アフロ記者 海外にふだんの自分を輸出! ちょっと変わった私の旅

23/06/19まで

ラジオ深夜便

放送日:2023/05/11

#アフロ記者#ライフスタイル#トラベル#ワールド

暮らしを豊かにする達人たちにお話を伺う「ライフスタイル 令和つれづれ草」。アフロヘアーがトレードマークの元新聞記者・稲垣えみ子さん。今回は、海外旅行のお話。外食しない・ショッピングしない・名所も行かない稲垣さん。では、何のために海外へ行くのか? どうやら日本での生活が豊かになる秘密があるようです。 (聞き手・村上里和アンカー)

【出演者】
稲垣:稲垣えみ子さん(元新聞記者)

海外旅行は「修行」 人間力が試される

――前回は、アメリカのポートランドにいらっしゃって、早朝7時に電話でお話しいただきました。ありがとうございました。

稲垣: ありがとうございました。今は日本の夜でよかったです(笑)。

――ポートランドはいかがでしたか? 何が一番印象に残りましたか?

稲垣: 本当にいいところだなと。きょうもお話するんですけど、2週間で2人友達ができまして。すごいなと思って。

――どんな人たちなんですか?

稲垣: 1人は、カフェの店員さんです。もう1人は、家主さんですね。また、夏にもう1回行くことにしました。

――そうですか! 「またおいで」って。

稲垣: 「また来てね」って言われて、「また行く」って言っても、普通行かないじゃないですか?

――なかなか行けないですよね。

稲垣: そういう社交辞令をやめようかなと思って。

――それを乗り越えたいと。

稲垣: 「本当に来たの?」って言われるかもしれないですけど「行く」と言ったからには、行こうと思って。

――前回のお話でも、「ともに暮らそう」という意識にあふれた街というのが伝わってきました。

稲垣: 驚きましたね。本当にそういうところがあるんだなと。

きょうは、その関連というか、「ちょっと変わった私の旅」についてお話をしたいと思います。
会社を50歳で辞めて、今58歳なので8年たちますが、会社を辞めて以来「年に一度は、海外に行こう」と自分に課しておりまして、コロナ(禍)で中断しましたが、そういうことを考えておりまして。とはいえ、皆さんがお考えになるような海外旅行とは、かなり違うんですね。今回もですが、レストランには行かないんです。外食をしない。あと、ショッピングも一切しないし、名所にも、ほとんど行かないです。要するに、特別なことはまったく何もしないと。ふだんと同じ生活をする、という旅行なんです。

――ふだんというのは、日本でのふだんの生活。

稲垣: 「日本での暮らしを、場所を変えてやる」という旅で、だいたい滞在期間は2週間ぐらい。民泊で住まいを借りて、朝5時に起きて、ヨガをして、午前中は、近所のカフェでモーニングを食べながら、仕事をします。お昼は滞在先に戻って、自炊してご飯を食べて、午後は、別のカフェや別の場所に行って仕事をして、終わったらまた家に帰ってきて自炊して……という、東京とまったく同じことをやると。食材を買わないといけないので、近所のお店に行く感じです。「一体、何が楽しいのか?」と言われると思いますが、私の旅は、楽しむために行っているわけではなくて、自分の中では「修行」と言い続けておりまして。

――修行の旅ですか。

稲垣: 修行なので目的があるんですけど、その目的は、まったく初めての場所に行って、現地の方々に何となく受け入れてもらうこと。受け入れてもらうといっても、いろいろなレベルがあると思うのですが、少なくとも近所の人に「最近、あの人よく見かけるな」とか、「そんなに感じの悪い人じゃなさそうだ」とか、何となく親しみを持っていただくことが目標なんです。
そんな発想になったきっかけは、本やテレビで、海外に行って現地に溶け込んでいる人の話ってあるじゃないですか? 旅番組で現地の人と過ごすとか。本では、古く言えばジョン万次郎とか、海外に流れ着いて、現地の人に溶け込んで、生き生きと暮らしているようなストーリーとか、あとは、世代的に言うと鳥飼玖美子さんとか、海外に留学して青春時代を過ごす、そういうのに憧れがあって。いろいろ不自由があっても、異国で溶け込む人ってすごいなと思っていたんですね。会社員時代は、仕事があったので、あまり海外に行けませんでしたが、それでも数回、海外旅行へ行きました。現地のお店を調べて行くんですけど、とにかく言葉も話せないし、習慣も分からないし、どこへ行ってもまごまごして、現地の方に非常に冷たくあしらわれ、一生懸命いろいろなところへ行くけど、敗北感いっぱいで帰国するという。

――自分が憧れていた人たちとなんか違うなと。

稲垣: そうそう。人との交流も、ほぼゼロですよね。せいぜいブランド品を買いに行って、特にほしくもないもの買って帰るぐらいのことしかできなくて。
「何でこうなのか?」をちょっと考えたんですね。要するに私、人間力の問題だろうと思ったんです。でも、人間力って何かよく分からなくて、考えついたのが「ふだんの生活をする」ってことなんです。人間力って、結局ふだんの自分じゃないですか? 人間力があるにせよ、ないにせよ。だから、ふだんの自分をそのまま海外に「輸出」をすると。それでどうなるか? 実験してみようって思ったのが、始まりだったんですね。

――おもしろい発想ですね。ふだんの自分を輸出して、どうなるか実験すると。

稲垣: どのくらい人と交流できるかやってみようと思ったのがきっかけで。これまで行ったのが、フランスのリヨンと、台湾の台南(たいなん)と、フィンランドのトゥルクというところに行って、今回が4か所目なんですけど、これだけやると、だんだんコツがわかってきました。前提として、私は英語がほとんどできませんが、一番大事なのは「笑顔」です。とりあえずスマイル。これ、世界共通ですね。あとは「挨拶」。挨拶は、言葉を覚えて、お店入ったときも、すれ違った人でも、機会があれば挨拶をして笑顔を向ける、これだけでも笑顔で返してくれます。日本だとあまりないかもですが、海外だと結構いらっしゃるんですね。

あともう一つ大事なのが「その街を好きになる」っていうことですね。いいところを何でもいいので見つける。そういう気持ちを持っていると、何となく向こうにも伝わります。あと、気に入った店があったら、同じ店に何回も行くのもコツですね。

――それは、稲垣さんが東京でも実践していらっしゃることですよね。

稲垣: そうですね。海外に行くと、みんな同じ店に行かないじゃないですか? いろいろなお店に行きたいから。でも同じ店に、何回でも行くんですね。そうすると向こうの人は、「この人は、うちの店が気に入ったのね」って思ってもらえるんですね。だから、コミュニケーションのいいきっかけになりますね。

――そういえば、カフェの方が、お友達になったんですよね。

稲垣: 毎日行っていたカフェの店員さんが話しかけてくれて。「名前を教えて」から始まって、住所交換して……みたいなことになったんですね。
これもコツなんですけど、非常に孤独になったときは、困っている人を見つけて、お助けします。お店の前にいわゆる物乞い的な方っていらっしゃると思うんですけど、大金じゃないですけど、お金を渡すとか、こんな自分にもできる、喜んでいただける活動を。あと、お年寄りに優しくすることも、よくやります。道を譲るとか、その程度なんですけど、感謝していただけるんですね。やっぱり感謝されると、自分が支えられるのがあって、意識的にやっていますね。

だんだん慣れてきて、海外に行ってもなじめるようになってきたんですけど、もう一つ大きな変化があって、帰国後のふだんの生活が変わってきました。日本でも、行いや態度で海外の人に喜んでいただくということをしなきゃいけないので、こういうのは付け焼き刃じゃだめで、ふだんから自分を磨いていかなきゃいけないぞと。日本でも、非常に行いに気をつける。笑顔も、海外と同じようにやるようになりました。

あとは、日本において、自分が本当に大事なものは何かも分かってきて、レストランに行ったりとか、ぜいたくなものはいらなくて、人とつながることが一番幸せということが分かってきまして。日本で自分を磨いて、また海外に行くことを繰り返ししているうちに、旅も上達し、日本での生活もうまく回っていて、修行が成功しているという話です。

――自分にとって本当に大事なものが、分かってくるのですね。

稲垣: あともう一つ、老後の予行演習でもあって、老いるといろいろなものを失っていくじゃないですか? 失いながらも、その中でどうやって前向きに生きるかが、老後の大変さだと思うんです。海外に一人で行くと、いろいろなことができないというか、言葉も話せない、勝手も分からない、老後と似ている感じがあって。

――まごまごすることが多い。

稲垣: 今も私まごまごしてますけど、その中でどう楽しく生きるかを、旅に行くと考えます。それで人とつながるという目標ができて、そのためにふだんからできることをやっておくと、老後バッチリなんじゃないかなって思うんです。どうでしょう? このよくできた循環。

――稲垣さんの話、きょうもすごいです! 衝撃を受けました。

稲垣: リスナーも結構年配の方がいらっしゃると思うんですけど、この旅行をすごくすすめます。

――修行の旅に。

稲垣: 国内でも、全然いいと思うんです。

――地元の人と笑顔と挨拶でつながって。

稲垣: これはやってよかったことの一つです。

――稲垣さんは、海外で修行して戻ってきて、自分が生活を変えて、一体、何の達人になっていかれるのかなと思ってしまいます。

稲垣: 平穏に生きて死ぬのが一番いいと思っていますが、そうなったらいいなと思いますね。

――ますます笑顔が輝いていそうですね。

稲垣: そんな大したことないです(笑)。
でも、これからも続けようと思うことの一つで、「やってみようかな」という方がいたら、本当におすすめしますね。

――やってみたいです。まずは、国内からでも。

稲垣: 国内からでもいいと思います。

――きょうもありがとうございました。新しい発見がありました。

稲垣: よかったです。ありがとうございました。

【放送】
2023/05/11 ラジオ深夜便「ライフスタイル 令和つれづれ草」 稲垣えみ子さん(元新聞記者)

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