【アフロ記者】読書の秋! 読んでみるとおもしろい、文芸誌の魅力

23/12/09まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/11/02

#アフロ記者#ライフスタイル#読書

暮らしを豊かにする達人たちにお話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。今回は読書の秋にふさわしい、文芸誌のお話。みなさんは文芸誌を読んだことありますか? 文芸誌だからこそ、好きな作家に出会えるかもしれません。(聞き手・渡邉あゆみアンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

「選べない豊かさ」が文芸誌にはある

――稲垣さん、こんばんは。お元気でいらっしゃいますか?

稲垣:
元気です。食欲の秋で、お米が好きなので、モリモリと食べております。

――日本のお米はおいしいですよね。

稲垣:
私は玄米が好きなのですが、白米もよくいただいたりするので、玄米と白米を混ぜて食べております。古い商店街に漬物屋さんがあって、たくあんが安く売っていたので買ったのですが、ご飯にたくあんは一番合うなと。いくらでも食べられますよ。

――きょうは、秋ならではの話題がもう一つ。

稲垣:
読書の秋。なぜ秋が読書なのか、よく考えるとわかりませんが、夏の暑さがなくなって体が楽になるからですかね?

――あとは、「夜が長いので本を読むのもいい」、ということでしょうかね。

稲垣:
読書の秋ということもあり、私が最近ハマっている文芸誌についてお話をしたいと思います。文芸誌について、正直よく知らなかったのですが、本屋さんに行くと雑誌コーナーのものすごい片隅に、小さいサイズの四角い分厚い雑誌がありまして、見たことがある方もいらっしゃるとは思いますが。

――出版社の名前がついていたりして、いろんな作家の作品が入っているイメージです。

稲垣:
だいたい出版社が1冊出してるイメージなのですが、実際読んだことがある方って、そんなに多くないと思っております。作家志望とか、小説マニアとか、そういう方は読まれると思いますが、私自身も今まで興味がなくて、いつも見るたびに「誰が買うのかな?」と思っていたくらいです。

ところが今や、毎年ある文芸誌が家に送られてくるようになりまして、これをめちゃくちゃ愛読してまして。届くや否や、郵便受けに入っていると勇んで家に持って帰ります。バリバリと封筒を開け、隅から隅まで、数時間かけてじっくり読むのが、今の最大の楽しみです。

――中身は小説が多いんですよね?

稲垣:
小説やエッセーや評論もありますが、漫画はなくガッチリとした堅いものが多いです。

文芸誌を読み始めたきっかけは、会社を辞めた直後に、とある文芸誌から「短いエッセーを書いてほしい」という依頼をいただきまして。文芸誌から依頼が来るとは考えたこともなかったので、ありがたくお引き受けしました。それ以来、律儀な編集部でして、毎月送ってくれるようになったんです。
最初は正直、送っていただけるものの、特に興味もなかったのですが、よくよく見たら、大好きな作家の桐野夏生さんが連載をされていまして、連載だけを毎月読むようになりました。そして、ひまなときに、別のものも見てみようかなと思って、名前は知っているけど読んだことのない作家さんの作品を試しに読んでみたら、めちゃくちゃおもしろくて。そのうち、全く知らない作家さんのも読んだら、またこれも驚くおもしろさで。あとは戯曲も載っているんですよ。

――戯曲、芝居の台本みたいな。

稲垣:
シェイクスピアや三島由紀夫も書いていたと思いますが、どうおもしろがって読めばいいのかさっぱり分からなかったのですが、現代の作家さんの戯曲を読んだら、めちゃくちゃおもしろくて。とにかく見るもの見るもの、驚きのおもしろさ。好きな作家さんも増えて、小説そのものも好きになりました。特に作家の高橋源一郎さんの連載がものすごく好きで、それが少し前に終わったのですが、高橋源一郎ロスに陥りました。

――その気持ち、ちょっと分かります。

稲垣:
よく好きなテレビドラマが終わって、「ロス」って言うじゃないですか? 私はテレビを持っていないので経験がなかったのですが、まさか文芸誌で小説ロスになる。日本でも珍しい人だと思いますが。

――もしかすると、かなり昔はそういう人もいたんじゃないでしょうかね?

稲垣:
そうですよね、新聞の連載小説とか。
現代ではあまりいないと思いますが、ハマった理由をいくつか考えてみました。
ひとつは「選べない豊かさ」。普通、自分が好きなものを選べるのが、豊かでいいことだと思いますが、例えば小説とかに関して言えば、自分で選ぶと、好きな作家さんの作品を読みますよね。あとは好きなジャンルで選んだりとか、広がりがないのです。ただ、文芸誌は選んでもいないものが載っているわけじゃないですか? そうすると、全く興味がなかったものが、向こうから強制的にやってくるわけで、むしろ出会いが広がるのです。

――選べないからこそ、新しい出会いが。

稲垣:
余談ですけど、ラジオもこれと通じるものがあって。私はラジオはNHK-FM派なんですけど、全く聴いたことない人のJ-POPやクラシックや民謡が、どんどん流れるじゃないですか? 「こんなにいい曲があったのか」と、出会いがすごくあるんですね。これは「選べないならでは」と思います。

――いい作家に出会えると、今度はその作家を選択的に選べるようになりますしね。

稲垣:
作家さんが書いている読者案内とかあると、そこからどんどん広がっていきますね。
あともう一つハマった理由があって、私にとっての文芸誌は、「世の中を知ることができる一つのツール」になっております。現代って分かりにくい時代だなと、最近思うんですね。例えば「紅白歌合戦」を見たら、全員知っている人が出ていた時代と違って、今はほとんど知らない人が出ているみたいな。

――テレビがないのもあるかもしれないですけどね(笑)。

稲垣:
テレビ見ている若い子も、「全然知らない」と言っているので、「分断」とも言いますけど、「細分化された社会」になっていますし、変化もすごく早いから、自分とちょっと違う世代の人が「何を考えているのか」とか「はやっているけど、本当は一体何なのか」とか、よく分からないことが多い時代だなとつくづく感じております。
ただ文芸誌は、いろんな世代の作家の方が、いろんなテーマで書いていらっしゃるので、世の中を知ることができるんですよね。

例えば、最近はやりのキーワードだと、「推し活」、「トランスジェンダー」、「ひきこもり」とか。聞いたことあるけど、実際どうなっているのかよく分からないことが、具体的な登場人物が出てきて、生き生きとその世界を生きているので、すごく分かるんですよね。
あと、若い方だけでなくて、ベテランの方もたくさん書いているので、「老い」、「死」、「戦争」とか。あと時代小説もあるので、昔の人の世界までリアルに分かるという、時空を超えたものも含めて、世の中全体がリアルに分かるツールとして、とってもいいんですよね。いろんな人がいろんな事情があって、こんなことで喜んだり悩んだりしていることが、「共感」という感じで分かるんですよね。

――ドキュメンタリーとか、ルポルタージュとか、ノンフィクションではなくて。

稲垣:
ノンフィクションもありますが、ノンフィクションって取材している人が、自分じゃないことを書いているので、公平ではありますが、「その人の内面にどこまで入っていけるか」は、それはそれで小説にしかできないリアリティーがあるじゃないですか? これを読むようになって、初めて今の世の中が、親しみを持って分かるようになりました。

――文芸誌にはお宝がありますね。

稲垣:
本当におすすめしたいです。とっつきにくいと思われがちですが。

――今の時代ネットにものすごく特化していて、本を買うとき通販を使ってピンポイントで買ってしまいますが、本屋さんに行って、ボーっと見て歩いて目に入ったものを買う、その意外性に近いですよね。

稲垣:
ネットで選ぶと、好きなものをどんどんどんどん掘っていけるので、選ぶ狭さがあります。本屋さんはアナログで、文芸誌はアナログの最たるものだと思いますが、そこにある可能性が現代だからこそ、価値があるのかもしれないですね。

――いいことをうかがいました。今は町中の書店が減っていき、それ自体も残念なのですが、文芸誌のコーナーをのぞいてみようという気になりますね。

稲垣:
コーナーは小さいけど、必ず本屋さんにあるので見てみてください。今は10種類ぐらいあるのかな? 表紙見て「知っている作家さんがいるな」とかでもいいので。連載もあって、「来月が楽しみ」っていいじゃないですか?

――ワクワクしますね。文芸誌という、秋の夜長にふさわしい話題をいただきまして。

稲垣:
そう言っていただけるとうれしいです。

――ありがとうございました。


【放送】
2023/11/02 「ラジオ深夜便」

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