アフロ記者 人生100年時代、不安を脱出する「暮らしを整える力」

23/07/14まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/06/01

#アフロ記者#ライフスタイル#家事アイデア

暮らしを豊かにする達人たちにお話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。人生100年時代の不安から脱出するには「家事をすること」が大切だと語る稲垣さん。一体どういう意味なのか、教えていただきました。(聞き手・渡邊あゆみアンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

暮らしを整える力=自分で自分を幸せにすることができる力

――稲垣さん、よろしくお願いします。少し前に、アメリカにいらしてましたよね。

稲垣:
そうなんです。「令和つれづれ草」初の海外中継を電話で。朝早い時間に、アメリカから電話いたしました。

――あのまま永住してしまうのか? と思いましたが。

稲垣:
「永住したら?」という社交辞令的なお誘いもありましたが、普通に帰ってきました。

――アクティブですね。

稲垣:
いやいや。寒かったです。

――私のところに稲垣さんのお写真が。これは新刊ですかね?

稲垣:
アメリカで最後の校正作業を必死にやっていた新刊を、ようやく出すことができまして。本を出すたびに大変なのですが、きょうは、それに関連したお話をしようかなと。本のタイトルが『家事か地獄か 最期まですっくと生き抜く唯一の選択』というもので。「地獄」っておどろおどろしい言葉が大々的にタイトルに入っているので、ちょっと手に取りづらいかなと心配もあって、きょうは、その内容を少し皆さんにご紹介しようかなと思っております。

「地獄」というのが、リスナーの方々にも無縁じゃない世界だと、私は思っておりまして、現代の地獄というのはいろいろあると思いますが、いろいろな方々が一番不安に思っていることは、老後の問題じゃないかと思います。「人生100年時代」と言いますが、長生きできておめでたいことだと思いますが、実際、多くの方が「人生100年時代やったー!」というよりも、むしろ心配の種になっていると思うんです。

――「どうしましょう」って感じですよ。

稲垣:
「急に、人生100年と言われても」という感じだと思いますが、ちょっと分析すると、主に、お金の心配・健康の心配、大きくこの2つですよね。だから皆さん、お金を一生懸命貯めたり、いろいろな健康情報をチェックしたりなど、備えは一生懸命やっているとは思いますが、いくらやっても「これで安心」というのはないですよね。

――終わりが分かりませんからね。

稲垣:
そうすると、不安がどこまでもつきない。こういうのを「地獄」と言うのではないかなって思うんです。もちろん、私もずっと不安に思っていたのですが、ひょんなことから、この不安を脱出する、とても良い方法を見つけました。それは「家事をすること」。

――家事も地獄ですけどね。

稲垣:
まあ、あとからそのことも言おうと思うんですけど(笑)。

とりあえずどういうことか説明しますと、このことに気づいたきっかけが、50歳で会社を早期退職しまして、もちろんピンチに陥ったわけです。というのは、次の仕事のあても、まったくありませんでしたし、給料はもらえなくなっているわけで、いまだに覚えているのですが、(会社を)辞めた後、最初の収入が2万円だったんです。あとは、独身で一人ぼっち。お金はないし、孤独だし、結構ピンチな状況だったんですけれども、のほほんと機嫌よく暮らしておりまして、「何でなのかな?」と自分でも思ったのですが、これは端的に言って「家事ができるから」ということに気がついたんですね。

――「有能だ」という意味ですか?

稲垣:
有能ではないです。むしろ無能なんですけど(笑)、一人暮らし歴が長いので、最低限のことはできた。つまり、ごちそうじゃなくても、自炊して好きなものを食べることができる、そこそこ片づいた部屋で暮らすことができる、洗濯をして、こざっぱりしたものを着て暮らすことができる、衣食住、そこそこ整える力が自分にはあると。衣食住が整っていれば、そこそこ幸せなんですね。「会社辞めたら、生きていけるのかな」って本当に心配しましたが、辞めても、お金があるなしに関わらず、自分の暮らしを整える力があるということは、“自分で自分を幸せにすることができる力”が、私にあるんだなと気づきました。今までは、家事が「面倒くさいもの」としか思っていなかったのですが、それに気づいたら、急に「財産」だなと気づきました。お金がなくても自分で自分を幸せにする力があるわけですから、急に不安がしゅるしゅるってしぼんで、何とかなると思ったんですね。端的に言うと、老後が不安に思うならば、まずは“家事をする力を身につける”ということが大事じゃないかなと思いました。

女性は家事ができる方が多いと思いますが、男性の場合、妻に丸投げをして、家事をやったことないという方もいますが、これではいけないと思うんですね。何が起きるか分かりませんから、まず自分で自分を幸せにする力、自分で自分の面倒を見る力を持つと。男・女に関わらず、一人一家事と。これが基本じゃないかなと思います。

――妻のお荷物になっている場合じゃないぞと。

稲垣:
現役時代、ブイブイといわせてきた方が、妻に先立たれて急に一人暮らしになると、本当に無力になってしまう方を、新聞記者時代も結構見てきたんですね。だから、人間、最後は活力だなと、強く心に刻みました。

でもそうは言っても、先ほどおっしゃってましたが、「家事も地獄」だと言う方もいらっしゃると思います。家事って、面倒くさくて嫌われものですよね。だからもう一つ、家事を人生の味方にするためのポイントがあると思っていまして、「家事を、大変なことにしすぎてはいけない」と。家事があまりにも大変だと、そもそもやる気も出ないじゃないですか? 人生の味方どころか、面倒くさい、不幸のもとになっちゃうので、家事をラクラクこなせるものだったら、大丈夫だと思うんですね。短時間で済む、そんなに大変じゃなければいいと思うのですが、そのためには、暮らしをシンプルにしなきゃいけない。物が少なければ、整理整頓もラクですし、お料理も簡素なメニューであれば、作るのもラクですよね。

――高齢になれば、そんなにガツンとたくさん食べることはないと思いますが、少ないながらも食べることだけが最後の残された楽しみ、という声も聞きますから、やっぱり、はりきって作らなきゃいけなのではと思いますけどね。

稲垣:
はりきって作れるうちはいいと思いますが、亡くなった母も、お料理を一生懸命作る人で、料理上手でしたし、日々違うごちそうを食卓にずらっと並べるタイプの人だったんですね。私、その恩恵をもちろん受けて育ったんですけれども、母も老いてきて、認知症になってしまったので、料理が大変なことになっちゃったんですね。お料理だけじゃなくて、おしゃれも好きだったので、たくさんお洋服を持っていて、洋服が探し出せず途方に暮れている母を、最後ずっと見ることになって、一番悲しかったのは、母自身だったと思います。それまで豊かさを求めて、いろいろなことを一生懸命やってきたことが、一気に襲いかかってくる。

――負担になってしまいますね。

稲垣:
やりきれないこと自体が悲しみのもとになってしまう、という様子をつぶさに見てきたので、自分で自分を見きれる範囲に、自分の暮らしを年とともに見直して、シンプルにしていくことが大事だなと思うんですね。その見直しをどんどんやっていけば、自分で自分の面倒を見ながら、最後まで生きていくことを長い間やることができるなと思うんですね。

――どんなふうに、家事をシンプルにしていくのですが?

稲垣:
私は会社を辞めてから、家も狭くして、物も収納もない家になったので、非常にラクに家事をしています。食事も一汁一菜、冷蔵庫もないので、だいたい10分で食事の準備が終わりますし、洗濯機もないので手で洗っていますが、だいたい10分ですね。掃除も家が狭いので、これもだいたい10分で終わるので、日々40分くらいあれば、家事が全部終わる暮らしをしているので、ラクに幸せを手に入れている状態ですね。うらやましいかどうかは別ですけど(笑)。

――稲垣さんの場合は、それで心の安定を得ているのですね。

稲垣:
そうですね。これでも手に負えなくなったら、もっとシンプルにすればいいと思っていて、そうすると当然お金もかからないので、お金の心配もありませんし、こんな感じで年を取っていけたらなと、今の段階では不安なく暮らしているという状態ですね。

――食事は、コンビニの1人用のお総菜を買うとかができるかもしれないけれど、たしかに洗濯とか掃除とか、自分でできなくなることが、いつか来てしまうかもしれないですよね。

稲垣:
本当に物を減らすと、めちゃくちゃ掃除がラクです。あと家が小さいと、すぐ終わりますね。

――それは思いますね。

稲垣:
『方丈記』を書いた鴨長明の家が再現されたのを見に行ったことがあるんですよ。もう本当に何にもなくて、究極に家事がラクだなと思います。

――私も奈良の西行庵に行ったことあるんですけれども、シンプルですよね。

稲垣:
そこもそうですよね。

――たしかに、ダウンサイジングしていくのはなかなか大変なことで、それはやっていかなきゃいけないですよね。

稲垣:
だからあの境地に達したら、最強だなって思いましたね。

――21世紀になかなか……(笑)。

稲垣:
意外と、あれが最新型の暮らしかもしれないですね。

――家事力は、どうやってつけていったらいいでしょう?

稲垣:
暮らしをシンプルにしたらラクになって、ラクになったらやる気も出る。そんな気がしております。

――パートナーがいらっしゃるお年寄りの方で聞いていらっしゃったら、洗濯機のボタンの押し方とかお米のとぎ方とか、2人仲よくやるのもいいかもしれない。

稲垣:
案外、やったら楽しいかもしれないですよ。

――何かができると、うれしいものですよね。

稲垣:
妻も(夫を)励ましながら、ほめながらやると、ご自分の負担も減りますし。

――そうですね。たまには、ちょっとお芋が硬くても文句に言わないとか(笑)。

稲垣:
「おいしいわ」みたいな感じで(笑)。
新しい人生を切り開いていただけたらと思っております。

――そうですね。家事って見直してもいいかもしれない。

稲垣:
そんな気がしております。

――ありがとうございます。次回、お話を伺うまでは国内でしょうか?

稲垣:
まだ当分、国内におります。

――梅雨も近いようですからご自愛くださいませ。どうもありがとうございました。


【放送】
2023/06/01 「ラジオ深夜便」

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