捨てちゃっても誰も見てないんじゃない?」という自分がいました。

稲垣:
やっぱりそうですか。

――そのときは、善が勝ってポケットにゴミを入れました。ちっちゃい善がジワジワと広がっていったら、世の中を変えていくかもしれない。

稲垣:
“自分の中に善と悪がある”という考えも大事ですよね。だからどっちを引き出すかは自分との戦い。自分が勝利したときに、他の人の勝利につながっていくかもしれないですよね。

――稲垣さんの考えは哲学ですね。

稲垣:
人のまねをして学んだことですからね。世の中にはすごい人がやっぱりいますよね。普通の人がすごいなと思います。

――お地蔵さんのお世話をしていたおばあさまがお元気になられて戻ってきたときに、「みんながきれいにしてくれていたのね」って思ってくれたらうれしいですね。

稲垣:
そうですね。もしかすると病気になったり、最悪亡くなっているかもしれないですけれど、でもその方のやってきたことが引き継がれているのはすごいことですよね。

――そして「自分にもできそう」と、思えることがうれしいです。

稲垣:
だからゴミの整理、結構おすすめですよ。

――管理人さんに任せてないで、自分ができるときにはやるという。

稲垣:
やっていると誰かが見ていて、「自分も」と思う人もいるかもしれません。

――きょうもいいお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。

稲垣:
ありがとうございました。


【放送】
2023/12/14 「ラジオ深夜便」

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